夢結び(前)-3



「…すまぬ、思慮が足りなかった」

「え゙、いや、あの」
「そうよな……違うであろうな、お前の知る弁丸とは」


(う……ぇええ…?)


ほんの軽口のつもりが…幸村の落ち込みように、佐助の後悔は焦燥へと変わり、

「お、俺こそすみません、嫌味じゃないって分かってます」

「…畏まるなと」
「っあ、ごめん。──違って当然だよな、あのままだったら逆に心配だし。俺様の方が下で、そっちがえらく…男前になってるもんだから、ちょっと悔しくてさ」

「………」

佐助の、恥を覚悟で言った吐露であったが、幸村は(弁丸なら必ず喜ぶ)『男前』にも大して反応せず、

「…お前も、こちらの佐助とは違うものな」
「そりゃあ…」
「こちらとは十余年も連れ添ったのだ、それこそ当然だな」

幸村は苦笑し、「お前の方が、今でもずっとそうであるぞ?」

と、こちらの佐助の話をし始めた。泰平の世になってからは、幸村の政務の(陰の)補助を務めながら、この館の管理と、諸生活に役立つ術や薬草の研究に励み、それで生計を立てているらしい。

深くは言わぬ方がと思ってのことか、仕事については軽くしか触れなかったが、いかに佐助が『男前』であるのかを、それは自慢げに話すのだ。さっきまでの落ち込みが嘘のように楽しそうで、この上なく嬉しそうに。


(……どーせ、俺様はまだ数年ですよ)


全然知りませんよ、育った弁丸様のことなんか。
幸村は、自分を褒めようと話しているのだろうに。と、分かっているのに、佐助の虫の居所はまた悪くなってきた。…さすがに、もう出しはしなかったが。

話が終わると、内のを隠す分、佐助は笑顔で、

「さすがは俺様だねぇ。ま、そんだけ長くいるんだから、当たり前だけど」
「ああ!お前には、これからも世話をかけるが…」

「何か、従者の自慢ってより、恋人とののろけ話聞かされたみたいだよ」

せめてものからかいを口にすると、食器を炊事場へ運んだ。幸村の分も片付け、勝手に淹れた茶を手に、彼の前へ戻ると、

「どうかした?」
「…え!?」
「暑いなら、そこ開けようか?」
「いやっ、良い!」

幸村は赤い顔のまま、茶を一気に飲むと、

「──、旨いなやはり!…だが熱かったッ」
「はぁ…」

ドタバタ走り、水場に顔を突っ込む幸村を、ポカンと見送る佐助。ばしゃばしゃ音を立て顔を洗うと、またすぐに戻ってきた。

「だ、大丈夫…?」
「おっ、う!よし、さて寝ようか!」
「へ?」

首を傾げる佐助をよそに、幸村は寝具を敷いた。…二組並べて。


「俺様、あっちで…」
「ならんっ、どうせ外で見張るつもりであろう!何もおらぬと、俺の言葉が信じられぬか!?」
「だっ…て慣れねぇし、こんな」
「良いからここにおれ!でなければ俺がそちらに入るぞ、弁丸の頃のように」

「……御意…」

幸村の顔には、冗談のじの字もない。佐助は諦め、用意された布団の中へ入った。
それを確認すると幸村も横になり、佐助の方に向いた。

「…そんな睨まなくても、出ませんて。寝て下さいよ」
「に…睨んでなど」

幸村は顔を上に向け、「お前も寝ろ。動けば、すぐ分かるのだからな」

そう釘を刺すと、部屋の灯りを消した。









(…って、口だけかよ)


上から覗き込んでも起きない幸村に、呆れ返る佐助。戦乱時においては、よく闇討ちの餌食にならなかったものだ。きっとこれも、優秀な忍の成果なんだろうが。

…ではなく、佐助だからなのかも知れない。弁丸も、佐助の腕や背の中では、安心しきって熟睡する。大人になっても、彼の気配は脅威と感じないのかも。


(寝顔おんなじ……これで本当に二十※?)


大目に見て二十歳頃だと思ったくらいなので、未だに驚く。人それぞれゆえ顔は仕方ないとしても、この細さは何なのだ。今晩は食べていたが、日頃はどうなのだろう?忍じゃないんだから、もっと肉を付ければ良いのに。ああ、戦がなければ、それも不要だと?背だけ伸びても、こんなのいつポキッといくか

「……ッ!?」
「…んんー……」

(えッ、っわ、ちょっと…!)


主が主なら従者も従者で、佐助は幸村の両手両脚に易く捕まり、身動きを封じられた。彼の身体にのしかかるのは腕で食い止めたが、寝ているのに強い力で抱き付かれ…佐助の方が一回り小さいので、抱き締められるような状態に。

はだけた布団を直す前だったので、しっかり密着している。『着痩せだったか』とそこは安堵し、…そんな呑気にしている場合ではない、佐助は離れようと力を込めるが、

「…さす…け…」

「ぃッ…」

寝言であったらしい、が。
しかも、首元で甘えるように顔を動かされ、佐助は瞬時にそこから抜け出た。──どれだけ焦ったのか、変わり身の術に頼ってまで。


(……今の何!?今の何!?何だあれ!!?)


布団に潜り込み、ドドドドドと打つ鼓動を殺すように胸を押さえる。ギュッと目をつむると、さっき聞いた寝言が頭で反響した。
…あんな声、初めて聞いた。あんな……何と言うか…

実際には震えてなどいないが、そんな風に感じ、全身に力が入らなくなった。
それを分かりきるのもごめんだったので、佐助はそのまま強引に就寝した。


──そして、夢を見た。











明くる朝、隣の布団を見ると、幸村は丸太(変わり身の術用の)に寄り添い、安らかに寝ていた。


(ただの夢…じゃないんだろうな…)


佐助が昨晩見たのは、彼がこれから目にするのだろう、弁丸と幸村と自分の成長や、起こると思われる出来事の夢。戦で使える情報はなかったが、まるで自身が体験したかのように、鮮明だった。

それだけでも驚くのに、佐助に最も衝撃を与えたのは、



(まさか……まさか、主に手を出してたなんて、おれさま…!!)


……しかし、だとすると、昨晩の幸村の妙な言動も理解できる。夢を見る前なら嘘であって欲しかっただろうが、あれを見た後では…

外へ気晴らしにも出られず、幸村が起きるまで、ただじっと待ち続けた佐助だった。







‐2013.8.9 up‐

お礼&あとがき

さぎの様、素敵なリクネタをありがとうございました!が、時間かかってこれで、本当にすみません(>_<)

同い年に会うネタも、すごく楽しそうでした!年齢逆転とか、絶対可愛いやつだと思ったんです、佐助が。なのにこんな話に…でも、とてもやりたくて。美味ネタをこんなにしちゃって、ただただ申し訳ない。あ、「マジ」は使いますよね戦国佐助(^^;

二人のやり取りばっかですが、一応オチと繋がる背景のつもり; 次では、もう少しほのぼのさせたい。シリアスもある予定。良かったら、次もご覧下さい^^
さぎの様、本当にありがとうございました!

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