(…うむ。こんなものか)


そう頷くと、信玄は菜箸を置き、座敷の部屋を開ける。


「幸村、もう飯はできておるぞ」

膨らんだ布団に、声をかけるが…



「おやかたさま…」


その声に、信玄はすぐさま布団を剥ぎ取った。













(後はこれと、これで──よし)


佐助は、計算が間違いないことを確認し、小さく手を握った。
提げているカゴの中には、様々なお菓子たち。

「おれさま、もう決まったよ〜…って」

佐助は呆れたように、「…何やってんの」


…少し離れた場所で、座り込む二人。

細々したお菓子類を床に広げ、うんうん唸っている、幸村と慶次。


「さっけ…ゆき、これ全部買えない?」
「えー…?」

佐助は覗き込むと、「──ムリ。全然足んないよ」

「やっぱそっか…」
「……」

幸村は悔しそうに、さらに目まで潤ませている。
佐助は溜め息をつくと、


「だんな…おこづかいは、これって決まってんの。どれかは我慢しないと」
「あ…っ…うぁ」
「だいたいこんなの…お菓子、ちょっとしか入ってないんだよ?」

と、オマケ付きの一番高いものを取り上げる。幸村の好きな、戦隊物の玩具が入っているお菓子。


「だっで…」


(う──でも、仕方ないんだよ、だんな…)

佐助は、心を痛めながら説得しようとするが、


「じゃっ、おれがそれ買うから!」

「「え?」」

慶次は、自分のお菓子を棚に戻し、床のものを半分と、そのオマケ付きをカゴに入れた。


「けいじどの…?」
「これで全部買える…よな?」

佐助が「あ…うん」と頷くと、慶次は喜びの表情になり、

「良かったな、ゆき!これ、半分こしようぜ!そしたら、全部食べられるじゃん、ちょっと少なくなるけど」

「あ…」

幸村の涙はたちまち引き、「でも、けいじどののお菓子…」

「おれ何でも好きだし。それに、これ見てみたい!明日、一緒に開けてみよーぜ!?レッドだといいなぁ〜」
「…っ、はい…っ!」
「でも、それは慶ちゃんが買うんだから、だんながもらえるわけじゃないんだよ…」
「……」

再び、シュンとなる幸村。


「レッドだったら、貸してやるな?ずっと」

──みるみる甦る幸村。


「ぅもー…慶ちゃん…」
「え、何?」

慶次は屈託のない笑顔で、元気になった幸村とともに、他のお菓子を彼のカゴに入れる。


「皆、決まったのですか?」

三人の後ろで、まつがクスクス笑い、様子を眺めていた。


(慶次ったら、いつもは我が儘を言うくせに…)


「あ、まつ姉ちゃん!うん、できたよ!さっけが計算してくれた!」
「見て下され、まつどの!それがし、これとこれとこれに…しもうした!」

「まぁ、…佐助殿はすごいですね、二人とも?」

その言葉に、

「はい!」
「うん!すげぇよ、さっけは!」

と、力一杯返す二人。


「佐助殿は…?」

まつは彼のカゴを見ると「──まぁ」

その微笑みに、「な、何…?」と、心地悪そうにする佐助だったが、彼女はそれ以上何も言わなかった。


彼らは、家も近所の仲良し三人組。

親や後見人同士も親しいということもあり、親戚同然の付き合いをしてきた。
三人が通う幼稚園もすぐ近くで、子育てにはもってこいの環境。

そんな彼らの普段の行いの良さのせいか、夜空には満天の星が広がる。


「明日は、良い天気でございまするよ」


まつが言うと、三人はそれらに負けない、輝く笑顔で応えた。













「まつどの…」


幸村が目を覚ますと、まつがサッと近寄り、

「──ああ、良かった。大分下がっておりまする」


やはり夢ではなかったことに、幸村の心は、悲しみに染まった。



─────………



『すまぬな、おまつ殿。儂が休めば良い話なのだが…』
『いえ!私は、空いておりまするので、お気になさらず…それで、お医者様は何と?』
『熱は高いが、ただの風邪であるらしい。薬はそこに』
『承知致しました。しっかり看させて頂きまするゆえ、ご心配なく。また、様子をメール致しまする』
『よろしくお頼み申す…』

信玄も、気落ちした様子で出勤した。



─────………



(遠足…楽しみにしておりましたのにね…)


かなり顔色は良くなったが、いつもの元気の半分もない幸村を、気の毒そうに見つめるまつ。

だが、ジュースを一気に飲む幸村の様子に、これなら食欲もありそうだと安堵した。

あのお昼ご飯なら、きっと喜んでくれるだろう…



『ザーッ…』



何と、突然降り出した雨。

まつは慌てて洗濯物を取り込む。
自宅の分は、屋根があるので心配ない。


(もっと早くに降ってくれれば、遠足も来週に延びていたでしょうに──あ)


まつはニッコリと、

「若子殿、今度の日曜、皆で遠足に行きましょう」
「えっ…?」
「園の皆とは行けませんでしたが、私と、慶次や佐助殿と…。まつが、美味しいお弁当を沢山用意致しまするゆえ」

幸村は、顔を輝かし、「まっ、まことにござるか?まつどの!?」

「ええ!あの子たちも喜ぶでしょうし。…ですから、よく食べて、お薬を飲んで…しっかり治しましょうね」

「っ、はい…!」

八割方、元気が戻った幸村。その笑顔に、まつも心が温まる。


そのとき、ケータイの着信音が鳴り、


「まぁ、園から…ちょっとすみませぬ」

と、キッチンの方へ立つ。


「──慶次が…っ?…まぁ、佐助殿まで…!」

驚くような声がし、幸村の意識も自然引かれる。

「…はい、……はい…」

だが、後の方はよく聞こえず、そのまま布団で大人しくした。


まつは戻ると、

「ごめんなさい、若子殿。ちょっと園に行って参りまする。すぐに戻りまするので」

「あ、はい…」

幸村の布団を直し、すぐに玄関から出て行った。
カチャリ、と鍵の閉まる音が響く。


(………)


『慶次が──佐助殿まで…』


あの声と、先ほどのまつの顔が頭を離れず、幸村は、身体がむずむずしてくるのを感じていた。













「──まぁ、若子殿…!?」


あれからすぐに戻ったまつだったが、玄関の前で佇む幸村に、慌てて駆け寄る。


「まつどの、二人は!?さすけとけいじどのが、どうしたのでござるっ?」

「えっ?」

幸村は、泣きそうな──いや、若干泣いていた──顔で、まつに詰め寄る。


「ケガをしたのでござるか!?それがし、遠足がなくなれば良いと思って──だから、雨が降ったのであろうか…!?ころんだのでは…っ二人…」

「若子殿…」

必死な顔が可愛くて、まつは、幸村を思いきり抱き締めた。


「え!まつ姉ちゃんズルい!」
「だんな、お外出ちゃダメじゃん、もう!」

「…え…っ?」


驚き目を向けると、まつの後ろから現れた、二人の元気な姿。


「さすけ、けいじどの…っ!」

「──ほら、二人とも。若子殿にまで心配をかけて」


とりあえず三人を家に入れ、「謝りなさい」と、両手を腰に当てるまつ。

二人は、口を尖らせていたが…



─────………



『脱走…!?』

組の先生は苦笑し、『すぐに見付けましたがね。その後、あの大雨で』

──結局、遠足は途中で引き上げることになったらしい。


『二人の朝からの様子に、きっと何かやらかすぞと思ってましたが…案の定』
『誠に申し訳ございません…!』
『いえいえ、悪知恵でないのは、分かってますので。叱らないでやって下さい』

先生は明るく笑うと、今日はもうそのまま帰られて大丈夫です、と二人を引き渡した。



─────………



「ごめんね、だんな。心配かけて」
「ちょっとだけ行って、すぐ戻るつもりだったんだけど…」

佐助は体裁が悪そうに謝り、慶次は少しも悪びれず、舌を出す。

…どうやら、遠足中にコッソリ幸村を見舞いに行こうとしたらしいのだ。
確かに、歩いてすぐの公園だったとはいえ…


「でも、ラッキーだったな〜?雨降ったから早く帰れたし、ゆきにも会えたし」

「だよねぇ。もー早く帰りたくてしょーがなかったよ。だからかなぁ、降ったの」

「ちがう、おれのせいだ…降れば良いと思って…」

「え、ホント?だんなってば、スゴいねー!超能力あるんじゃない?」

「いや、やっぱ三人の力なんじゃねーかな?ほら、合体技でさ」

そこから、幸村の大好きな戦隊シリーズの話になり、彼の表情も晴れていく。



「さぁ、お昼にしましょう!お家の中でのお弁当も、たまには良いものですよ?」

と、まつは三人をテーブルに座らせる。


「見てみて、これ!イエローだぜ!?」

じゃーん、と見せびらかす慶次。

あの戦隊ヒーローを象った、見事なキャラ弁当。


「すげーだろ、まつ姉ちゃん!」

「うぉぉぉ、さすがまつどのでござるぁ…!」

尊敬に輝く顔で見てくる幸村を、嬉しそうに微笑むまつだったが、


「だんな、こっちのも見て?おれさま自分で作ったんだよ、このグリーン」

そう見せる佐助の弁当に、「まああ!」と、驚きの声に変わる。


「何と、さすけがこれを!?」
「すっげー!」

「佐助殿は、良い旦那様になれまするね、きっと」
「だよね!?聞いた?だんな!?」

「?ああ!すごいな、さすけ!」
「いや、そうじゃなくてね、だんな」

「良かったな、さっけ!カワイイおよめさん、もらえるなっ」
「…じゃなくて、だんなが良いんだけど…」

「さっけがだんなさんだろ?」
「………」


「──さぁ、若子殿には、こちらでございまするよ」

いつの間にかキッチンへ消えていたまつが、再び戻ってくる。

…手には、お弁当箱。


「まつどの…っ」

自分にも作ってくれたのか、と幸村が笑顔で蓋を開けると…


「………」
「え〜?これ…」
「…レッドぉ…?」

三人に覗き込まれた箱の中には──何ともいびつな形の、キャラクター。


「私が作ったのではありませぬよ。…朝から、こちらに用意されてあったのです」

「──!!」


(おやかたさまが…!?)


他の二人も、あの無骨な彼とキャラ弁当との不釣り合いさに、ポカンとなる。


「ぅおやかたさまぁぁぁ…!!」

幸村の顔は、それまでで一番喜びに満ち溢れたものへ。

目を輝かせ、不細工なレッドに見惚れている。


「こっちの方が、カッコいいのに…」
「おれさまのだって。何でぇ…?」

ぶーぶーと拗ね始める慶次と佐助を、まつは忍び笑い、早く食べるように勧める。


幸村の容態も、ほとんど良くなってきたようだが、代わりに少し機嫌を悪くしてしまった他の二人。


『佐助殿も、慶次と同じように若子殿の好きなお菓子ばかり買っていた』──そのことを幸村へ密かに伝えれば、後は予想通り。

感激した幸村に、すぐさま上機嫌になる佐助。

そして、あのお菓子のオマケは何と『レッド』で──慶次は、佐助と同じほどの幸せを手に入れた。


(美味しくて楽しい時間の秘訣は、やはりこれに限りまするね)


まつはそう微笑し、三人の笑顔写真を添付したメールを、信玄に送った。





12時幸せランチタイム

(いつもいつもごちそうさま!)






‐2011.9.19 up‐

お題は【biondino】様より拝借・感謝^^

乱文すみません><;

ポワポワな幸村と慶次に、佐助は、おれさまがしっかりしないと…と思ってたら良い^^
そして、結局皆甘やかし・甘やかされてしまうと良い♪

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