過去の成功例から『告白がうまくいくらしい』とされる場所──どこの学校にも、一つはありそうなジンクスだ。

この高校で密かに囁かれていたのは、『放課後の屋上』
だが立入禁止であるので、実際やるのはよほど自信のない、藁にもすがる思いを抱えた少数派たちだった。

放課後は放課後でも、夕陽が綺麗な日を選んだ方がより良いらしい。
ムード的な意味でもあるが、こちらが夕陽を背にすると、光のせいで相手から己の表情は見えにくくなる。それで、少しは緊張が解けるのだとか…











今日は見事な夕焼けだ。

扉を開けた途端、強い緋色の光に目を刺された。空は橙に染まり、幸村はしばしそれに見惚れてしまっていた。


「佐助…?」

屋上を囲う柵の前に立つ人影を窺うように、控えめな歩調で近寄る。逆光で、よく見えないのだ。


「うん。悪いね、急に」

聞こえた声に、幸村はホッと安堵を抱く。

「どうした?」
「ここなら、誰にも聞かれないから」

佐助は、いつもの気安い調子で、

「旦那さ…俺様に、何か言おうとしてることあるでしょ」

「…ぇ……」
「やっぱね。俺様が気付かないわけないじゃん」

「……」

詰まる幸村を、佐助はほぐすように笑って、

「旦那は知らないだろうけど、ここ密かに有名な場所なんだぜ?放課後の屋上は、『告白』がうまくいくんだってさ…」

だから、俺様に話して。
いつ話そうかって、ずっと悩んでたんだろ?今なら、二人だけだからさ。


佐助の優しい声音に、幸村の肩がゆっくり下がる。…どうやら、知らぬ内に力がこもっていたらしい。

だが、幸村は言葉探しに手間取ってしまう。佐助は『しょうがないなぁ』と言うときに見せる、クスクス笑いをすると、


「じゃ…旦那が照れずに話せるように、俺様も一つ『告白』したげるよ」
「え?」

「痛み分けね」

静かに、少し間を置き、


「俺様、旦那のことが好きなんだ。……旦那が女だったら、もっと早くに言ってた。そういう意味での『好き』ね」


「──…」

絶句する幸村を、佐助は変わらず見えない顔で笑うと、

「びっくりした?でも嘘じゃないよ。冗談じゃなく、生まれたときからそうだった」
「………」

「まー…『好き』って可愛い表現は、いまいち似合わないけどね。…たとえばさ、旦那が恋したら、…恋人ができたら、……結婚したら……」

俺様、もう生きてけないだろうなぁ。──そんくらいには。


佐助は背後の柵に背を付け、両手を軽く置いた。柵は、腰より少し上にくる程度の高さだった。



「佐助…」

「旦那、最近××と仲良いよね」
「……ぁ…」

「俺様目ざといからさぁ。見ちゃったんだ、二人きりでいるとこ」

佐助の顔は、未だ窺えない。
彼の背の後ろで、ゆっくりと赤い陽が落ちていく。


「はい。じゃ、次は旦那の番だよ?」



…優しいから、きっともう話せないだろうけどね。

でも、優しいからこそ話すのかも知れないな。
旦那のことだから、泣いて謝って……



(そんな必要ないのにね)





柵の上を、影が踊った。















乾いた音が響く。


無意識の内に、片手が出ていた。

手のひらが熱い。
思いきりやってしまったらしい。目の前の頬は赤く腫れている。


「ふ、ざけ…るな…ッ…!」

自分では怒鳴ったつもりが、震えた声にしかならない。

言い様のない恐怖が、腕をも震わす。
柵を乗り越えようとした身体を無我夢中で捕らえ、そのまま馬乗りになった。


「…にを、考えて……っ」
「………」

「冗談でもするなぁッ!こんな…っ、こんな──」



「……痛い」

ただポツリ呟くだけの反応に、カッと怒りは増し、


「当たり前だろ!アンタ何考えてんだよ!?」

再度込み上げた衝動を抑え、佐助はその手を降ろした。

「俺様を殺す気…?さっきの話、ちゃんと聞いてた?」
「………」

幸村は無言で佐助を見つめ、暫時はそうしていたが、


「ちゃんと聞いていた。だからだ」
「は?」

「…お前、同じことを俺に言ったのだぞ」


“もう生きてけない──”



「…あれは……」
「冗談だったと申すか?」

「………」

佐助は押し黙る。

幸村の表情はとても静かだ。夕陽の赤を浴び、綺麗だとさえ思った。
こんな彼は初めて見る。

こんなにも怒りに染まった、彼の目は。


「ごめん…」
「………」

「ごめん、──ごめん…」


(馬鹿だ……)


幸村の腫れた頬を撫でると、涙が出そうになった。己の愚かさと、彼の優しさに。

佐助の腕が緩んだのを見て、幸村は身体を起こし、立ち上がる。
眩しさに目を細め、佐助は彼に向かった。
逆光で陰り、幸村の顔ははっきり窺えない。


「知っておったよ」
「え…?」

「『放課後の屋上』……それと、『何の』告白のことか、というのも」

「…そう…なんだ……」

うむ、と幸村は頷くと、


「××殿に教えて頂いたのだ」

「へぇ…」
「想いが叶ったのは、ここであったから──かも知れぬと」

「そっか…」


(××も、ここで旦那に…)



「相手は、俺が親しくしておる部の後輩で…決行前に色々尋ねられた。無論、周りの目のない場所で二人だけでな」



「へ…ぇ……」



……………



「──…え?」

「佐助、」

幸村の顔は、やはりよく見えなかった。
だが、もう怒りは感じられないような気がした。


「要らぬ憂いであったな」


(…もう二度と、考えさせはするまいよ)


沈む夕陽を背負い、幸村は彼に告白した。







(愛を告げよう)






‐2012.11.13 up‐

お題は、【biondino 様】より拝借、感謝^^

乱文すみません…内容も; テンション低。実はも何も、当サイトの佐助は大概ヘタレなんですが。
××は女の子かと。

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