夢結び(後)-2



幸村のその必死な様子は、佐助の目や胸をチクチク刺した。


「やることなくて、山降りようとしたんだけど…『夢』だからか、行っても行っても降りらんなくてさ」

「そ…うか…」

幸村は、ふぅっと息をつき、「遅うなって、すまん。寂しい思いをさせたな」

「──は」
「だが、明日から朔の日までは、ずっとここにおるぞ!そのため、務めを終わらせてきた」

と、馬に下げていた袋を取り、「糧もこの通り!」と笑う。

佐助は、力が抜けていき、

「ありなの、それ…?旦那、結構上のお人なんだろ?」
「案外出来るのだぞ、俺も」
「あぁうん、それはすごいけどさ…」


(…あー……くそ…)


弁丸にもよく食らわされるが、またひと味違うものが胸に広がり、佐助は口を止めた。しかし、やはりそれでは悔しいので、

「旦那、やっぱ全然変わってねぇわ」
「…そうなのか?」
「さっきの俺様の心配ってより、俺様がいなくて泣く弁丸様と、そっくりだったし」

「……な」

幸村は顔を歪めると、「泣いては、おらんだろう…」

「どーだかねぇ?昨日も寂しくて、こっちの俺様の夢見てたんじゃなぁい?」
「…!?なっにを、馬鹿な!」

目を見張り紅潮する彼に、佐助の気分は簡単に上昇した。

「主をからかうな、佐助!」
「あっ、俺様湯沸かしてくるねー」

逃げるが勝ちで、佐助は湯殿に走る。…その前にチラッと見た館や外の景色は、灯りも点いていないのに、先刻より明るく見えた。


──佐助はその晩も、次の晩も、毎晩夢を見た。最初に見た内容とは違っていたが、全てが幸村との印象深いやり取りで、鮮明さや夢の中の自分への同調は、日ごとに強まっていく。

そちらが己なのではないかと錯覚するまでになり、進行具合から、今に到るまでの夢は見られそうにないのが、心残りとなる。

が、四日などあっという間で、朔の日の前夜はすぐにやってきた。













爪の先のようなか細い月が、ただ静かに見下ろしている。

明日も、あれと同じ月が上れば…──佐助は、障子を閉じた。



「道は分かっておろうな?」
「大丈夫だって」

布団を敷きながら念を押してくる幸村に、佐助は笑みで応える。
明日の彼は夕刻までしかここにいられず、佐助の見送りが出来ないので、心配で仕方ないらしい。

「…何か、近くない?」
「今日で終いなのだ、大目に見よ」

幸村は開き直ったように、ぴったり合わせた布団の一組の上で言った。…開き直るんなら、顔もそうして欲しいんですけど。佐助の目元まで、うっすら色付かされてしまった。

「こんなに休んだことないから、しばらく仕事にならなそう…」
「ははは…良い良い、今の内にそうしておけ。先の世のお前は、休みなしゆえ」

「……」
「他に欲しいものはないか?もっと、もてなしてやりたかったのだがな」

布団へ横たわった幸村に見上げられ、佐助はゴクッと生唾を飲み込むと、

「じゃ…さ……帰るの明日じゃなくて、次の朔にするとか…は」


「──」

幸村は一瞬息を飲んだが、「…それはならぬ」

「や、まだ休みたいからじゃなくて」
「俺は明後日から国を離れるゆえ、ろくに来られぬのだ。…こちらの佐助も、戻るしな」

「……」

……そんなの、別に良いじゃないか。
と、一旦は思う佐助だが。こちらの二人の睦まじさを見せつけられ、また長く一人でここで過ごすなど…きっと後悔するだろう。

今の世の自分の顔は知らないが、幸村を腕にし、余裕の笑みを浮かべる口元は想像でき、胸がよじれた。


「佐助?」
「…じゃあさぁ……明日大人しく帰るから、これ土産に頂戴よ」

「…?」

佐助に上から見下ろされ、幸村は不思議そうに視線を動かす。こんなものを?と、自身の寝間着を見るが、

「…!?佐助っ?」

胸元から入れられる前に、幸村は慌てて佐助の手を掴んだ。

「き、着物なら、他にも…」
「旦那と俺様って、そういう仲なんだってね?『夢』が教えてくれた」

「は…」
「だったら良いだろ、俺様がもらったって。どうせいつもやってんだろうし、慣れたもんでしょ?『もてなし』なら、旦那のこれでしてよ…」



(──って、何言ってんの俺様……!)


内心では青ざめた佐助だったが、もう後には引けない。早く怒って殴ってくれと祈りながら、幸村の頬に指先を近付ける。…あんな風に言うつもりも、それが欲しいと思ってもいなかったのに。

少しかかったが、幸村も佐助の言葉を理解し、顔を染め始めた。さぁ来るぞと、佐助は覚悟を決める。

幸村は、ゆらっと身体を起こすと、

「……」
「…だん、な?」

拳を待っていたので、彼の所作に戸惑う佐助。幸村は膝を着き、佐助の下穿きの腰紐に指をかけ、

「お前が望むなら…」
「エ゙ッ……ちょ待っ、待って!」
「ぷっ!?」
「うぁはっ…」

(ひぃぃぃ……!!)


下穿きを脱がされそうになり焦った佐助は、幸村の手を払い、慌ててその膝を蹴った。身体を支える柱を失った幸村は、顔面から佐助の股ぐらに埋まってしまい、

…いっそ頭突きにでもなっていた方が、まだマシである。幸村の鼻から唇に正確に当てられ、佐助は情けない声とともに、そこから逃れた。

「嘘嘘!嘘です!ごめんなさいッ」
「ぁ…」

佐助は立ち上がり、真っ赤な顔で喘鳴する。幸村も遅れて起きるが、腰は着いたままこちらを見上げる格好で……佐助の脈拍は上がり、自分の布団へと避難した。

しばらく、外の虫の音だけが流れ、


(へ……?)


クスクス笑う声に、佐助がそろり目をやると、

「人をからかうゆえ、同じ目に遭うのだ」

「から──…」


何てたちの悪い…確かに本気ではなかったが、からかうつもりではなかったのに!と言い返したかったが、

その気力もすっかりなくなり、佐助は素直に謝った。

[ 15/30 ]

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