「…な……旦那……」


(……?)


「ねぇ、起きてってば」
「…佐助…?」

寝ぼけ眼で、むくりと起き上がる幸村。

「どうしたのだ…?」
「見てよ──ほら!」

佐助が、窓のカーテンをサッと引くと、まだ夜なのに明るい光が射し込み、


「うぉぉぉぉ…!」


──眼前に広がる、一面の銀世界。


十歳を越えたばかりの二人を惹き付けるには、充分過ぎるほどの情景だ。


「ちょっと、外出てみようよ!」
「しかし、叱られやしないか?」
「大丈夫だって、静かに出れば。すぐ戻れば良いし」
「そ、それもそうか…」

幸村も堪えられないように頷き、佐助に続いた。


「すごいなぁ、佐助!」
「うん!綺麗だねー…」

雪は、脛が少し埋まるほどに積もっており、空からもハラハラと…


「明日、雪ダルマ作ろうな!」
「いーね!俺様、他にも色々作ったげるよ、ウサギとか」
「待ち遠しいな…!」
「もっ回寝れば、すぐだよ。…じゃ、そろそろ戻ろうか」

「ちょっと待て、佐助」

「旦那?」

戸惑う佐助を尻目に、幸村はそこから少し離れた場所へ駆けると、


──そのままゆっくり、雪の中へと倒れ込んだ。


「旦那っ?」


佐助が慌てて近付くと、幸村は仰向けの状態で大の字になりながら、

「一回やってみたかったのだ!」

と、明るく笑う。


「佐助もやってみぬか?ここ、柔らかい…」

幸村の言葉は、途絶えた。


「…佐助?」

「………」


──佐助が、幸村の上から被さっている。


まるで、抱き締めるかのような形。

その表情は見えない。顔は、幸村のすぐ耳横で伏せられていたからだ。


「…あったかい。すぐ溶けちゃいそうだね、この辺。さすが旦那」

「佐助…?」


「………」

佐助は、ギュッと力を込め、


「旦那まで溶けないでよ?…お願いだから」


(……)


幸村の脳裏に瞬時に浮かんだ、鮮やかな花。…教室の机の上で咲く、弔いの色。


「…怖い夢みた──旦那が、俺様の横にいないの。絶対いなくなんないで、旦那…」

「大丈夫だ、佐助!俺はここにいる。絶対いなくならない。お前よりも頑丈なのだぞ?そのような」


「ホントに?」

佐助は、やっと幸村に顔を見せ、

「これからも、いなくならない?俺様の前から」


「ああ!当たり前だ」

「俺様の傍にいる?ずっと?どこにも行かない?」
「行くわけがない」
「約束?…破ったらどうする?」
「絶対あり得ないから、必要ない」

「旦那…!」

佐助は、満面の笑顔を浮かべた。

幸村がこれまで見て来た中で、一番のものに思える。

つい釣られて、同じように笑っていた。


「俺様も絶対離れないよ、旦那から」

「おう」

「だから、約束ね。旦那は絶対、俺様の前からいなくならない。ずっとずっと、俺様の『傍』にいる。どこにも行かない。『俺様から』、離れない」


「ああ」

「約束だよ。…絶対」


二人が去り、その跡に出来た窪みに、新しい雪が積もっていく。


…幸村が、佐助の言葉の真意を知るのは、これからまだまだ、ずっと先のこと。





夜中の3時は白く染まり始める

( 真夜中のプロポーズ )






‐2011.9.7 up‐

お題は、【biondino 様】

から、お借り致しました。ありがとうございました(^^)


私のせいで、黒か白かはっきりしない、佐助。いつも灰色な…。

旦那に対する気持ちは真っ白で、そのせいで他へは真っ黒になる。のだろうなぁ、とか。

最初は黒くしようとして、しなかったというかできなかったという。旦那へは絶対服従にさせてしまう、やっぱり…!

夜明けを感じさせるお題なのに、無理やり雪に(@゚▽゚@)
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