永遠に2


「…いや、そうだな。最近知ったぞ、お前のその意地の悪さは」

本当に面食らう。今まで見ていた、いつまでも追い付けないと思わせられる大人の余裕で一杯だった姿とあまりに違っていて。
これまでも、飄々としておどけた性格の一面はあったものの。

愛情表現――好いた相手にしか見せないのだというのなら、理解できなくても喜ぶべきことなのかも知れない。

口では反論しつつも、実はよく分からないむずむずした気持ちが湧いてくる感じもする。


「…嫌いになっちゃった?」

変わって、不安そうになる佐助。
幸村は慌てて、

「そんなことあるわけがないッ、一層――」


――ああ、自分は何と学習能力のない…!


頭を抱える幸村に、佐助は回した腕の力を強める。

「さ、佐助」
「――旦那、ズルい…」
「な、何だと」

いわれのない非難に、幸村は目を丸くするが。
嬉しそうに顔をほころばせ、ややではあるが頬を色付かせる、その表情を目の当たりにすれば。

…お前の方が、狡い。さっきまでは散々からかっておったくせに。
自分は、きっと慣れることはなく、これに翻弄され続けるのだろうな。

悔しいが。…これが、惚れた弱味というものか。


「…不思議と言えば、他にもあってさ」
「…?何だ?」
「うん。……旦那のことが、ものすごく好きなんだよね」
「――!?」

佐助の顔は、至って真面目である。

「あのさ、最近自覚したことだってのに、すごくない?これ。もうずっと前から…下手したら、生まれる前から恋してたんじゃねぇのってくらい」
「…!…っ!」
「まあ、出会ってすぐアンタのこと気に入ってたのは確かなんだけど。…かすがに対しては格好付けてたってのもあるけどさ、実際そこまで嫉妬しなかったなぁって。だから、俺様こういうたちなんだろうなーって思ってた」

幸村は、どうにか早くこの話題を終わらせたかった。

「そ、そうだお前!かすが殿のことは本当に大丈夫なのか!?」
「うん、それも。――旦那のお陰?…ね、不思議でしょ」
「――そ、そんなこと、ない」

幸村は、真顔で言う佐助に頭の中がすっかりてんやわんやである。

「お、俺も少し前に自覚したのに、同じように想って――…あ、」


あああ、と声にならない叫びを上げる。

俺はさっきから何を破廉恥な…!


「…も、本当にすごいよね、旦那のその無心の口説き」
「何が…!笑うな…っ」
「笑ってねぇって。感心してんの」

佐助は目を細めながら、「でも、俺様以外に言うのは絶対ナシね。俺様妬け焦げちゃう」

「言うわけないだろう、お前以外にこのような…」
「――俺様、大感激!」

ニッと笑うと、

「…ねぇ、旦那は妬いたりしなかったの?かすがに」
「?ああ、全く」
「即答かよー…。俺様、寂しい」

グスン、と涙する真似。さすがに幸村にも冗談だということは分かった。

「な、何故…。…かすが殿は、お綺麗で、情に厚く優しくて、真面目で、上杉殿に心から仕えておられて…お前が、昔から心惹かれていて」
「うん、だからさ…」
「だからだ」

「は?」

佐助は、本当に分からないという顔になる。

「お前にそのように想わせるかすが殿であるから、俺もそう思っておった。う…む、何と言えば良い?…お前があんな風に大事に想う気持ちが俺にも分かったほどだったゆえ…かすが殿は、俺にとって日の本一の姫であり。…お前とかすが殿はお似合いで、いずれ結ばれるのだろうなとも思っておったし…」



「――旦那って…」

…本当に。

畏れ入ったというような息をつく。


「かすがが聞いたら、さすがのあいつも喜ぶかも。…妬けちゃうなぁ」

どちらにだ…?と、尋ねたくもあるが。


「全く…。何故そのようにしか考えられぬのだ、お前は」
「だってー…」

少し考え巡らせたようだったが、佐助は何か企んだかのように口元を揺らした。
当然、幸村は警戒する。

(何か、また良からぬことを言うつもりだな…)

「…話は戻るんだけどさ。俺様の精進のために、旦那は沢山付き合ってよね?」
「なぁっ――?」

途端にその顔が燃える。

「え、駄目?…じゃあさー…」

腕を放し、「俺様、修行して来ても良い?妓楼とか、その手の小姓に手ほどき受けて…」

「な…に…?」
「だって、旦那にいつまでも辛い思いして欲しくないし…早くよくしてあげたいし。でも旦那が嫌なら無理強いできるわけないだろ?――けど、俺様もこれっきりとか絶対我慢できないし。だから、さっさと腕上げてりゃ…」






「許さぬ!」


怒声とともに、幸村が佐助の腰に抱き付いた。勢い良過ぎて、佐助が「ぐぇっ」と唸る。
布団の中なので、幸村が上に乗りかかる状態で…当然重い。

「…だ、だんな」

嬉しさと苦しさで、佐助は非常に複雑な表情である。


「断じて許さぬぞ!上手くなどなくて良い、俺以外で精進するな!それに、そんなことをせずともお前は充分…」


……………………

………………

……………



自らの爆弾発言に、幸村は真っ白になり、無言のままもう一組の布団へ移った。…頭ごと丸くなり、隠れる。
あまりのことに、涙すら浮かんできた。



「…旦那」

佐助がとびきり優しい声で、布団の上からその手で撫でてくる。

「ごめん。…出て来てよ」
「……」

幸村は、自身の顔の熱が治まってからやっと、その顔を覗かせた。

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