「旦那ー!」

「佐助!!」


満面の笑みで、俺様の胸に飛び込んで来た、愛しい愛しい恋人。

二人だけしか知らない、秘密の待ち合わせ場所。だから、彼も恥ずかしがらずに、思い切りくっ付いてくれる。


──何て、幸せなんだ。


しばらく、自分より少しだけ小さなその身体を抱き続けた。

この感触を、全身に刻み付ける。全てを、記憶する。常に、すぐさま思い出せるように。

俺が、俺であるために。



「持って帰りたい…」

はー…っと、深い溜め息をつくと、


「終われば、また以前のように、いつでも会えるのだから」

と、旦那は笑う。


「これがなけりゃ、ホントやってらんないよ。仕事も…出張も。一日一日が、そりゃー長ぇの何のって」

「そうか…そうなんだろうな」

「俺様、旦那より七も上なんてさー…。ちょ、こないだ会ったときより、老けてない?大丈夫?」

「たった一年で、そんな老けるか?それに、顔はいつも見ていたのだから」

「いや、実際会うのとでは違うかも知れないじゃん」

「大丈夫だ。お前は、いつまで経っても格好良い。多分、もっと歳を重ねても」

「…っ、どーしたのよ旦那。明日、雨でも降るんじゃねーの?」

「い、一年振りなんだ…良いじゃないか…」


──と俯く姿は、本当に殺人級!もちろん、俺様限定。


「…佐助こそ、俺のような子供…嫌にならぬか…?」

「旦那、世の中で一番無駄な行為よりも無駄な行為なんだよ、その質問は」

「…そうか」
「そうだよ」

「──あ、これ今回のお土産。…俺様特製、お菓子詰め合わせ」

「おおっ!ありがとう、佐助!…俺からは──これだったな」

と、小さな箱をくれた。

俺様は、「ありがとう」と、にこやかにそれを受け取る。


それから、色んな場所に行って回った。

二人でよく遊んだ公園、昔住んでた家があった空き地、小学校、中学校、高校…。

小さかった旦那。
いつも俺様を見上げてた旦那。

背がほとんど変わらなくなった頃、伝えたあの日。…今でもよく思い出せる、旦那のあの表情。


「ここで、思い切り愛を叫んじゃったんだよねー…──旦那が」

「……っ」

「俺様、最っ高に幸せだったよ。ホントあれこそ正に、狂喜乱舞ってやつ」

「…確かに。あの日のお前は、すごかった。驚くほど……格好悪かったな」


旦那は、思い出したように吹き出した。


「最高に幸せだけど、最大の汚点だよね、そこだけは」

「俺は、あれでますます、お前が好きになった」

「…旦那、そろそろ俺様限界かも知んない。色々と」

「相変わらずだな、お前は…」


頬を赤らめ、…だけど、きちんと俺様の目を見てくれる。


愛しくて、愛しくて、たまらない。一年前より昨日より、ついさっきの瞬間より、また増える。


一年振りだけど、そこはもう大人──果てしなく優しく、丁寧に、慎重に、その身体を愛した。

…ただし、ギリギリまで離すことはなかったけど。



刻むんだ
旦那に 俺様に

記憶しろ 全てを
俺が 俺で ある ため に


ずっと傍にいられるその日を迎えるまで、そうしていられるように



「俺は休みだし…気にせずに、すれば良いのに。また、しばらくは会えないのに…」

「おお〜積極的だねぇ、旦那」

「…馬鹿者」


俺様は軽く笑って、


「──ありがと。充分もらったよ。充電完了。明日から、また…」


その先をついためらってしまうと、旦那が俺様を抱いてきた。


「…ずっと待ってるから。お前を…」

「旦那ッ…」


──俺様も抱き返す。


「ごめんね、いつも寂しい思いさせて。俺様だけじゃなく、旦那だって寂しいのに」

「……佐助……」


それから、しっかりと旦那の身体を離さないまま、二人で眠った。











──ゆっくりと、目を開ける。

時計を見て、


(…やっぱこの時間。言い伝えってのも侮れない…)


デスクの上に置いていた、旦那へのお土産がなくなっている。

旦那からもらったプレゼントを開けると、小さな赤い石が入っていた。


(…また、お願いしなきゃな)


玄関に行き、仕掛けておいたものが微動だにしていないことに、息をつく。


(大丈夫だ…。今年もちゃんと調べた…何ヶ月も前から。病院にも通って、安定してるって言われたし)


この石の保管場所は、俺様は知らない。毎年、ある人に頼んで隠してもらってる。

知らない間にその人を尾けてたりなんか、してないはず。とことん調べた。

大丈夫。──俺様は、正常だ。






(だから……夢じゃないよね?)



だって、こんなに残ってる。
身体にも、──心にも。



(旦那は、絶対会いに来てくれてたよね…?)





愛するあなたがいなくなって、今年で七年。

同級生だったのに、どんどん俺様ばかりが年上になっていく。

気が遠くなるほどの、長い毎日。
仕事も出張も、全てこの日のためだけに続けている。


…気が触れてしまわぬように。


自分で終わらせてしまえば、あなたと同じ場所へ行くことは叶わない。

だから、その日が来るのを心待ちに、終わりまでの刻を在り続ける。

あなたを、愛し続けながら。



(旦那は、相変わらず優しいね…)


石を手の平で包み込み、キュッと握る。


(大丈夫…。俺様は、大丈夫…)


だって、確実にそこへ近付いてはいるんだから。



(今日は、快晴なんだ。良かった…)


俺様が手渡すお土産の袋は、毎年、決まって翌日に、あの場所へ綺麗に畳まれて置かれている。

それを回収した後は、花を買って話し掛けに行くとしよう。



「待っててね。…旦那」







( いつもいる。…大丈夫 )






‐2011.9.7 up‐

お題は、【biondino 様】

から、お借り致しました。ありがとうございました(^^)


丑三つ時。

またも、お題に対するヒドい妄想;

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