夢結び(後)-4
「さすけー!」
「…あぁ」
林の向こうから駆けてくる弁丸に、息をつく。その陰に従者の姿も見え、あとは任せたと言うかのように、姿を隠した。
「『こだまのみち』に、入ったのか?」
「ううん、弁丸様探してただけ」
弁丸から差し出された手を握り、二人は帰路についた。
「ゆめのもてなしとは、どんなのであろうなぁ」
「あれ?まだ信じてんの?」
「た、たとえばだ!さすけなら、どんなものがよい?」
「俺様ァ?…さーねぇ、想像つかねぇや」
「…しのびだからか?」
「あ、分かってきたね、弁丸様も」
「さすけは、いつもそれだ」
面白くなさそうにする弁丸に、「それもあるけどさ」と佐助は笑い、
「今が、充分だってことなんだよ」
「…いそがしいと、いつもいっておるのに?」
「まぁ、歳食ったらさすがにキツいけどさ」
その頃には、もうここにはいないだろうし…と、内心で思う佐助だが、
「では、さすけが年おいたら、それがしがめんどうをみてやる。やしきで、ずっと」
「──あはは…には及びませんよ、薬でも売っときゃ金には困らねぇし」
「なら、うちでやればよい!今がじゅうぶんなら、ほかに行かずともよいであろう?」
「……はぁ」
気の抜けた返答だったが、弁丸はパァッと顔を明るめ、
「かならずだぞ!?さすけは、大きくなっても、ずっとここにおるのだ!」
「…もう、結構大きいんですけどね」
「それがしが大きくなってもだ!ずっと…」
口調は命令なのに、目では懇願していた。…幼いながら、自分の孤独を分かっているからだろう。だから、こんな忍ごときにこうまで執着する。
と、彼のもとへ来たときから分かっていた佐助だが、それでもやはり、甘く温かいものが湧いてしまうのだ。
(老いても、傍に……か)
脳裏に、二人でのどかに茶をすする絵が浮かんだ。戦の世はとうに終わり、罪人でも生きるのを許され、静かに穏やかに…などという、夢に夢見たはかない望みが。
そして、このときも誓ったのだ。『ずっとお傍にいます』と。
もう、すっかり忘れていた。
あれは、あの頃の自分が密かに抱いていた、『夢』だったのだ。
だから、この姿になって、最後にあんな夢を
重い目蓋を上げると、闇の中にいた。
だが、徐々に濃淡があるのだと分かってくる。濃く映るのは、木の枝や葉で、自分はそれを見上げているようだ。
荒い息が近くなっていき、ズキンと臓腑が痛んだ。それを起点に、全身が激痛に悲鳴を上げ始める。手にぬめるのは、横腹から流れ出るものだろう。
『老いたあの人を、見てみたかったな…』
目を閉じる前にそう思ったのが、きっかけだったのだろうか?…といっても、今の彼とほとんど変わっていなかったが。
目の端にキラキラ光るものを感じ、ぐっ…と顔を動かしてみる。
こがね色に輝く狐が、こちらをじっと窺っていた。
(お前が見せてくれたのか…?)
だとしたら、良い化かし狐に会えたもんだ。…いや、綺麗に見えて、地獄からのお迎えかも知れねぇな。俺様なら、そっちの方があり得る。
…けれど、あれが閻魔からの贈り物なら、あちらの大誤算だ。
──佐助は腹を片手で押さえ、震えながらも立ち上がった。痛い、なんてもんじゃない。だが、それなら自分はまだ生きている。
夢を見る前の、痛みを感じなくなり、視覚も聴覚も途絶えたときよりも、ずっと、
(…悪いけど、そっちにはまだ行かないよ)
誓いを忘れてたことを、旦那に謝らないと。
そして、必ず。…必ず、
“…再び、あいまみえようぞ……”
──七年後のあなたに、会いにいく
‐2013.8.12 up‐
お礼&あとがき
さぎの様、素敵なリクネタをありがとうございました!を、最終こんなものにしてしまいすみません; 実際は年齢そのままという…
初めは20代の佐助が化かし狐の力で14歳になり、トリップ〜だったんですが、もっとややこしくて; 佐助が少年の頃に弔ってやった狐で、恩返しに来たという裏設定。
前編の幸「もう戻ったのか…」は、このモブ忍だと思っての。大戦前にのんびり過ぎなのはスルー、最期になるだろうからあの館で一人になりたいとか、我儘言ったかと。館や料理は、佐助が生きてたらこうしたかったと浸るための、幸村の最後の贅沢。茶を飲んで顔洗ったのは、久しぶりの味に涙が出たから。本当は、幸村も佐助に触れたかったけど、佐助の慌てように目が覚めた。
戦国×必ず髪結いは、どうか寛大な目で; ラスト後は、ハピエンのつもりです。
さぎの様、こんなものになり申し訳ないばかりですが、本当にありがとうございました!
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