大学ってとこは、高校と全然違うんだな。授業にしろ、雰囲気にしろ。
あ、授業じゃなく講義か。で、先生じゃなく、教授?何か、そう呼びたくなる先公も、特にいねんだけど。

何が一番違うって言えば、やっぱ、飲み会があるってことだよな。
四月だけで、歓迎会から数えて何回あったっけ?先輩らが多く出してくれるっつっても、こうもあると…

──でもまぁ、行くんだけどよ。

何でって、そりゃ…早く同じ学科の奴らと仲良くなりてぇし、それに…



「まだ飲みたい〜。元親くん、付き合ってよ〜」
「お、おお…?」

学科の中でも、一番可愛いと評判の女。
その彼女が、信じがたいことに、今俺に甘えまくり状態だ。

酒って、何て素晴らしい飲み物!今ほど、散財が報われたと思った瞬間はねぇ…!


「どーする?てか、俺店とか知らねぇし…」
「私のアパート、ちょっと遠いんだよね。元親くんの家は?」


(おいおい!そりゃお前…!)


…実は、俺はこう見えて、案外見た目通りの奴じゃなかったりする。

高校まで、野郎共とつるんでばっかいるのが楽し過ぎて、気付けば彼女なんて一人もいねーまま卒業しちまった。
別に、後悔なんざしてねぇけど…

彼女を見てみれば、やっぱり一番なだけあって、めちゃくちゃ可愛い。

何か異様に緊張するし、部屋で二人とか、何喋れば…いや、今も二人きりなんだが、そんな狭ぇ部屋でそんな。

──とか悶々としてたくせに、気付けば既にアパートの前。


(やべぇ…ますます緊張してきた)


何か、頭ボーッとするし視界も淡い。これが恋ってやつか?どうなんだ?


「良い感じのとこだね。元親くんっぽくて、カッコい〜い」


すんません、俺全然カッコ良くないんです、実は。恋愛ビギナーどころか、初恋すらまだなんです。どうすりゃ良んだ。こんなことなら、もっとまともな青春送っときゃ…


「…ねぇ、近くで見て良い?その蒼い目…」


彼女が、下から俺を覗き込んで来た。
緊張が治まらねーが、とにかく平然そうに従うしかねぇ。

身を屈めると…



「──冷静なんだ。…さすが」

クスリと笑う唇。



(………あり?)



自分の中で起きた突然の理解に気を取られ、その気配に全く感付けなかった。


──よく知るあいつが、ポカンとして立っている。


「おう、珍しいな、まだ起きてるなんざ?」
「え……?」

彼女が、怪訝そうにそいつ──幸村を見るので、

「あ、こいつな、俺の…」

と、奴を見てみれば、顔を真っ赤にして口をあわあわさせている。

声は出ていないが、その顔と口は何年も見て来たので、よく知ってる。


──ヤバい。


すぐに察知し、俺は幸村の口を両手で背後から塞いだ。前も後ろも固めとかねぇと、このときのこいつは、手におえねーからだ。

破廉恥!!という絶叫は消し、


「…アホ。近所迷惑だろが」

と呟けば、大人しくなり肩の力を抜いた。


そして彼女へ、

「あのよ、こいつ…」
「──何だ。彼女いるんじゃん」
「は?」

「ね、大丈夫?私、恨み買われたくないし。ちゃんと誤解のないよう、説明しといてよ?…じゃ」
「お、おい?帰り…」
「タク拾うからいーよ。バイバイ」

彼女は、さっさと姿を消した。…多分、かなり気分を悪くした様子で。


(彼女…?)


首を傾げながら幸村を見ると、何故かパーカーのフードを被り、後ろの長い髪が、両肩から胸にかかっていた。


(こいつのことか…)


たちまち脱力したが、同時に笑いも込み上げてくる。


「元親殿…?」

キョトンとした顔で見上げる幸村。


──ああ、そうだな。この暗闇で、声聞かなけりゃあ、そう思っちまうかもな…


「…お前、キスシーンとか想像できるくれぇは、成長してたんだな」
「っ!は、破廉恥なっ。元親殿は、いつも」

幸村と俺は、高校からの付き合いだ。アパートも同じとこを借りた。

恐らく、一緒にいて一番退屈しねぇ相手。
まぁ、恋愛に関しちゃ、俺もこいつのこと言えねー立場なんだが。


「それ、何だ?んな服、持ってたっけ?」
「親しくなった学科の友人が、下さったのです」

フードに、動物の耳みたいなのが付いている。変わった服だな…

「けど、何でだ?誕生日でもねぇのに」
「さぁ…」

と、幸村は首を傾ける。

「何だろうな?でも何か、可愛いなそれ」
「!!?」
「お前、よく似合うぜ。良かったな、イイもんもらえてよ」
「…!…!?」
「ん?どしたぁ?」
「い、いえ…!」

その慌てるような顔はよく分からなかったが、ちょっと前までの、あの慣れない空気から、やっといつもの感じに戻って来られた気がしていた。


(…やっぱ、これが一番落ち着く)



『──冷静なんだ…』

あの笑い方は、俺には無理みてぇだな。
綺麗なんだろうが。



「おりゃ、こっちの方が良いわ」

幸村の頭に手を乗せれば、いつものように温かい。


「てか、何で外いたんだ?んなモン被って。不審者と思われっぞ」

(まぁ、ぜってーそりゃねぇだろうが)


「元親殿の姿が、窓から見えましたので…。まさか、女性と一緒だったとは気付けなくて」

「あー、同じ学科の奴だよ。送る途中だったんだ(…ってことでいーや、もう)」

「………」

「何だ〜?もしかして、焼きもちかぁ?」
「はぁ!?」
「じょ、冗談だって。何ムキんなってんだよ」
「あ──いや…」

「俺よ〜、やっぱまだまだみてーだわ。…ま、二人でゆっくり頑張ろうぜ?脱ドーテ…」


──無言で腹に一撃。

普段鈍感のくせして、こーいうときだきゃ鋭い。


「全く、元親殿は…。これも、ウケ狙いで被ったというのに、笑うどころか…」

ボソボソ何か言ってたが、よく聞こえなかった。


…一緒の大学来て、やっぱ良かったな、とか。

俺は、口が裂けても言えなさそうなことを、らしくもなく考えてしまっていた。自分が自分で、恥ずかしい。


「──無理したってな。お前といると面白ぇし、充分充実してるわ」

「それは……某も同じくでござる」


そう笑う顔を見て、やっぱそのフードは可愛いんだな、と改めて思った。





魔法がとけた午前0時

( なのに、清々しい )






‐2011.9.7 up‐

お題は、【biondino 様】

から、お借り致しました。ありがとうございました(^^)


魔法→人生初の、女の子とのドキドキシチュエーション。

お題に対する考えがヒドい;

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