落ちたが最後3






三成が幸村の監視を止め、数日が経ったある休日。午前中に、吉継からメールが入り、


『──で、珍しいモノを見たww』

添付写真は、三成の宿敵である同級生の家康と、幸村が親しげに歩いているものだった。


(何だと…!?)

もう彼には近付かないと決めたというのに、あっさり現地へ駆けた三成である。







二人に追い付くと、彼らは空手の道場に入っていき、三成はにわかに驚いた。幸村も、同じところへ通っていたのだとは。

開いた戸の外で見物する関係者に紛れ、様子を窺った。


(ふん…見かけ倒しか)


と思ったが、幸村は高校入学後に始めたばかりらしい。
家康への対抗心から三成も中学までしていたので、競技には詳しい。幸村の努力の度合いはすぐに分かり、練習が終わるまで見入ってしまった。


「ありがとうございました!」

幸村の顔には汗が光り、その周りはキラキラと輝いて見えた。──三成は、ふいっと目をそらす。
家康と話しているのが聞こえたのに、見もせずその場から離れた。



(知れば知るほど、差が広がる…)


吉継のメールに易く釣られた、愚かな自分を呪う。何がどうなれば、彼が己に傾倒するというのか。あのとき勘違いした自分を、斬り刻んでやりたい。

三成は道場を去り、場所を移ることにした。










(…さっぱり理解できん)


五冊目の本を閉じ、ぞんざいに置いた。

図書館の個別デスクに腰を据え、『恋愛小説』を熟読した三成だが、結果は上記の通り。どの登場人物も自分には似ても似つかず、全く共感できない。

自分はただ、


『政宗殿ーっ!』
『佐助〜!』


「……」

『それこそあり得るか』と三成は立ち上がり、「…ッ!?」──すぐに座り直した。
そしてもう一度中腰になり、さっき見た長机へ視線を向ける。

遠目でも分かる、幸村が席を立ち、バッグを手にゲートの方へ歩くのが見えた。恐らく、下のカフェテリアに行くのだろう。


(来ていたとは…)


尾行は止めたのにと苦く思うが、本人がいなくなればホッとした。

彼がいた机に行ってみると、積まれた本が数冊。読書家だったのかと、良い意味で驚いた。時代小説、軍記物、スポーツ研究、政治・経済…様々なジャンルがある。


(奴も、これが…)

三成の好む分野や既読書もあり、頭の中に、それについて幸村と語り合う妄想が浮かぶ。数分は浸っていると、ゲートの向こうに彼の戻る姿が。

三成は素早く席に戻り、机の囲いに身を潜めた。









(…やはりか)


机に頭を乗せ眠る幸村の背を、密かに笑う。
彼の手の先にある本は、三成も以前読んだもので、あまりの難解さに挫折したのを思い出していた。何度も読み、克服はしたのだが。

離れて座る女性が、冷房の効きに身震いする。──幸村には、不要な気遣いだろうが。


『Hey、寝んな。帰んぞ』

政宗ならば笑ってそう起こし、佐助なら膝掛けなどを掛け、寝かせてやったりするのだろう。そして、起きたときに彼らに向ける、幸村の顔は…


「……」

三成は、何も借りずに図書館から去った。













後日も、機があればつい幸村を窺ってしまう三成だったが、今でははっきりとした、ある異変が気になっていた。

──あの三人が、パッタリ一緒にいることがなくなったのだ。
皆変わらぬ様子だが、何となく空元気のようにも見える。


(…私には関係ないが)

と思うものの、彼らの名が出る会話には、無意識に耳が傾いてしまう。

そんなある日の、放課後のこと。


『さな…あ、Yさんって言いますね。にね、MさんとSさんが、とうとうコクったんです!私、たまたま見ちゃって』


(──何!?)


声が聞こえた『占い研究会』のドアに張り付き、三成は耳をそばだてた。

『「両方ない場合と選ばれなかった方は、一生お前との縁を切る」…みたいなこと言ってました。うぅ〜』

『それは辛いな』
『でしょう!?Yさん、全部選べなくてきっと苦しんでますよっ。私だって、あの方が二人いたら絶対選べませんー!』

『…うん?』


──三成は、即座に校庭へ走った。











今日の部活は自主練で、幸村は校外のコースを一人で走り、途中の道端で休憩していた。


「よう」
「旦那」
「……二人とも」

政宗と佐助が後ろに立っており、幸村の顔に緊張が走る。

「で、どうなの?」
「まだ決心つかねぇのかよ」

「いや…」

彼らの不機嫌そうな様子に、俯く幸村。二人は溜め息をつき、口を開きかけると、


「真田幸村ァァァァー!!!」


「…へ?」
「Ah?」
「…!?」

突然の怒号に三人同時に止まり、同じ方向を向く。と、漫画のごとく土埃を立てながら、猛然としたスピードで人が駆けてくる。


「そこまで悩むのなら、良い方法がある!今貴様に必要なのは、視点の切り替えだッ!」

「……はい?」
「何だ?…アンタ確か、生徒会の…」

「いっ、石田親衛隊長殿…!」

三成の勢いと形相に気圧される彼らだが、幸村は背筋を伸ばし、彼を見返した。

すると、三成はビシッと幸村を指差し、


「真田幸村!貴様今日より、私と『恋仲』になれ!!」




「──Ahァァァァ!?」
「ちょっ、いきなり何言ってんの!?」

幸村が反応する前に二人が叫び、三成を驚愕の目で見るが、

「貴様ら、勝手な言い分を真田に押し付けるなッ!真に想うなら、こいつが選んだ相手との仲を後押しすべきだろうが!」

「そっ…」
「つか、押し付けてんのはどっちだよ!?」

「黙れ!貴様らと私は全く違う。真田、その憂いは私が即刻消してやろう」

「い、石田……殿…」

直球だったため幸村でも分かったようで、彼は真っ赤になっていた。

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