夢結び(前)-2




「その…『佐助』さんって、俺に似てません?」

「──え?」
「…やっぱり」

幸村が見せた反応に、佐助はさらなる確証を得た。図星を突かれた際の弁丸と、見事に同じ顔だったのだ。こんなときだが、笑いそうになったほどに。

「自分の主も、あなたに似てるんです。…正気じゃないと思われましょうが、多分俺、ここの『佐助』と同じ奴じゃねぇかと……」

キョトンとする幸村に、佐助はここに来るまでの話をした。

弁丸を探していた記憶はあるが、どの道から来たのか思い出せない。ここは自分からすると十余年先の世で、夢の中にいるとしか思えないのだ、と。…感覚が明瞭なのは、深く考えないことにした。


「………」
「…って信じらんないですよね、そんなキテレツな話」

茫然と黙る幸村を、佐助は上目で窺うが、

「…いや、かえって合点がいった。昔のあやつに瓜二つだが、あれには親兄弟はおらぬし、同じ名であるし……そうか、お主も佐助…」

「……うわぁ、やっぱ弁丸様だわ」

佐助は頭をかくと、「まぁこんな謀りあるわけねぇけど、あっさり信じてくれるとは…」

「む、俺がお前を信じぬはずなかろう!?」
「…や、だから俺っていう証は…え?」
「ついて参れ」

縁側から降り立つと、幸村は佐助が来た方に進んでいく。佐助も付き従うと、少し拓けた林に着き、ツタで出来た小山の前へ案内された。

「この穴道には曰くがあってな、通り抜けた者に『長き夢』を見せるのだという。恐らくお前は、これを通って来たのであろう」

「…穴?なんて、どこにも」
「うむ。平素は閉じておるが、朔の晩になると開くのだ…面妖だが」

夢の中にいる者は新月の夜にいざなわれ、そこから元の場所へ戻っていくのだと。

「次の朔まで、あと五日。…案ずるな、お前は必ず元の世に戻れる。先の世に佐助がおるのが、何よりの証ぞ」

「…ぁ、はい…」

こちらに劣らぬ突飛な話なのに、佐助もまたあっさり納得した。というより、彼の言うよう安堵した、のが正しい。
内心では恐れ戦いていたのを、見透かされていたのだろうか…と思うと、頬に熱が集まった。──格好悪い…

さっきまでは『全然変わってない』と感じていたのに、こうして並んでみると、背丈は伸びただけでなく越されているし、小山を見つめる横顔は凛としていて、…これをよくぞ、幼子の顔に重ねられたものだ。佐助は頬を冷まし、視線も戻した。

新月の晩まで館で過ごせば良いと誘われ、他にあてもないので、断りようもなく、

「ご厄介になります、弁…幸村、様」

「ッ……」
「え?」

カッと赤面した幸村に、佐助は目が丸くなる。何故、とこちらも焦ってくるが、

「名では呼ばぬのでっ、佐助は…!」
「は?…じゃあ」
「あ、あと、そのように畏まるな。弁丸にするのと、変わっておらぬよ」

「……マジっすか」

我ながら、見上げた不遜根性である。どこまでふてぶてしくなったか見てみたかったが、こちらの佐助は、五日以内には戻らないとのこと。
だが、幸村のようにすんなり信じるわけがない。いなくて良かったと、即思い直した。

あの館は幸村の別邸で、佐助以外は置いてないらしい。馬を使えば本宅からすぐとはいえ、不用心さに佐助は目を光らせたが、

「ふもとに、真田の者を忍ばせておる。が、それも要らぬ計らいよ」

「だから、そんな油断が」
「いや、昔とは違うのだ、佐助」

幸村は微笑し、佐助を見下ろすと、


「今やもう、天下は泰平となったのだから」













日が落ちると、幸村が夕餉を振る舞ってくれた。
広くはないが、二人には充分な一室で、向かい合って食した。


「……」
「…口に合わぬか?」

「──あ、いや、旨いけど。…色々驚いて」

佐助の頭は、幸村に尋ねたいことであふれていた。先ほど聞いた『泰平と…』についても、一切説明がないままなのだ。

あの幼い主が、というより、彼のような武士が料理を…いや、そんな酔狂者は昔にもいたが、彼がそうなるとは意外だった。しかも、味付けは佐助のものと似ている。ということは、自分が教えたのか…?

戦が終わった──仕え先の武田が、天下を治めたのだろうか?真田は弁丸の兄が継いだのだろうから、それで幸村は、こんな館と屋敷を、自由に行き来しているのだろうか。
…そして、そんな世であるのに、何故自分はまだ従者としていられている?


「すまぬ。余計なことを言ったな」
「え?」

幸村は、彼もまた悩ましげな顔になり、

「どのような戦があり、今の世になったか…お前の口の固さは分かっておるが、武田のために、それを使ってしまうやも知れぬだろう?さすれば、生き死にが変わる者が出るゆえ」

「あぁ……、…ですね」

なるほど、やはり彼は変わっていない。佐助なら、誰の命運が変わろうと武器にするだろうが、…彼やこの国が健在なら不要だ。

佐助の頷きに、幸村は顔を明るくすると、

「それ以外の話なら、構わぬだろう。…しかし、佐助には畏れ入るな。このような目に遭っても、一つも動じておらん」

「…まぁ、忍だし(?)」
「ぬぅ…見た目だけか、可愛いのは」
「──はいッ?」

聞き捨てならない言葉に、佐助は目をむくが、

「幼い頃に見ていたお前は、随分と大人に感じたものだが。格好良くて…それが、こちらが上だと、こうもなぁ」

「ちょっ…」

幸村の目は幼子を慈しむようなもので、本人は良い意味のつもりで言ったのだろう。が、どうしてか佐助の心は深くえぐられ、つい、


「弁…あなた様こそ、昔はあんなに可愛かったのにねぇ?声もすっかり違うし、嫌味まで言えるようになっちゃってまぁ、びっくりだよ、その変わりよ……ぅ」


(……や…ば…)


言う内に変わっていく幸村の顔に、佐助はすぐさま後悔した…

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