「こんばんは」

「──ぇっ…」

まさか自分への挨拶だったとは思わず、幸村は目を広げ相手を見上げた。

女性のようなポニーテールの長髪が目立つが、幸村よりずっと長身で精悍な青年である。簡単に警戒心を解かされそうな、人好きのする笑顔を見せると、


「いつもこの時間、ここ通るよな?…実は、ずっと見ててさ」
「………」
「俺、前田慶次。今高二で、今日十七になったばっか。でも、よく高校生より上に思われるよ。外見だけだけど」

「…あの……」

幸村は当惑気味に目を泳がせるが、その表情に嫌悪は見えない。
「ちょっと時間ある?」と慶次が尋ねれば、彼はおずおずながらも頷いた。

もう間もなく発車するバスに乗り、二人で一番後ろの広い席に座る。郊外行きで、他に客はいなかった。


「…あ、某は真田と申しまする」
「うん、知ってる。名前は幸村だろ?」
「──…」
「な、ゆきって呼んで良い?てかもう、そうしてんだけどな。あんた見たときから、ずっと」

「い、いつ…」

驚く幸村だが、慶次はただ笑むばかりで、

「幸も、俺のことずっと見てくれてたじゃん。いつもあそこにいるのは、俺が毎日あの時間に通るからだろ?」

「………」

幸村は再び呆然とし、「気付かれて…」
それに、慶次はさもおかしそうに吹き出すと、

「あんなにジッと見つめられて、気付かないわけないよ。俺も同じくらい見てたのに、分かんなかった?」

「…まさか、某だとは思わず…」
「やっぱり?そうなんじゃねーかと思ってたんだ。でも良かった、勘違いじゃなくて」

とか言いながら、ほんとはかなり自信あったけど…、とイタズラっぽく笑えば、幸村が頬を染める。


「実を言うと、きっかけは親戚からのメールだったんだけどな。添付の写真に、偶然幸が写っててさ」

「──ぁ、あのときの…」

そうそう、やたらうるさい夫婦がいたろ?と慶次は苦笑した。
その様子に、幸村の表情は和らいでいく。


「俺の気持ち……分かってくれた?…幸も、同じなんだろ?じゃなきゃ、あんなにずっと…」
「…しかし……、某は…」

「うん、だからさ」

慶次は朗らかに、「話しかけるの我慢してたんだ、幸よりもっと大きくなるまで。どう?背は元々高かったけど、もう大人と変わんないだろ?」


「慶次、殿…」

あっ、やっと名前呼んでくれた。
慶次は無邪気に言い、照れに頬を緩める。

幸村は、それに力を抜かされ、

「歳は…気にしておりませんでした」
「え、そーなの?」

「…関係なく、惹かれてしまいましたので」

控えめに告げ、所在なさげに窓の方へ顔を向ける幸村。

慶次の頭の中は、『わーぉ』『まじで?』などと、大変なお祭り騒ぎである。
それを、どうにか少しは抑えると、


「でもまぁ、どっちにしろそのつもりだったから。見た目だけでも、格好付けたくてさ。で、どうせなら誕生日にって」

「そのような…」

こんな自分のためなどに、と言いかけた幸村を、慶次は優しく目で制す。
申し訳ない思いの中、幸村は、やはり望みの方が上回ってしまうのに逆らえなくなる。

バスは山道に入ったらしく、揺れが目立ってきた。カーブの度に、二人の間の距離がゼロになる。

幸村は、言い様のない気持ちから瞳を潤ませるが、慶次はニコニコと、偽りなく幸せそうに笑っていた。



「慶次殿……本当によろしいのですか?」

「よろしいも何も。俺の方が、『お願いします』だよ。…ありがとな、幸」


運転手の目に届かないよう二人は手を繋ぎ、唇を寄せ合った。





18:40に決まって通る君を






「ほら、五年前にあったじゃん…××で、転落事故。乗客全員亡くなった、あの。それに乗ってたんだよ、ご両親も親戚も、仲良かった友達も皆」

「そうだったんだー…。あんなに明るいのに」

「あ、でも落ち込んでたけど、すぐに立ち直ったよ。それ以来は、ずっとあんな感じでさ」

彼らしいよね、と彼女は笑い、


「好きな人が出来て、希望が持てたみたい。もー、早くコクれば良いのに」

「そっか!それが例の『ユキ』さんなんだ。…ホント、何年かかってんだか。てか、いい加減本人見せて欲しいよ」

その場にいない彼を明るく冷やかし、女子高生二人の話題は、また別のものへと移った。


彼女たちが去った後、街頭テレビのモニター画面に、ニュース速報が入る。

五年前と同じ場所でバスが転落し、運転手は軽傷、『唯一』の乗客は、運悪く亡くなったという報せであった。





:

( つかまえた )






‐2012.12.5 up‐

お題は、【biondino】様より拝借・感謝。

最後死ネタですみません。それ以前に、分かりにくい内容申し訳ない。

五年前、同じ頃の出発時刻のバスに乗り、慶次の親たちは事故に。小旅行で、彼だけ何かの因果で行けなかった設定。
冒頭の二人の出会いは、駅のバス乗り場。

同バスに幸村も乗ってて、成仏する前に偶然慶次(大泣きしてた)を見かけ、気になってたら機を逃し、あそこに居着いてしまった。

慶次があの時間に乗り場に通うのは、何かで『幽霊は逝く前にとった行動を繰り返す』と聞いてから。大好きな人たちに会いたくて。
そこで自分を見つめるお兄さんを発見、メールの写真と一致、名前調べた。幸村は、まさか自分の姿が見えてるとは思ってなくて。

幸村は、当時十七歳。なので、慶次は同じ歳の誕生日に、自分にプレゼントすることに決めた。
そんな流れでした。穴だらけですいません。

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