永遠に1


※最終話です。佐助×幸村

甘々口・胸焼け注意;

二人ばかりのやりとりですが、長いのでスミマセン(;_;)

よろしければ、後書きも読んで頂けたら幸いです。

















――ドサリ。








何かが落ちる物音に、幸村は目を覚ました。

「……?」部屋の中は変わった様子はない。


ズズズ……バサッ――


窓の障子に、その正体の影が映る。


…ああ。雪の落ちる音、だったのか…

しかし、今朝はやけに暖かい。


そう思い、布団から出ようとするが――


「――!」

枕の隣を見て、仰天する。

そこには、自分の愛しい忍の姿。
…しかも、信じられないことに眠っている。


(い、一緒に寝て…)

幸村は顔が熱くなるのを感じるが、昨晩のことをすぐに思い出し、そっちの方がとんでもないことだったのを自覚した。

あの、見たこともなかった、様々な彼の顔。
思い浮かべるだけでも、心臓に悪い…!

ドックドックと激しく脈打つ鼓動を静めようと努めながら、ふとその眠る顔に目がいく。


(久し振りに見るな…佐助の寝顔)

――というより、眠っているところ。


『佐助さんは、いつ眠っているのだろう』…などという話題は、家臣や忍の間でよくなされているものであるらしい。

自分は、休めとしょっちゅうしつこく言ってはいるのだが、何せ嘘の上手い彼――知らないところで給金以上の働きをギリギリまでこなしているのだろう。

(あの音にも気付かぬ…とは。余程疲れていたのだな)

こんな穏やかな顔は……これも、初めて見たかも知れない。
長い年月をともに過ごしてきたものの、知らない顔がまだまだあるということか。…これからは、自分だけがそれを見られるのだ。

何なのだろう、得も言われぬこの充足感というか…胸の中がくすぐったい感じがするのは。

「……」

しかし、どうする…。よく眠っているようだから、起こすのも気の毒だ。
いつも自分が起こしてもらう側だから、いかがしたものやら…

――というよりも。

幸村は布団をめくり、自分の姿を見る。
着流しがきちんと身に着けられている上に、身体はさっぱりしている。…下帯も、恐らく昨日のものではなく、新しい…

佐助の顔を、まじまじと見た。――あれは、夢ではないはず。
胸元を広げて覗き見ると、うっという声が思わずもれる。それに、身体をよじると――腰の鈍い痛み。

…やはり、夢ではない。

ということは、佐助が清めてくれたということか…
ありがたいが、――恥ずかしい。
その寝顔を見ているのも耐えられなくなり、布団に顔を埋める。


「…なーに、人の寝顔ずっと見つめちゃって」
「!」

顔を上げると、佐助の穏やかな笑顔が目に飛び込んできた。

「――おはよ、旦那」

そう言うと、本当に幸せそうな…笑みを浮かべる。

「佐助…。…お、はよう…」
「うん。――本当によく寝た」

んん、と横になったまま伸びをする。

「旦那は?…よく眠れた?」
「あ、ああ…」

どんな顔を向ければ良いのか、全く分からない。

(目が合わせられぬ…)

そんな様子を悟ったのか、佐助が布団の中で幸村の身体を優しく抱いた。

「……!」
「旦那…無理させてごめんな。辛かったろうに…」

力は込めずとも、両手を握り締めたことがその想いを表す。

「でも…ありがとう。――俺様は、一生アンタのものだから。…アンタをずっと守って、離れないから。必要なくなる、そのときまで」
「…!馬鹿者…っ」

幸村が、ぎゅうと力を込めて抱き返す。

「必要なくなる日など、来ぬ…!お前は、この幸村の人生が終わるときまで傍に居よ――」

「…うわお。俺様ってば、幸せ者…」

おどけた口調ではあるが、少し小声になったのを、幸村は聞き逃さなかった。

「無理など、しておらぬからな。…俺も望んだことだったのだから。それに…」

幸村は、逡巡する。

「それに…悪くはなかった…とか?」
「――!!破廉…っ――つ」

幸村は顔を燃やすが、身体の痛みに眉をひそめた。

「大丈夫!?…ごめん、分かってるから」

と、優しげに幸村の背中を撫でていく。その顔に昨夜のものが重なり、幸村の頬が染まる。

思い直したように、佐助に向き直った。

「…いや、――お前が優しくしてくれたから、恐らくそこまで痛くもなく…」


痛くもなく…何だ。
――自分は、何を言おうとしている?

さらに、色々な感覚や何やらが思い出されて、佐助の顔を直視できなくなる。


「旦那、本当に?…無理してない?」
「しておらぬ…」

そう答えるので精一杯である。

「そっか…。良かった…」

息をつくと、「早くよくなるように、俺様精進するからね」

そんな台詞には全くそぐわない、清々しい笑顔で言った。

「お、前は、本当に――」

破廉恥な、と言いかける幸村を遮り、

「まあまあ。こんなの二人のときしか言わないから、許してってば。好きな相手に破廉恥になんのは仕方ないことなの。旦那は知らなかっただろーけど。…悪いことじゃないんだから、嫌がらないでよ」

「い、嫌…などでは」

佐助の寂しそうな声に、簡単に踊らされる幸村。

「うん、恥ずかしいだけなんだよねー?…ま、その反応が初々しくてたまんないんだけど」
「…分かっておるなら、言うな」

幸村が睨んだ。
だが、頬を染めながらしたところでは、怖くも何ともない。むしろ、佐助にとって可愛くて仕方がないものの一つである。

「無理。これ俺様の愛情表現だから。苛めてるんじゃないぜ?愛しんでんの」

クスクスと忍び笑う。

「解せぬ…」
「俺様も、不思議だなぁ。こんな奴を好きだっていう旦那が」

幸村はムッとなり、

「俺の言葉が信じられぬと申すか!俺がどれほど――」

言いながら、うっと詰まった。
…目の前の、みるみる輝いていく佐助の表情。

(――く、また乗せられた…)

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