育てませう(前)-2



「やっぱ、女物はたっかいねぇ…。けど、さっきのは一万台だったぜ?」

「…あ、ああ…」
「小遣いもらったんだろ?買ってきゃ良かったのに」

試着させて、一足先に眼福に預かろうとも企んでいた佐助。
しかし、幸村は頬を火照らせながら、

「今日は、見るだけだと言ったろう。…次、一人で買いに来る」

「そう?まぁ、分かんなくなったら、店員に聞くんだよ」
「う、うむ…」

と頷く幸村だが、あの水着を買うのは、まず間違いない。今までの経験で佐助の見立てが正しいのも、そうすれば彼が喜ぶことも、重々分かっているはずなので。


(俺様、ほんと愛されちゃってるよなぁ…)


周りにはそうは見えないだろうが、女になるのをあれほど嫌がっていた幸村が、ここまでなってくれた…それが、何より示していると思えるのだ。

また、佐助の両親は幸村を気に入っており、積極的に家を空けてくれる(!)し、幸村の両親には反対どころか、『もらってくれてありがとう』と感謝される始末。

ならば、もう少しくらい、ベタついても良いのではないかと。


「海に入れば、恥ずかしくもないしさ。当日、晴れると良いねえ」

「……うん」


(うッ…)

あまり聞けない砕けた返答に、佐助の胸がキュンと鳴る。とうに深い仲だというのに、そんな仕草一つで。

…となれば、水着姿を見る前にいくらシュミレーションしていても、きっと同じことだろう。なら、一切しない方が正解だ…

──そしていつものように、何食わぬ顔で話題を変える彼だった。













夏休みに入り、補習期間も終わった週末の夜。


「あの子、寝ちゃってるみたい。叩き起こして、鍵だけは掛けさせといてね」
「悪いね、いつも」

「いえいえー。ゆっくりしてきて〜」

佐助がにこやかに手を振ると、幸村の両親は車を発進させた。

今日は二人の記念日、夫婦水入らずで思い出のホテルでディナー・宿泊するのが、毎年のお決まり。幸村が幼い頃は祖父母の役目だったが、その内、佐助の家が彼女を預かるようになっていったのだ。

二人して『さっくんの方が泊まっても良いよ』などと、佐助に冷や汗をかかせもしたが。



『コンコンコン』

「旦那ーぁ。おじさんたち、もう出たぜー?」


……だが、部屋からの応答はない。


(まぁ、急がなくても良いけど…)


今晩は、佐助の両親も帰りが遅くなる。幸村の両親の言葉からではないが、佐助がこんなチャンスを見逃すはずがない。

しかし、幸村をその気にさせるのには結構な時間を要する…うん、やはり早めの方が良いなと、佐助は部屋のドアを開けた。

──部屋の冷房は点いておらず、扇風機がベッドに向いて回っている。
幸村は夏布団を被り、首筋に汗を滲ませ寝ていた。


『…ムッラァ』

とくるのは仕方ないだろう、そんな姿を見せられては。なんせ、数時間後には頂く気満々だったのだし。

さっさと起こして、うちに連れてこう。佐助は布団を掴み、


「は〜い旦那!起きましょー……!?」
「!!──え…!」

バッと剥がすと幸村も目を覚まし、驚きの目で見上げた。

そして自分の姿を確認し、

「う……わぁぁぁぁ!!なにッ、バカ!さすけ目ぇつぶれぇぇえ!!」

ぎゃあああと叫びながらベッドから降り(落ち?)、片手で身体を隠しつつ、佐助の目を塞ごうとしたが、

「ぬぁっ!?」
「──ごめん、もうしっかり見ちゃった」

佐助は幸村の腕を軽く掴むと、まじまじ彼女を見下ろし、


「水着、買ったんだ……」


「……っ…」

幸村は本当に全身真っ赤になり、その場にしゃがみ込んだ。

「旦那?」
「……へ、んだろう、こんなの…」

「そんなこと……でも、ちょっと意外だったけど…」


…ちょっとどころではなかったが。

あまりの不測の事態に遭うと、人は平静になるらしい。いや、佐助の場合は表面上そう見えるだけで、中では大騒動なのだが。

それもそのはず、幸村が着ていたのはあの水着ではなく、ビキニだったのだ──!!

↑白地に赤やピンク系の小花模様、下は重なったフリルのミニスカートの。


(一瞬、下着かと思った……てか、ほぼ同じようなもんじゃん!)


また白なので、水着よりそっちに見えてしまう。…熱で赤らんではいるが、白い肌が目に刺さる。
けれども、本当に仕方がないのだ。前述したように、幸村のミニスカート姿、下着(に近い)姿を見たのは、これが初めてなのだから。

喜びや動悸で何も言えずにいると、幸村は前だけでも隠すように膝を抱え、

「分かっている…こんなの柄ではないと。……だが、皆が…」


『絶対ビキニで可愛いのにして!せっかく細いんだし!』
『佐助くんだって、ホントはそーゆうのが嬉しいんだよ!』
『遠慮して言ったに決まってるでしょー!?』



「旦那……」

つまりは、自分のためにということで、佐助はまた胸にドギュンと食らった。──死ぬ前には、ちゃんと言ってやらなければ。

「似合ってるよ、本当に。…だから、ちゃんと見せて」

「………」

優しく言えば、幸村は視線を泳がせながら、ゆっくり立ち上がった。


「こんなに細かった…?」
「ひゃわっ…!佐助ぇ…ッ」
「だって、明るいとこで見たの、初めてだからさ…」
「ん…ちょ、あっ」

締まったウエストを両手で包み、耳や肩に唇で触れる。

甘い匂いに誘われ、佐助はその身体をふわりと抱いた。

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