世界の中心は君なんです2






翌朝幸村が目を覚ますと、部屋は今までのものと一変していた。
外へ出てみれば、家は白や水色の外壁に、綺麗な貝殻が付いた可愛らしい建物に。

目の前には程よい大きさの入り江、白い砂浜とエメラルドグリーンの海、
背後には、以前とは違う植物が茂る森に、遠くには虹がかかった滝が見える。


「すごい…!綺麗だな、佐助っ!」
「気に入った?」
「ああ…!」

満面の笑顔で答えると、幸村は浜辺の先へと駆けていく。


「俺様がいないときは、海に入っちゃ駄目だからね?危ないから」
「分かった!」

砂遊びを楽しんだ後は、二人並んで砂浜に寝そべり、傾いていく陽を眺めた。


「これからは、時々こうして場所を変えようと思うんだ。旦那の好きなとこにさ。ここも、飽きたら我慢しないですぐに、…」

話途中で幸村から手を繋がれ、佐助の脈がにわかに速まる。
九も歳上だというのに、彼に対してはいつまで経ってもこうで、初めて出会った少年の頃から少しも成長しない。

そんな佐助に、幸村はあの日と変わらぬ笑みを浮かべ、


「佐助と一緒なら、どこであっても嬉しくて大好きだ。お前といられるのなら、ただそれだけで…」


「旦那…」


佐助の中に、幸せの海が広がっていく。

あの、二人が初めて出会った日。この微笑により、佐助の世界は始まった。
そしてきっと、幸村の世界も。

ゆえに、佐助はその日を二人の生まれた日に定めた。それまでの過去など必要ないから。



「俺様も…旦那といられるだけで…、…幸村さえいてくれれば、俺は…」


「佐助、」

柔らかい砂の上に重ねた手のひらを沈め、自身の名を甘く紡ぐ唇を、優しく塞いだ。


まるで絵画のように美しい世界に、二人。

佐助の言う通り、それからは誰の邪魔も受けることなく、二人の幸せは永く続いた──。

















「いかがでしょう奥様、こちらの商品は?」

愛想の良い男が、やや芝居がかった手付きで周囲を示してみせると、


「ええ、気に入ったわ。昼夜と四季の切り替えだけじゃなく、景色も変えられるのが良いわね」
「ありがとうございます、そちらは新機能でして」

「うちはこのくらいの大きさしか買えなくて、お恥ずかしいですけど」
「そんなことありませんよ。『ドールハウス』は、最安値でも家が買えるお値段なんですから」

そうかしら、と女性客は安堵を見せると、


「今は物騒でしょう?子供を外で遊ばせたくても、ずっと付いて見てやれないから」
「本当に。このタイプは、やはりそういった理由で買われる方が多いですよ。お庭も充分ですし、好きなだけ走り回れます」

「──そうそう、私の知り合いに長く入院している方がいるんだけど…」

「ああ、でしたら『箱庭』シリーズの方がお勧めです。そちらは、家よりも周囲の自然に重きを置いておりまして。空と大地は、ドーム内だというのが信じられないほどリアルですし、より高度な擬似太陽光と循環システムで、本物とほぼ違わぬ──」











「やっぱり、『箱庭』は全然値段が違うのよ。小さいものでも、ドールハウスの倍はあったわ」
「だろうな」

「外国の大富豪が、遊園地仕様のを子供にプレゼントしたらしいけど、家に置けないから地下に設置してるんですって」
「はぁ…すごいんだな」

「シェルターでも作れそうよね。変わりなく生きていけると思うもの。本物と見分けつかないし」
「ふーん…」

夫の生返事に、妻はムッと、「聞いてる?」


「ああ、ほら…この事件。また、懸賞金上がったなって。この犯人見つけりゃ、箱庭もポンと買えるよなぁ」
「無理でしょ、警察も諦めムードだし。何だか、親より近所の家の方が血眼になってるんですって。すごいお金持ちで、それで額が上がってるらしいわ」

妻は顔をしかめると、「こういうことがあるから、外で遊ばせたくないのよね」

夫も、それには深く同意し、


「これだけ可愛い子だもんなぁ。…誘拐されてから、十年か。可哀想だけど、もう生きちゃいないだろうな……」






『魔法』なんて信じる者は皆無に近い、科学が熟しきった世界。


それも彼にとっては全て、『本物』を手に入れるための布石でしかなかったという、とるに足らぬ話である。





世界の中心はなんです






‐2012.7.28 up‐

お題は、朗様運営の【(パレード)】様から拝借、感謝^^

朗様、お誕生日おめでとうございます!勝手にこんなものを贈り付けてしまい、本当にすみません; お恥ずかしや。

この素敵お題は、ほのぼのやギャグも似合いそうなのに(--;)↓長文補足。

佐助は、就寝前や特別なときに『幸村』と呼びます。彼以外呼ばないんで、下手したら、旦那自分の名前忘れちゃう…ってのも; まぁ、佐助にとっては、いつでも特別なんですが。
慣れなくて私が緊張します;佐助の『幸村』呼び(捨て)。シリアスものでは、ほぼ初めて。

冒頭のお題は緑と赤を逆パターンにしており、佐←幸の方を強調…な意味で。佐幸ラブラブのつもりが、そんな描写が少なくて無念。

分かりにくいオチですみません。佐助、単なる誘拐犯でした。
5歳&14歳で出会い、佐助は天才少年で、発明家みたいな。小さい頃からやってて、ドールハウスと箱庭の儲けで、億万長者。

旦那を誰にも見せたくないけど、自分を悪者に思われたくない、閉鎖的なとこで健康と精神を害したくない、このままの彼を自分だけのものにしたい。てことで、でっかい箱庭作成。今回、新機能『引っ越し(中身丸ごと変更)』を追加。

旦那は、ご近所の大邸宅と懇意にしてました。伊達家かなぁと思いつつ、そしたら政宗が可哀想かな;と。なので、自由設定。武田家や前田邸の可能性も。

仕事や買い物は全部ネットで。箱庭のすぐ上に隠れ家。注文した品は、信頼できる人物(洗脳済み)に持って来させてます。で、薬とかだけは自ら街に赴く。

他者と、なるべく関わらないようにしてます。佐助にとっても、箱庭の世界が現実なので。(旦那を騙している、との現実から脱するため…も無意識に)

旦那は知らないものだらけ(幼少の記憶は、自然に淘汰された)なので、何でも『魔法』に見えます。
侵入者は、懸賞金目当て。

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