![](//img.mobilerz.net/sozai/284_w.gif)
![](//img.mobilerz.net/sozai/285_w.gif)
(…うむ。こんなものか)
そう頷くと、信玄は菜箸を置き、座敷の部屋を開ける。
「幸村、もう飯はできておるぞ」
膨らんだ布団に、声をかけるが…
「おやかたさま…」
その声に、信玄はすぐさま布団を剥ぎ取った。
(後はこれと、これで──よし)
佐助は、計算が間違いないことを確認し、小さく手を握った。
提げているカゴの中には、様々なお菓子たち。
「おれさま、もう決まったよ〜…って」
佐助は呆れたように、「…何やってんの」
…少し離れた場所で、座り込む二人。
細々したお菓子類を床に広げ、うんうん唸っている、幸村と慶次。
「さっけ…ゆき、これ全部買えない?」
「えー…?」
佐助は覗き込むと、「──ムリ。全然足んないよ」
「やっぱそっか…」
「……」
幸村は悔しそうに、さらに目まで潤ませている。
佐助は溜め息をつくと、
「だんな…おこづかいは、これって決まってんの。どれかは我慢しないと」
「あ…っ…うぁ」
「だいたいこんなの…お菓子、ちょっとしか入ってないんだよ?」
と、オマケ付きの一番高いものを取り上げる。幸村の好きな、戦隊物の玩具が入っているお菓子。
「だっで…」
(う──でも、仕方ないんだよ、だんな…)
佐助は、心を痛めながら説得しようとするが、
「じゃっ、おれがそれ買うから!」
「「え?」」
慶次は、自分のお菓子を棚に戻し、床のものを半分と、そのオマケ付きをカゴに入れた。
「けいじどの…?」
「これで全部買える…よな?」
佐助が「あ…うん」と頷くと、慶次は喜びの表情になり、
「良かったな、ゆき!これ、半分こしようぜ!そしたら、全部食べられるじゃん、ちょっと少なくなるけど」
「あ…」
幸村の涙はたちまち引き、「でも、けいじどののお菓子…」
「おれ何でも好きだし。それに、これ見てみたい!明日、一緒に開けてみよーぜ!?レッドだといいなぁ〜」
「…っ、はい…っ!」
「でも、それは慶ちゃんが買うんだから、だんながもらえるわけじゃないんだよ…」
「……」
再び、シュンとなる幸村。
「レッドだったら、貸してやるな?ずっと」
──みるみる甦る幸村。
「ぅもー…慶ちゃん…」
「え、何?」
慶次は屈託のない笑顔で、元気になった幸村とともに、他のお菓子を彼のカゴに入れる。
「皆、決まったのですか?」
三人の後ろで、まつがクスクス笑い、様子を眺めていた。
(慶次ったら、いつもは我が儘を言うくせに…)
「あ、まつ姉ちゃん!うん、できたよ!さっけが計算してくれた!」
「見て下され、まつどの!それがし、これとこれとこれに…しもうした!」
「まぁ、…佐助殿はすごいですね、二人とも?」
その言葉に、
「はい!」
「うん!すげぇよ、さっけは!」
と、力一杯返す二人。
「佐助殿は…?」
まつは彼のカゴを見ると「──まぁ」
その微笑みに、「な、何…?」と、心地悪そうにする佐助だったが、彼女はそれ以上何も言わなかった。
彼らは、家も近所の仲良し三人組。
親や後見人同士も親しいということもあり、親戚同然の付き合いをしてきた。
三人が通う幼稚園もすぐ近くで、子育てにはもってこいの環境。
そんな彼らの普段の行いの良さのせいか、夜空には満天の星が広がる。
「明日は、良い天気でございまするよ」
まつが言うと、三人はそれらに負けない、輝く笑顔で応えた。
「まつどの…」
幸村が目を覚ますと、まつがサッと近寄り、
「──ああ、良かった。大分下がっておりまする」
やはり夢ではなかったことに、幸村の心は、悲しみに染まった。
─────………
『すまぬな、おまつ殿。儂が休めば良い話なのだが…』
『いえ!私は、空いておりまするので、お気になさらず…それで、お医者様は何と?』
『熱は高いが、ただの風邪であるらしい。薬はそこに』
『承知致しました。しっかり看させて頂きまするゆえ、ご心配なく。また、様子をメール致しまする』
『よろしくお頼み申す…』
信玄も、気落ちした様子で出勤した。
─────………
(遠足…楽しみにしておりましたのにね…)
かなり顔色は良くなったが、いつもの元気の半分もない幸村を、気の毒そうに見つめるまつ。
だが、ジュースを一気に飲む幸村の様子に、これなら食欲もありそうだと安堵した。
あのお昼ご飯なら、きっと喜んでくれるだろう…
『ザーッ…』
何と、突然降り出した雨。
まつは慌てて洗濯物を取り込む。
自宅の分は、屋根があるので心配ない。
(もっと早くに降ってくれれば、遠足も来週に延びていたでしょうに──あ)
まつはニッコリと、
「若子殿、今度の日曜、皆で遠足に行きましょう」
「えっ…?」
「園の皆とは行けませんでしたが、私と、慶次や佐助殿と…。まつが、美味しいお弁当を沢山用意致しまするゆえ」
幸村は、顔を輝かし、「まっ、まことにござるか?まつどの!?」
「ええ!あの子たちも喜ぶでしょうし。…ですから、よく食べて、お薬を飲んで…しっかり治しましょうね」
「っ、はい…!」
八割方、元気が戻った幸村。その笑顔に、まつも心が温まる。
そのとき、ケータイの着信音が鳴り、
「まぁ、園から…ちょっとすみませぬ」
と、キッチンの方へ立つ。
「──慶次が…っ?…まぁ、佐助殿まで…!」
驚くような声がし、幸村の意識も自然引かれる。
「…はい、……はい…」
だが、後の方はよく聞こえず、そのまま布団で大人しくした。
まつは戻ると、
「ごめんなさい、若子殿。ちょっと園に行って参りまする。すぐに戻りまするので」
「あ、はい…」
幸村の布団を直し、すぐに玄関から出て行った。
カチャリ、と鍵の閉まる音が響く。
(………)
『慶次が──佐助殿まで…』
あの声と、先ほどのまつの顔が頭を離れず、幸村は、身体がむずむずしてくるのを感じていた。
「──まぁ、若子殿…!?」
あれからすぐに戻ったまつだったが、玄関の前で佇む幸村に、慌てて駆け寄る。
「まつどの、二人は!?さすけとけいじどのが、どうしたのでござるっ?」
「えっ?」
幸村は、泣きそうな──いや、若干泣いていた──顔で、まつに詰め寄る。
「ケガをしたのでござるか!?それがし、遠足がなくなれば良いと思って──だから、雨が降ったのであろうか…!?ころんだのでは…っ二人…」
「若子殿…」
必死な顔が可愛くて、まつは、幸村を思いきり抱き締めた。
「え!まつ姉ちゃんズルい!」
「だんな、お外出ちゃダメじゃん、もう!」
「…え…っ?」
驚き目を向けると、まつの後ろから現れた、二人の元気な姿。
「さすけ、けいじどの…っ!」
「──ほら、二人とも。若子殿にまで心配をかけて」
とりあえず三人を家に入れ、「謝りなさい」と、両手を腰に当てるまつ。
二人は、口を尖らせていたが…
─────………
『脱走…!?』
組の先生は苦笑し、『すぐに見付けましたがね。その後、あの大雨で』
──結局、遠足は途中で引き上げることになったらしい。
『二人の朝からの様子に、きっと何かやらかすぞと思ってましたが…案の定』
『誠に申し訳ございません…!』
『いえいえ、悪知恵でないのは、分かってますので。叱らないでやって下さい』
先生は明るく笑うと、今日はもうそのまま帰られて大丈夫です、と二人を引き渡した。
─────………
「ごめんね、だんな。心配かけて」
「ちょっとだけ行って、すぐ戻るつもりだったんだけど…」
佐助は体裁が悪そうに謝り、慶次は少しも悪びれず、舌を出す。
…どうやら、遠足中にコッソリ幸村を見舞いに行こうとしたらしいのだ。
確かに、歩いてすぐの公園だったとはいえ…
「でも、ラッキーだったな〜?雨降ったから早く帰れたし、ゆきにも会えたし」
「だよねぇ。もー早く帰りたくてしょーがなかったよ。だからかなぁ、降ったの」
「ちがう、おれのせいだ…降れば良いと思って…」
「え、ホント?だんなってば、スゴいねー!超能力あるんじゃない?」
「いや、やっぱ三人の力なんじゃねーかな?ほら、合体技でさ」
そこから、幸村の大好きな戦隊シリーズの話になり、彼の表情も晴れていく。
「さぁ、お昼にしましょう!お家の中でのお弁当も、たまには良いものですよ?」
と、まつは三人をテーブルに座らせる。
「見てみて、これ!イエローだぜ!?」
じゃーん、と見せびらかす慶次。
あの戦隊ヒーローを象った、見事なキャラ弁当。
「すげーだろ、まつ姉ちゃん!」
「うぉぉぉ、さすがまつどのでござるぁ…!」
尊敬に輝く顔で見てくる幸村を、嬉しそうに微笑むまつだったが、
「だんな、こっちのも見て?おれさま自分で作ったんだよ、このグリーン」
そう見せる佐助の弁当に、「まああ!」と、驚きの声に変わる。
「何と、さすけがこれを!?」
「すっげー!」
「佐助殿は、良い旦那様になれまするね、きっと」
「だよね!?聞いた?だんな!?」
「?ああ!すごいな、さすけ!」
「いや、そうじゃなくてね、だんな」
「良かったな、さっけ!カワイイおよめさん、もらえるなっ」
「…じゃなくて、だんなが良いんだけど…」
「さっけがだんなさんだろ?」
「………」
「──さぁ、若子殿には、こちらでございまするよ」
いつの間にかキッチンへ消えていたまつが、再び戻ってくる。
…手には、お弁当箱。
「まつどの…っ」
自分にも作ってくれたのか、と幸村が笑顔で蓋を開けると…
「………」
「え〜?これ…」
「…レッドぉ…?」
三人に覗き込まれた箱の中には──何ともいびつな形の、キャラクター。
「私が作ったのではありませぬよ。…朝から、こちらに用意されてあったのです」
「──!!」
(おやかたさまが…!?)
他の二人も、あの無骨な彼とキャラ弁当との不釣り合いさに、ポカンとなる。
「ぅおやかたさまぁぁぁ…!!」
幸村の顔は、それまでで一番喜びに満ち溢れたものへ。
目を輝かせ、不細工なレッドに見惚れている。
「こっちの方が、カッコいいのに…」
「おれさまのだって。何でぇ…?」
ぶーぶーと拗ね始める慶次と佐助を、まつは忍び笑い、早く食べるように勧める。
幸村の容態も、ほとんど良くなってきたようだが、代わりに少し機嫌を悪くしてしまった他の二人。
『佐助殿も、慶次と同じように若子殿の好きなお菓子ばかり買っていた』──そのことを幸村へ密かに伝えれば、後は予想通り。
感激した幸村に、すぐさま上機嫌になる佐助。
そして、あのお菓子のオマケは何と『レッド』で──慶次は、佐助と同じほどの幸せを手に入れた。
(美味しくて楽しい時間の秘訣は、やはりこれに限りまするね)
まつはそう微笑し、三人の笑顔写真を添付したメールを、信玄に送った。
12時幸せランチタイム
(いつもいつもごちそうさま!)
![](//img.mobilerz.net/sozai/160_w.gif)
‐2011.9.19 up‐
お題は【
biondino】様より拝借・感謝^^
乱文すみません><;
ポワポワな幸村と慶次に、佐助は、おれさまがしっかりしないと…と思ってたら良い^^
そして、結局皆甘やかし・甘やかされてしまうと良い♪
[ 13/25 ][*前へ] [次へ#]