高校からのダチである幸村と同じ大学に入ってから、半年が過ぎた。

同大学・同年の、俺らと同じアパートに住む石田とも時々つるむようになり、夜は誰かの家で飯にするとか、それなりに大学生らしい生活を送ってる。

石田は、第一印象と違い感情の起伏が激しい性格だったんで、初めは驚いたんだが…幸村と張るくれぇのあの雄叫びも、今じゃすっかり慣れちまった。

けど、幸村が気に入っただけあって、何か面白ぇ奴だ。てか、類友ってやつか。幸村も相当変わった奴だが、多分俺も人のこと言えねぇ。


「お前、これでまたモテんだろーなー…」
「……」

どうでも良い、と言ったのがよーく分かる顔。
これがコイツの普通で、俺も幸村も最初から何とも思わなかったが、


(笑った顔、一回も見たことねぇんだよな…)


無理強いすんのはダチじゃねーよなぁと、ずっと口にしていない。
嫌なら俺らに付き合ったりしてねーだろうし、これがコイツなりの「割と上機嫌」レベルなんだろう、と自然に接してきた。

今日は、幸村抜きで買い物。



『石田は、バイクとか興味ねーの?』


夏期休前に何気なく言ったんだが、意外に賛同を得られて俺はスゲェ喜んだ。
『免許取れよ』の言葉にもあっさり頷き、休み中に取得。

…で、石田の乗るバイクを買いに来たってわけだ。


「これで晴れて、三人でツーリングできるな」
「…ああ」

後ろにゃ一人しか乗れねぇから、三人でどっか行くのには、使えなかったんだよな。

練習がてら二人でバイクを走らせた後、眺めの良い場所で休憩した。


「そろそろ帰るか」
「…って、さっき来たばっかじゃんよぉ。せっかくだから、何か食ってこーぜ?」

と、出店を指すんだが、


「約束があるのだろうが。時間厳守は基本──貴様、そんなことでチャンスを棒に振る気かッ!?」


──ああ、また始まった。



「まだ時間あるって…」

俺の力ない声も消し去る勢いで、石田は弁に熱が入る。

何の話かというと、俺は午後から一応『デート』の予定なのだが、その相手を紹介してくれたのが、奴で。
以前約束した通り、石田は俺のパートナー探しに協力してくれていた。それも、意外なほど熱心に。

それは嬉しいんだが、問題は──…


「貴様、これでもう四人目だろう!いい加減決めろ!」
「そう言うなよー…俺だって、傷心を重ねて」

「き、さ、ま、が、腑抜けているせいだ!一体、何度逃げられれば気が済むッ?」
「いやー……」

…石田の怒りも、もっともなんだけどよ。

紹介してくれるのは、すげぇ可愛い子ばっかで、しかも皆性格も良い。
俺の好みはどうやら「素朴系」らしいってのは、以前によく思い知ったんだが…そのど真ん中を突いてくる女ばかりだった。


なのに。



(…何でだろなぁ)


何故か、それ以上には思えない。

『こんな子の彼氏は、きっと幸せだろーな』とつくづく感じるのに、それを自分に置き換えたり望んだり……が、これっぽっちも湧かねぇんだ。

それに、幸村やこいつと一緒にいる方が楽しいし、落ち着ける…



「しっかしよぅ、お前はどうなんだ?」
「何がだ」

生返事をする俺に今にも怒鳴りそうな石田だったが、どうにかなだめ、

「ほら…接点お前しかねぇから、どうしても石田の話になっちまうわけよ。で、」


『石田くんってすごいモテるのに、片っ端から振ってるんだよね。一体どんな子が好みなんだろ〜?』


「──ってよ。全員に、一回は聞かれたっつーの。俺、その度に気の利いたこと言えねーで、どんだけ苦い思いしたことか…」

若干責めるように言うと、石田は「知るか」と吐き捨て、


「相手がいるらしい、と言っておけば良いだろうが」
「……へ!?」

突然の衝撃発言に、俺は目をむき、


「お前、彼女いたんか!?つか、いつの間に!?マジで!?」

そう詰め寄るが、


「『彼女』ではない。…まだ、向こうに伝えてもおらん」


(か、片想い…)


つーか、この石田が恋っ?
てっきり、モテるから逆なんだと思ってた。女の方から申し込まれて、気に入った奴はオッケーしてやる──みてぇな。

てか、どんだけイイ女だってんだよ?
彼女たちが興味津々になるのも、よく分かる気がした。


「…おい、いい加減に戻るぞ。私も、午後から用事がある」
「あっ…、お、おう」

結局そこで話は打ち切りになり、俺はそのまま待ち合わせ場所に向かい、石田と別れた。














(はーあ。…またダメそうだな、こりゃ…)


待ち合わせ場所に着いた途端に、ケータイが鳴り、


『ゴメンね、今日ちょっと体調悪くなっちゃって…』

見舞いに行こうか、と言ったが、『ううんっ、部屋片付いてないし!』との慌て声。
そして、どう考えても部屋の中じゃなさそうなBGMが…

薄々分かってはいたんだが、あんな良い子に嘘をつかせる自分の方が、つくづく情けねぇと感じる。


(やっぱ、一旦離れてみっかな。石田にゃ悪ィけど…)


そんなことを考え、アパートの下にバイクを停める。
駐輪場に石田のバイクがなくて、『やっぱあれ、あいつだったんか?』と、俺は来た道を歩きで戻った。

道を曲がる際に、石田っぽい奴がバイクを押しながら、近所の公園に入るのを見かけた。
暇になったしで、追いかけてみようと奴の姿を探す。


(いたいた──お…?)


バイクを傍らに置き、ベンチに座る石田を発見。
後ろから声をかけようとすると、別の人間があいつに近寄り、俺はつい木陰に隠れた。


(…って、何隠れてんだよ)


それは知らない女でもなくて、俺のよーく知ってる相手だったってのに。



「はい、石田殿!お待たせし申した」
「…ああ」

幸村はいつものように明るく、石田に出店の食い物を渡してる。
クレープ──あいつ、大丈夫なんか?


「某も、石田殿と同じものにしました!お昼にちょうど良いですなっ」
「そうだな」

どうやら、惣菜系のトッピングらしい。


つーか、(俺もそうだが)こいつら何やってんだ?

石田、用事ってコレかよ。
何だよ、言えば良いじゃねーか。
こんな二人で、わざわざバイク持って、何か隠れるみてぇに。

…変にモヤモヤし出して、「よお!」と気軽に出て行き辛くなってくる。


「元親殿のバイクとは、また違うのですなぁ」

幸村はしげしげと車体を見て、


「石田殿に、よくお似合いでござる。某バイクのことはよく分からぬのですが、それくらいは」
「…そうか」

石田はバイクを見つめながら、


「後ろに人を乗せられるのは、一年後になるがな」

と、呟く。

そうですな、と幸村が返せば、あいつを一瞥し、


「…長曾我部のものほど、乗り心地は良くないが…」
「乗せて頂けるのでっ!?」

幸村、お前そりゃちょっと短絡的過ぎだろ。
…と呆れたんだが、


「ああ。…そのために取った」
「え?」

「──いや」



(…あいつ……)


俺は、石田の顔からずっと目が離せなかった。

そういえば、こんな風に二人だけで話してる様子なんざ、見たことなかったんだ。
幸村は、いつもと変わらねぇんだが、



「突然なのですが、石田殿」
「何だ」

急に話が変わるあれにゃ、俺も石田もすっかり慣れてる。
前置きをする分、やっぱあいつなりに、石田へは少し気を遣ってるようだが。


「三成殿──と呼んでも、よろしいでしょうか?」


「……………」



(…あ、石田固まった)


以前なら、『幸村、また石田を怒らせて…』と、すぐに仲裁に入ったことだろう。

が、俺も突然だが分かっちまったみてぇで、出て行かなかった。


「あっ、いや、お嫌でしたら…っ!ずっと聞いてみたかったのですが、駄目であろうと思っておりましたし!なので、それならきちんと断られておった方が、すっきりするかと、」

「…許す」



えっ



幸村は、口を開けたまま数秒は静止していたが、


「聞こえなかったのか?…二度も言わせるな」
「あ、いえ…!はいっ、しっかり聞こえて…っ」

みるみる、喜ぶ犬のように輝く幸村。

あれも、よく見る顔だけど、


(…俺の……いや、)



──俺だけの前で……







「デザートに、アイス食べまする!」

「とりあえず、三段はやめておけ。また落として泣かれては困る」

「失敬なっ、泣いてなどおらぬでしょうっ?」

「同じようなものだろうが」

幸村は、むーッと顔をしかめると、


「落とす前に食わぬ『三成』殿が悪いのだ!某は、三成殿に食べて欲しかったのに…では、二段にすれば、食べて下さるのですな?絶対ですぞ?しばしお待ちを、三成殿!」

ダーッと走り、アイスクリーム屋の出店へ並んだ。

…あれは、幸村が照れを隠すときに見せる、半ギレの態度。


石田に視線を戻すと、また初めて目にする顔をしていた。

何回『三成』言うんだよ、とツッコミたくなったが、別に大丈夫だったみてーだな。
こいつも、幸村と同じたちってわけだ。


「…………」


何か色々分かっちまって、すげぇ複雑だったが…

あの顔を見ると、不思議にも暗い気分には落ちなかった。



(…さて、俺はどうすっかな)


ひとまずはこのまま帰って、夜は二人を誘ってまた飯でも食おう。

石田に、『もう彼女の紹介は良いわ』と言うときに添える理由をどうするか考えながら、静かにその場から離れた。





PM13:00君の笑顔確認しました。

( 分かったことは、二つ )






‐2012.6.8 up‐

お題は、【biondino】様から拝借、感謝^^

この三人の話、またまた続けてしまいました。
結局、三成が甘いもの苦手ってのは、アニキが幸村に教えてあげたようで。

三+幸で、「一口!」「いらんっ!」と、やり合ってたらアイスがぼとっと落ちて、しばらくシーンとなって、幸村の泣きそうな顔に、内心焦った三成が慌てて新しいアイスを買いに行った。

けど味とかよく分んなくて、買うのも一苦労で、結局キレながら渡す。でも、幸村は何でも好きだし三成の気持ちが嬉しいので、すぐに上機嫌。

とかやってたら、たまらんよ!!!

でも、アニキも自覚させちゃった(^m^)

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