お忍び座談(壱)-3


◆筧十蔵

家柄は甚八らと同様。ある日、弁丸が賊に捕らわれたところへ遭遇、華麗な銃さばきで救出、ぜひ家臣になって欲しいと請われた。

十「ていうか、惚れられたんだろうけどね、単純に」
甚「嘘つけ!」
才「初耳(拉致の件)だぞ、まことなのか!?」

甚八はさておき、才蔵は本気の目。十蔵は「冗談だって…」と苦笑し、

「でも、お願いされたのは事実だからな?」


──少年十蔵は、自信家かつ冷めた性格。主への忠誠?んなもんあるわけない、適当に働いて、この外見(長身筋肉・美顔)でモテて遊べりゃ、別にいつ死んだって〜くらいの考え。周りへも、『文句あるなら、自分より立つ腕前提で言ってくれますぅ?』な態度だった。

ある日、十蔵の鍛練中に弁丸(初対面)がやって来て、銃の腕前を披露した。その歳にしては腕が良く驚くと、『人のを見て学んだ』と言う。

『それがし、そのお方の力がどうしても欲しいのです。しかし、こんなものでは相手にもしてもらえぬ……ゆえに、筧殿にご指導頂けぬかと…!』

『必死ですねぇ〜』

懸命な弁丸を、十蔵はからかい笑い、

『てことは、相手は俺より下手なんですよね?なら、そんなのに頼むより、俺に挑んだらどうです?』

↑自覚はないが、自分でないことにムッとしてる心境。

『えっ…』
『弁丸様なら、考えてやんないこともないかなー』
『ま、まことにござるか!?』


十「──まーさか、そもそも俺を陰から見てて、腕磨いてたなんてねぇ!しかも、相手落とすために本人に教え請うなんて、ニクいやり方だよなぁ?知った後、何度俺の銃身も火を吹きそうになったか」
甚「えーと、次は誰だ?」

才蔵辺りが「どういう意味だ?」などと真面目に掘り下げようとする前に、甚八がさっさと遮断する。つまらなそうに口を尖らせる十蔵を蔑視した後、小助は別を向き、

小「次はあんたですよ。また寝てたでしょ、鎌之助さん」
鎌「……え?」
清「一つも喋らんと思えば…相変わらずよのう」
海「十蔵の話が、よっぽどだったんでしょう」
十「おいコラちょっと?」
伊「そういえば、鎌之助のは聞いた試しがないな」

他の全員も同じ顔になると、鎌之助は頭をさすりながら、

「話せば、皆に消されそうだ…」








(※何故かシリアス風)


鎌之助が真田へ来たのも皆と同じく数年前、才蔵が加わる前の話だ。以前の主が天寿を全うしたので、真田忍隊と懇意にしている里からの紹介で、ここに到った。

ちょうど佐助が長期任務に出ているときで、彼と同年代の新顔に興味津々の弁丸は、ほぼ毎日鎌之助に構っていた。


「前と比べ、不自由しておらぬか?」
「いえ。…あ、給料がまだ少ないです」
「ぬっ…鎌之助も、それが好きなのだな」
「はい。欲しい物が手に入りますので」

微笑する鎌之助は本当に優しげで、血生臭さや陰を少しも感じさせない。弁丸も、ほんわかした表情で見上げ、

「何が欲しいのだ?」
「それが、まだ現れておりませんで」
「……んん?」

弁丸が首を傾げるので、鎌之助は説明した。『金があれば、欲しい物が何でも手に入る』と亡き主に教えられ、欲しい物がなかった幼い鎌之助は、『金が貯まれば、欲しくなる素敵な何かが現れ、それを入手できる』と捉え、コツコツ仕事をこなしてきたのだ、と。

意味が分かった弁丸は驚き、それは違うのだと教えてやった。初め鎌之助はキョトンとしていたが、熱心な弁論により理解したのか、暫時沈黙した。

「あと、欲しくとも金で買えぬものもあるぞ。亡くなっておっても生きておっても、人は金では手に入らぬだろう?」

「…生きている方なら、入りますが」

現に、自分たちこそが金で鞍替えする生き物だ。弁丸は何を言っているんだろうと、鎌之助の内心はざわついてくる。

「それでは、身体しか手に入らぬ。心がなければ、おらぬのと同じだ…。──欲しい物、できると良いな」

「………」

弁丸のどこか寂しそうな笑みに、ざわつきは大きくなっていった。













ピチャ、と冷たいものが頬に触れ、弁丸は目を開けた。暗い部屋の中で、何かが自分を覗いている…人の形をした真っ黒な影、双眸が揺らぐのだけが見えた。

弁丸が半身を起こすと、被っていたらしい頭巾を影が脱ぎ、見事な銀髪が現れる。外の月も雲から顔を出したようで、その姿が明らかとなった。


「鎌之助…」

胸や腕、目元が血濡れた彼。髪は黒く染めていたのか、こちらの方が綺麗であるなぁと、こんな状況だからこそか、のどかな思いが湧いた。

「任務か…?」
「…前の主ですが、実は死んでいません。俺の任務は、殿と若君、弁丸様を殺すことです。今までの仕事も、暗殺ばかりでした」
「──」

弁丸は寝所から出て、走った。が、途中の中庭を見て止まる──動かぬ身体が、二体転がっていた。
兄と父ではない、闇装束をまとった者であった。

「……それがしを討つ好機は何度もあったのに、何故だ?早にしておれば、仲間に追われず、討たずにも済んだろうに…」
「仲間など、我らの間にはない概念です。…もう金も必要ないので、抜けることにしました」

今回の報酬は多額で、今度こそ手に入るのではと夢想していた。未だ現れぬ、自分の欲しいもの。手にすれば、このような気持ちになるのではないだろうかと、ここに来てから幾度も感じた…

──欲しいものなど、出来るはずもなかったのだ。『心がないのは、いないのと同じ』あれは正しく、己のこと。そもそも心のない者に、そんなものが湧くわけがない。教え込まれてきたとはいえ、他の道理を考えもせず、ただ己のために屠り続けて。

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