お忍び座談(壱)-5



「──若、戻りました」
「(あ…!)」

佐助の声が部屋の外に聞こえ、二人は慌てて自分の口を手で塞いだ。

「(よし、岩千代…勇士としての初任務だ、それがしの振りを上手くするのだぞ…!)」
「(はい、弁丸さま!)」
「(佐助が間違えたら、ほうびに団子をやるからな)」
「(も、もったいのうございまする)」

二人はヒソヒソした後、弁丸は衝立の後ろへ隠れ、岩千代は戸を開けた。









無言の開門に戸惑いながら、佐助が部屋に入る。岩千代が黙ったまま上座に着くと、佐助もその前にひざまずき、

「遅くなってごめん……怒ってんのかな…?」
「…!?」

気安い口調に岩千代は驚くが、『それほど親しいということか』と推測、二人の間柄をまた羨んだ。…がしかし、こうも容易く騙されるとは。そこは少々、勝ったような気になれたが、

「そんなとこ隠れてないで…機嫌直してよ、若」
「「……!」」

腰を上げた佐助に衝立の後ろを暴かれ、二人は目を丸くした。

「何だ、分かっておったのか!?」
「そりゃあ」
「なぜっ…──どうした?」

弁丸が怪訝に尋ねると、瞳を覗かれた佐助は瞬きをし、

「ちぃっと…目ェやられちゃってさ。今、ほぼ見えない状態」
「え…!」
「あー平気平気、ちゃんと治るって」
「だがッ、痛くないのか!?」
「うん全然。それより、怒ってんじゃなかったの?」
「ちがう、これは……いやもう良い」

弁丸は佐助の目元を撫で、「見えぬのに、分かるとは…」と、驚きや懸念、安堵の混ざった、いじらしい表情で彼を見る。それを、見えているかのように佐助は微笑み、

「俺様、弁丸様だけは分かるから」
「佐助…」

それだけで二人は通じ合えたらしく、弁丸は落ちかけていた涙を拭うと、

「海野に、効く薬をもらってくる!岩千代と待っていてくれ」
「え?」
「そこにおるんだが、こちらで出来た、おれの友だ」

見えるようになったら紹介すると、弁丸は部屋を出ていった。

岩千代はというと、二人のやり取りに見入っていたのだが、そこへ佐助が恭しく寄り、

「すんませんねぇ、そんなことで…」
「あ、はい…!」

「…ふーん……ま、髪は似てるけど、顔は全然だね」

「……え」

急に変わった佐助の口調に、ポカンとなる岩千代。佐助は、全く違う冷めた目になっており、

「で、影武者?悪いけど、俺様含むうちの忍に勝ってから言ってくれる?似てなくても、変化の術使やぁ誰でも出来るんで。首級代わりってんなら別だけど、あの人絶対許さないだろうから、結局邪魔になるんですよアンタ。その腕じゃあ先は知れてるし、側近になりたいなんて大望は、さっさと捨てちゃって下さいね〜」

「──…」

早口かつ淡々と言われるも、岩千代の賢い頭は、しっかり意味を理解した。衝撃でぐわんぐわん鳴る頭を奮い立たせ、「見えぬなどと…たばかったのか」と言い返すが、

「嘘はついちゃいませんよ、見えないのは片目だけですけど。てか両目でも、弁丸様だけは分かりますから」

アンタは無理でしょ、と言わんばかりの顔。

──岩千代九歳、幼くして大人社会?の厳しさを知り、不幸にも心が早熟してしまう。
その後は武道と忍術の修行に明け暮れ、天下初の、武士と忍両刀使いのつわものとして、君臨するのだった。













全 (……それで、こんなに可愛げがなくなったのか…)


想像を裏切る辛(から)い話に、一同の顔は真っ暗である。しかし、小助は平然とした様子で、

「そろそろ本題に入りませんか」

『あ』

──そうだ、これは脱線話だった。
痛々しいオチに目を眩まされ、とある違和(↓おまけに記)に気付くことなく、皆各々準備へ移っていった。


※↓挽回?おまけ(小助・幸村)







岩千代が修行に出てからは、二人の間は文のやり取りのみになり、元服を終えた数年後に再会した。

再会の喜びよりも先に、幸村はとにかく驚いた。嬉しそうにする小助の姿は、自分に瓜二つ。何と、我らはここまで似たのかと思ったが、

「人が悪いぞ小助!変化の術だな?」
「…やはり、分かりますか」
「見事な腕だが、本人ゆえな。しかし、久方ぶりの再会にそれはないだろう」

と笑うと、小助は残念そうに術を解いた。『存外、子供じみたところがあるのだな』と微笑ましく感じた幸村だが、

「ぉあ……!?」
「無念です、幸村様…これには、俺でも抗えませんでした」

がくっと項垂れる彼を、幸村は初めよりも驚愕の目で見た。…いや、見上げた。

小助は幸村の背をぐんと越えており、顔は幼い頃の面影が皆無。髪色は変わらないが、その容姿に合った短髪で、もはや幸村とは何一つ似ていなかった。
小助は、悔しげに嘆き、

「これでは、影武者どころか首影にもなれませぬ…それを目指し、やって参りましたのに」
「あの、小さな岩千代が……随分と良い男になったものだ…」
「…えっ」

その姿は、以前に拝見した信玄の少年時の絵姿に似ており、小助を見つめる幸村の眼差しは、憧憬、思慕、羨望、などなど…
小助には予想外の反応で、「ぇっ……?!?」と、子供の頃のように慌てふためき、顔を赤くしていた。

けれどもすぐの後、幸村は表情を整えると、

「小助の姿が変わったのは、天の思し召しよ。影武者は要るが、俺の首には必要ない。必要なのは、長く俺の力となる、お前の命だ」

「……そ…」
「そんなことも分からぬとは、小助もまだまだよな」

そう幸村が放った笑みは、数年振りに、再び小助の胸を激震させたもの。

小助は、今の彼の顔でも重なりそうな、昔に似た笑顔を見せた。







‐2013.9.6 up‐

お礼&あとがき

氷垣様、素敵なリクネタをありがとうございました!時間かかってこれで、本当にすみません…考えた狂系がダメダメで、逆にギャグ+破廉恥なのを書くつもりが入りきらず、ラブも全く(TT) でも書きたいのは幸村愛でて→勇士幸せなんで、後編もやらせて下さい…

知識サッパリな私ですが、ぽやーんと浮かんだのが、ああいう才蔵・鎌之助・小助で。対決/最初は敵/影武者…基本設定でしょうが、やはしやってみたかったです。そして可愛いのが真逆に育つのが好き。佐助は、岩千代のためを思ってああ言ったのかも(1%) あと、岩千代が幼名なのかは確証なし。違和=小助が幸村と似てないこと。勇士らは幼小助の姿知らない。

氷垣様、申し訳ないばかりですが、本当にありがとうございました…!

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