お忍び座談(壱)-4



「愚かな自分ですが、こちらを葬る方が愚かであるとは、悟れた次第です。…騙していて、申し訳ありません」
「なっ…ま、待て!」

遺体を担ぎ消えようとする彼を、弁丸は急いで引き留めると、

「謝るために、わざわざ来たのか!?…もっと他に、言いたいことがあるのではっ…」
「……」
「っは、その前に礼を言う!お陰で、父上も兄上も救われた!」
「…え…」

鎌之助は目を見開くが、弁丸は必死な顔で、

「だが、そのせいで後の行き場がないだろう?ゆえに、その……正式に、うちの忍にならぬか!?」
「ッ──」

まさかの口説きに、鎌之助の目の前が白くなる。怖いもの知らずは、幼さゆえのものなのだろうか?いくら使えるからといって、自分のような者を雇おうなど、

「か、考えなしに言うてはおらぬぞ。おぬしが強いというのもそうだが、うちを守ると思ってくれた、その気持ちこそが欲しい…、…そちらの方が、生半可な理由だな」

弁丸の語調は、段々と弱まっていくが、

「しかし、ここが初めてなのだろう?そう思ったのは。任務を遂げずにいたのは、それがしと同じ思いだったからなのではないか…?」

「自分は、不相応です…」

それだけ言うと、弁丸の瞳がじわりと濡れた。何を哀しんでいるのか、鎌之助には分からない。
弁丸は、鎌之助の手を掴むと、

「おぬしと同じように、非道な扱いをされていた者を知っておる…でも今は沢山笑い、怒りもする。うちに来てからだぞ?だからな、うちは良い家なんだ、鎌之助も必ず気に入る!本当は、いたいのだろう!?おぬしは正直者だ、いつも嘘でなく笑っておった、今は逆の顔をしておる……だから…!」


翌朝、戦闘や血の痕跡は綺麗に消えており、何事もなく、鎌之助は真実真田の忍となった。













甚「うげぇぇぇー…空気読めよお前、俺らの話が馬鹿みてぇだろーが」
十「何だよその展開!これだから忍はいーよな、クッソー」

清「良かったのう、鎌之助…弁丸様に巡り会えて(ホロリ)」
伊「弁丸様、何と健気な…(ほわぁん)」
海・望「上に同じく」

小「…てかどんな勘違いですか、金貯めたら欲しいものが……たく、ややこしいな」
才「任務を果たせば、欲しいものには一生会えぬと悟ったわけだな…疎いお前にしては、上出来じゃないか。それで、元の主はどうした?暗殺は諦めたのか」

鎌「いや、しつこい性分だったからな。その日の内に滅ぼしておいた」

全『…おぅふ』

さすが、仕事だけは素早く抜かりない…そうは見えない彼を、改めて見直す面々である。

※黒髪にしてたのは、有名な暗殺者が、銀髪らしいとの噂があったため。『因縁つけられるので、染めてました』と周りには説明、その後暗殺者の軌跡は途絶え、『引退した』との噂で終息した。


才「しかし、よく奴が黙っていたな」
鎌「長か。三月ばかりは、始終殺されそうになったな。てっきり、皆もそうなると思っていたが」

…それで生き延びている彼を、(才蔵以外の)誰が討てるというのか。

十蔵らが、「ま…俺らは優しいからね」「感謝しろよ」などと締め、最後の小助に話を促した。













小助と弁丸が初めて出会ったのは、後者が武田へ身を移してすぐの頃だった。穴山家は武田に仕えており、いずれは弁丸の家臣にと、信玄が彼らを引き合わせたのである。

岩千代(小助の幼名)九歳、小心な性格で、将来の主との対面にかつてなく緊張していたが、

「よろしくお願い申す、岩千代」
「はっ、い…!」

彼の不安を吹き飛ばすほどの、優しげで明るい笑顔。もうそれだけで、岩千代の忠誠は固まったようなものだ。しかも、髪色と顔が弁丸に似ていると周りから言われ、光栄に嬉々とした。

岩千代は武田へ足繁く通い、二人は兄弟のように睦まじくなる。ゆくゆくは弁丸の影武者になるように仰せつかったと、岩千代が伝えると、

「影か!では、佐助と同じだな」
「サスケ…?」
「うむ、この頃は出ておるが…」

弁丸は、佐助と八人の勇士たちについて朗々と、また鼻が高そうに話した。話を聞くだけでも彼らの高い能力は窺い知れ、岩千代の瞳も、弁丸と同様の光を帯びていく。それに、


(弁丸さまは、忍がお好きなのだな…)


特に、昔から仕えているという佐助が、最も羨ましく思えた。弁丸が慕っている頼もしさや優しさ、厳しさに憧れ、自分もそんな風になりたいと。

「佐助は、もうすぐ戻るゆえ…そうだ、びっくりさせてやろうぞ!」
「え?」

戸惑う岩千代に弁丸は着物を渡し、着替えるよう命じる。それは弁丸のもので、袖を通す内に、岩千代にもその目的が分かってきた。

「髪も変えねば」
「っ…べ、弁丸さま、私が!」
「これしき出来る、岩千代は動くでない」
「は…」

すねたような口調に機嫌を損ねてしまったと思い、岩千代は縮こまる。岩千代の、高く結っていた髪を弁丸が解き、自分と同じく首後ろで結い直しにかかったのだ。

目上の者に世話をさせ、幼い身でも岩千代は畏れ多さに戦いた。彼の着物を着ているだけでもそうで、緊張を通り越したような動悸に、冷や汗が湧く。髪を撫でる手は心地よく、首筋にかかる視線や息遣いがこそばゆい。

そんな岩千代の様子には気付かず、弁丸は笑みを浮かべ、

「それがし、年の近い友は持った試しがのうてな…ゆえに、おぬしに会えてほんに嬉しいのだ。とても良い者であるし」
「…!?も、もったいなき…」
「剣も強いしなぁ。こちらも、うかうかしておれぬ」
「っ…」

さらりと二度も褒められ、岩千代はパァッと頬を染めると、

「私は弁丸さまの家臣ですから、そうでなければお役に立てませぬ!これからは、もっと強くなりますッ…だから弁丸さま、私も勇士にして下さい!」

「いっ……岩千代ぉ…!」

感激した弁丸は、岩千代より桃色の頬になり、目を輝かせる。しばしの間、幼い主従は感動や照れでモゾモゾしていたが、

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