望む心7

…そのまま、かなりの時間が流れたのだが。

根気良くも、佐助はその手を止めることはしなかった。

快感と違和感が交差する中で、幸村の唇からこぼれるのは、甘い声と…すすり泣くような。
後者の声にも頭が痺れてしまいそうになるのを、佐助はひたすら耐える。


「――さ、すけ…っ、も…ぅ」


その瞳を潤ませながら、佐助に許しを請う姿は何とも妖艶で。


…別人、みたい。


佐助は、クラクラと目眩が起きそうになるのを感じていた。


「旦那…ごめんね」

――でも、少しでも痛みを和らげてあげたいから。



「ち、が…っ」

幸村は、首を振る。

「――も、う…苦しい…っ、どうにか、して…くれ」

二つの瞳からは、今にも涙が溢れてきそうだ。


ごくん、と佐助は生唾を飲み込む。


「あ…やっぱり、無理…だよな、初めてで、いきなり…」




「ち…がう、…も、痛く、な…い」

えっ、と佐助は声を上げる。


「…旦那、我慢は良くないよ」

自分の気も静めるように、優しく言うのだが、


「なら――頼…む。…助け…」

「だ、旦那…?」



「…かしくなる…っ。もう、これ以、上…っ」


よく聞いてみると、その声は酔ったようにとろけきっている。
気が付くと、その表情も身体も…全て。



「…っ、だんな――」

一瞬で佐助の糸は断ち切られ、その上気しきった身体を倒し。


「う――あ、…く、うぅ……」


眉を深く寄せながら、幸村は苦しげな声と息をもらして佐助を受け入れていく。
いくら時間をかけたとはいえ、初めての行為。…激しい痛みと、圧迫感が急襲しているに違いない。

――だが、途中で止めることなどできるはずもなく。


「ごめ――だん、な…」

できるだけ優しく、緩やかにと心がけるのだが、抑えていた分返ってくる刺激が強過ぎて、急いてしまいそうになる。


「へい…きだ。……こ、れし…き」

幸村は、佐助を見上げながら微笑する。無理をしているのは明白だが。

組み敷かれて――これまでの戯れのようなものとはケタ違いの。…恥ずかしさで憤死しそうな心境であろうに。
その健気さに、愛しく想う気持ちが溢れて。

だというのに、昂りは勢いを増し。


「旦、那っ…だん、な…っ」


理性を失いそうになるのを、懸命に抑制する。


「…っ」


幸村は、佐助の予想通り恥ずかしさで死にそうだったが、その目は決して閉じはしなかった。

目の前の、恋しい人の――初めて見るその姿。

苦しげに、…切なげに顔を歪ませて。
自分を喰らい、――さらに求め。
胸が苦しく…熱くなり、痛みさえも薄らぐ気にさせられる。

彼のこの顔を、初めて見たのは自分ではない。…そんなことは分かっている。
しかし――どうしようもなく嬉しくてたまらない。

…こんな痛みなど。


そのお前を見るのと引き換えだというのなら、何と些末なものであることか。



「さ、すけ…っ、佐助っ…」


無性にその名を呼びたくなる。

手を伸ばすと佐助のものが被せられ、指と指が絡み合う。

「旦那…」

吸い寄せられるように、二つの唇が重なった。

口付けに集中する余裕もないのだろう、佐助は小さく息をついて離れる。


「…佐助」
「ん…、なに…?」

苦しそうな息をしながらも、優しい口調で聞き返してくる。

幸村は頬を染めながらも、おずおずと佐助を見て、

「あ……その…。――き、…きもち…良い…か?」

そう言った後で、すぐに視線をそらした。

いつも言われることへの小さな逆襲――などではなく…。
その想いは、すぐ伝わってきたので。


「うん…すっごく。…今にも達してしまいそう。良すぎる――よ」

と、正直に答えた。


「そ、そうか――。良かった…」

予想以上の言葉に、幸村の顔は赤味が増えながらも、ほころんでいく。



「――旦那、その顔……反則」
「え?……あぁっ――」

限界だというように、佐助が動きを急に上げた。


「旦那…っ、ほん、とにっ…いい――」


「さ、すっ…け、…あっ」


幸村の下腹部へ手を持っていき、胸に口付けする。
身体中が熱を帯びている幸村は、わずかな抵抗すらできはしない。
ただただ、悦びに飲み込まれていく他ない…


「んっ…あっ、さ…すっ…」
「だ…んな、っ…は」

「は…あ……っ、…ぅあ、は……あぁっ――」

「――…っ」


佐助の眉間に深く皺が刻まれ、抑えた短い声とともに身体が細かく震えた。
と、ほぼ同じくして幸村も佐助の下で昇りつめたようである。


その手の力が弱まり、上がっていた膝もぱたりと布団の上に沈んでいった。




「旦那…?」

「――」

長時間に及ぶ、鍛練とは全く違う体力を使う行為で、やはり相当な精神力を消費していたのだろう。幸村は、そのまま意識をなくしてしまったらしい。


「旦那」

唇へ顔を寄せると、安定した息づかいが感じられた。
佐助は、ほっと胸を撫で下ろす。

その身体を抱き締めた後、自ら薬を含み、幸村へ口付けた。
薬を移し、嚥下させる。
…しばらくすると、その寝息がさらに安らかになった。

先ほどまでの姿が嘘のように、あどけない子供みたいな寝顔を眺めながら、その身体に着流しを着せていく。
自身もささっと羽織り、幸村を抱いて外の湯殿へ向かう。


――ごめんね。…痛い思いをさせて…


外の冷気に凍えないよう、その腕で温かく包み込む。


でも……ありがとう。
今日――この夜のこと。…一生忘れない。
きっと、死んだ後でも。

俺という存在は、これで完成されたんだ。



知らない内に、頬に温かいものが伝っていたようで。

佐助はいつもの顔で、自分に笑いかけた。
同じものでも、今までとはどこか違う、



――暖かい、それで。







*2010.10〜下書き、2011.6.25 up
(当サイト公開‥2011.6.19〜)

あとがき


ここまで読んで下さり、ありがとうございます!

やっちまった…(汗)
こんなフワフワでうやむやな破廉恥ならなくてよろしいと思う; でも、二人の愛を見たくて。またまたよめる展開ですけども;;;

いやしかし、無茶苦茶ですみません。宿とかね。もう色々。乱文珍文長文で;内容これだし。甘さというものをどうやったら素敵に出せるのか…

佐幸大好きやぁ…。佐助は旦那に盲目。

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