同じ会社勤めの慶次と幸村は、ただいま中距離(電車で数時間)恋愛中。

先輩の慶次が新入社員の幸村に猛アタック、約半年で成就──後、すぐに慶次が転勤。その地域には彼の住む実家があり、通勤面では大分楽になったのだが。

時間が惜しいため、会うのは中間地点の街、二人とも残業がない日の夜や、たまに合う休日に…がスタンダードに。
堅苦しい雰囲気の会社ではないが、とにかく忙しい。なかなかゆっくり会えぬまま、たちまち月日が過ぎた。

幸村は内心かなり寂しく思っているのだが、慶次が毎日『会いたい』『さみし〜』『好きだよ』その他、人前では絶対に開けないメールを送ってくるので、愛情の面では満足以上だった。


『こっち来てもう一年だよ〜、あっという間』
「そうですな…」

二人のこの関係も、間もなく一年が経つ。

慶次は記念日好きで、誕生日やクリスマスなどは、欠かさず幸村を喜ばせてくれる。が、彼の誕生日は仕事で、後日も大したことが出来なかったため、幸村は『リベンジ』を狙っていた。

「慶次殿、△△日は…」
『あ、その日!そっちで会議の後、直帰で良いって。幸は?』
「某も、定時に上がれそうで」

幸村は頬を熱くし、ケータイを握り直すと、

「よ、良ければ、うちのアパートに寄って行かれませぬか?」
『えっ?』
「いやあの、せっかく時間があるので…狭い部屋ですが、少しはゆっくりできるかと、」

『……あ、じゃ…何か摘まむもんとか一緒に買って、』
「こちらで用意しておきまするので、慶次殿は来てくれるだけで」

『ぁ……りがと』

「………」
『………』

沈黙が流れ、幸村は『確実にバレたな』と項垂れる。
正しくその日こそが二人の一周年記念日で、サプライズは叶わなかった。…が、幸村もその覚悟の上だったので、

「何が食べとうござるか?…あ、手料理ではないのでご安心を!」
『や、そんな、…いーの?』
「はいっ!あと、欲しいものなどあれば、」
『…でも、誕生日ももらったしさ…』

遠慮する慶次に、幸村なりに必死で食い付いた結果、


『じゃあ飯は任せるとして、欲しいものは、俺の大好きなデザート…ってことで』

「…慶次殿……」

彼の好きなデザートというのは、つまりは幸村の好物ばかり。いつも、『これ好きでさ〜』と幸村への手土産として持参する。

これでは、また自分の方が良い思いをさせられる…幸村はいささか不服だったが、慶次はこういうことに関しては、一歩も引かない。

そこは手早く諦め、他のことに力を入れようと決めた。いつもよりゆっくりとはいえ、あまり帰りが遅くなっては翌日に差し支える。

気合いを入れつつ、幸村は胸を躍らせていた。













記念日の前日、慶次にはああ言った幸村だが、手料理を用意しておいた。
初心者のメニューだが──彼のことだ、何でも喜んではくれようがな…と、一人自惚れ照れたり。

デザートも飲み物も完備、あとは慶次の好きなテレビ番組でも見ながら、ゆっくり過ごせば良い。

当日、幸村は朝から楽しみでならなかった。


なのに……










「慶次、ほんと久し振りだよなー!」
「元気してる〜?どぉ、そっちは?」
「先輩、向こうで迷惑かけてんじゃないすか〜?」

「おー元気元気!一応、遅刻だけはしてねーよ?かんぱ〜い!ありがとな〜」



「………」


──会社近くの居酒屋にて。

慶次を囲むのは、彼の同期や後輩の社員…幸村にとっては、先輩・同僚に当たる者たち。
慶次は上機嫌で、酒のペースも早い早い。

反して幸村は、複雑な顔で彼をチラチラ見ている。

…何故こうなったかというと、今日の昼過ぎにメールが入り、


“○○たちと盛り上がって、今日飲み会になっちゃった。ちょっと顔出すだけだから、幸も一緒に……”

他の社員とは本当に久し振りだろうから、『仕方ないか』と幸村も了承した。早めに切り上げれば、と。


だが、二時間近く経っても、慶次は腰を上げず……










「ゆき…っ」
「………」

走って来た上、酒もしたたか飲んでいる。慶次は息を切らし、開かれたドアから玄関へと入った。


「かっ、てに、帰んなよ…」
「………」

「…上がっても良い?」

幸村は無言だったが、部屋の奥へ引っ込んでいく。「お、お邪魔します…」と、慶次は下手な態度で上がった。

途中の台所を通ったとき、それが目に入り、

「幸、これ…」
「…もう入りませんでしょう。某も一杯なので、明日食べまする」

静かに言う幸村に慶次は呆然とし、「手料理じゃないっつってたのに…」

「違いまする、全部買ったものですので」

幸村はそう言うと、「明日もありますし、もう帰られた方が」と、背を向けた。



「ごめ……まさかこんな──本当にごめん!」
「……っ…」

慶次に抱きすくめられ、幸村は抗うように身を固くする。

口を開けば罵ってしまいそうで、ぐっと閉ざした。一人勝手に浮かれていた自分は、本当に無様過ぎる。



「ごめん……頼むから口きいて?なぁ…」
「──…」

哀れっぽい声に、幸村の籠城は間もなく陥落し、

「…顔を出すだけだと申されたのに」
「うん…まさか、こんなごちそう作ってくれてるとは思わなくて」

「ご、ごちそうでは、」
「つか、今からでも食えるし。…ダメ?」


(ぐ……)


幸村の力は、たちまち抜けていった。
自分は、何故こうも弱いのか。彼の甘える声やその顔の前では、何もかもが脆く崩れ去ってしまう。


「一周年とか、絶対忘れてると思ってさ。で、明日休みだろ?だから、明日デートにでも誘おうかと思ってたんだけど」
「…っえ?」

「俺も珍しく代休取れてな?したら、幸から嬉しいお誘いもらえて。俺、調子乗っちまってさ」
「……?」

今日の飲み会のことだろうか?と首をひねる幸村。お陰でモヤモヤしていたものが端に寄り、慶次に顔を向けられた。

慶次は、それに安堵を見せ、


「実は…わざとダラダラしてた。幸ん家来るの、もっと遅くしたくて」
「……はい?」

また眉が寄る幸村だが、慶次はやはり面目なさそうに、

「だって、一周年じゃん?」
「そうですな…?(ですから…)」

「いつも店で会うだけで、幸ん家に呼ばれたのなんか、初めてだし」

「…はぁ……」

今は中距離恋愛の身、付き合う前の半年も、慶次の実家は遠いしお互い多忙だしで、彼のアプローチといえば仕事の合間がほとんど。で、機会がなかったのだ。

小首を傾げる幸村に、慶次はますます言い辛そうに、


「ナチュラルに持って行きたかったんだけどなぁ……幸、今何時?」

「え?──えっと……」





終電を逃すにはまだ早い21時






「初めてのお邪魔で、いきなり泊まらせてって言えなかったんだよな…(特にお前だから)」

「…そ、それならそうと…明日休みだというのも、早く教えて下されば」

「びっくりさせたかったんだって。…喜んでくれるかなーとか、思って、さ」

「え、…っ!?」

慶次に抱えられたまま歩かれ、驚く幸村。しかも着いた先は──ベッドの上。

瞬かせる幸村だが、覆い被さる慶次の妖しい笑みに『まままさか』と、


「け、けいじどの?酔っておぉられれ…」

「あれくらいで酔わねーよ。だって、元々このつもりだったし」
「は…!?」

赤面し慌てる幸村に、慶次ははにかむように笑い、


「『食べたいもの』『欲しいもの』って…これしか浮かばなかったからさ」

「ん…っ…」

優しく口付けると、慶次は幸村の結われた髪をほどいていく。

初めての展開に茫然となる幸村だが、それは目の前の瞳こそが原因であるように思えた。
指先や唇は甘く優しいのに、その双眸だけは…

──やはり、いとも簡単に脆く砕かれていく。




「『デザートを』と、言っておったのに…」

「……(やっぱ通じなかったか)」


『全部は食べねぇから』と優しくなだめ、慶次は大好きなデザートをたっぷりと頂いた。

…デザートは散々甘く調味され、結局翌日は、(今度は手料理をじっくり味わう)お家デートになったということだ。







‐2012.12.29 up‐

お題は、【biondino】様より拝借・感謝^^

『こんな感じの話』と一年以上前から思ってたんで、勢いで書いてまた会話ばっか、ザーッと終了。なものに(--;) 社会人になってまで何をチンタラしてんですかね、この二人は。管理人のせいで。

慶次が会社勤めって似合わない〜はスルーで。二人みたいな長髪でも許され、ノータイな服装なフランクな会社とか。適当過ぎてすいません。

(初めてだし)全部は食べねぇからとか言いながら完食してても良いし、紳士らしく自分は我慢して幸村に大サービス、しかし幸村それでも足腰立たなくて翌日はお家に…でも、どちらでもニヤニヤ(^m^)

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