望む心5


「顔…見せてよ」


羞恥に染まった顔を、素直に――だが必死に向き直すその姿に、佐助の支配欲が刺激される。

(あんなこと言っといて…最低な奴。本当に黒いよね、俺様ってば…)


「う…っ、――あ、…っ」


懸命に耐えて――だが、もれてしまうその声。…何て、扇情的な。

自分もよく知る快感…だというのに。別に、誰がやってもそう変わることのないもの――なんだろうけど。

なのに、自分が与えてやっている…自分がすることでこうなってくれている、と思うだけで。
こんなにも熱く……愛しくなれるなんて。


「――気持ちいい…?」

恥ずかしさで死にそうだろうけど。…ごめん、聞くのを抑えられない。


「言う…な…っ」

潤んだ瞳と、眉間の皺が佐助の心をさらに駆り立て、その手を速めた。


「は、ぁ…っ――もぅ…っ」

「いいよ。…出して」

優しくそう言うと、幸村はふるふると首を振り、

「い、や…だ。布団…佐助の手…が、」
「大丈夫。汚くなんてないから」

言いながら、首筋へ唇を押し付けた。


「や…っ――ぁ、あ…」


一際甘い声をもらした後、一瞬その肢体が強ばり――しばらくしてから弛緩する。

息切れするような呼吸が少し治まってくると、幸村は、叱られる子供のような顔になった。


「どうして…佐助…。手…が」

すまぬ…と目を伏せ、「拭かねば…」

布団から出ようとする幸村を、佐助は片腕で捕らえ、


「良いの。…こうしちゃうから」

手の平をぺろりと舐めてみせる。

幸村は真っ青になって、その手をどかせた。

「何てことを――!」
「えー…だって」

何とも思わないような表情に、幸村は怒ったように、

「そんな…お前に、そんなことをさせるくらいなら」

俺が、と佐助の手にその舌を這わせていく。


「だ、んな…」


(う、わ……これは――何とも)


思ってもみなかったその行動に、佐助は妙な興奮を覚えた。


「……」

幸村が顔をしかめたので、佐助はつい吹き出してしまう。

「そりゃあ、そうでしょ。普通は口にしないから」
「…じゃあ、お前は何故…」
「だって、旦那のだもん」

言い切る佐助に、幸村は目を見張る。

「――てかさ。むしろ俺様が気持ち悪いね、これ。…旦那、引かないでね?」
「あ……あ」

一通りの知識しかない幸村は、何がおかしいことなのかあまり理解できていない。

しばらく沈黙していたが、

「佐助…一つ聞きたいのだが」
「ん、なーに…?」

その甘い返事に落ち着かない心地になりながらも、

「あの…佐助は、……初めてなのか…?」


(うっ――!)


「…ごめん、旦那。…任務で…」

不潔!とか言われんのかなぁ…。


「いや、それくらい俺も分かっておるが。…その…つまり…」

ごにょごにょと濁す幸村を見ている内に、佐助もようやくピンときた。


「――俺様も、初めて。…男とは」
「…そ、そうか…」

幸村は、再び黙りこくる。


(旦那ってば、もしかして喜んで…いや、まさか不安がってる――とか?)

そんな奴に任せられないって?


「だ、」大丈夫だって!知識は完璧――

そう言おうとした矢先、

「すまぬ、な…。おなごとは、全く違うであろうに。あのように綺麗で華奢な…。…代わりにもなれぬ」

沈んだ口調で、幸村は佐助を見上げた。

息は整ってはいたが、その透き通るような茶色い二つの瞳は、まだ少し潤ったままで。

佐助は、自分の考えよりも遥かに純粋で献身的な思いに、またもや心が揺さ振られて仕様がない。


「…馬っ鹿…。さっきも言っただろ、何でこうしたいのか。――代わりになんて、するつもりはない。…アンタを抱きたいんだ」


佐助は幸村の背後に回り、着流しを肩から引き下げた。
目の前に白く光る、しなやかなその背中。

「……っ」

特別弱い背筋の真ん中を指でなぞりながら、唇で吸い上げる。
右手の指はその首元を這い、左手は幸村の片手首を優しく掴んで抵抗を遮る。幸村は、空いた方の手を佐助の腕に留まるように置いた。


「――綺麗だよ」

耳元のすぐ傍で、そう囁く。

「旦那は、誰より綺麗だ――」



その低音は、胸の奥までもくすぐっていったかのよう。

自分は男だというのに。…そう言われて嬉しいのは。

――幸村を、言いようのない幸福感が襲う。




佐助の右手がゆっくり背中を降りていき、腰の下へ到達し――

瞬間、幸村が身体を硬直させた。

――……


やがて、その手は離れていく。

「…?」
「――今日は、ここでやめとこうか」

優しい笑顔でそう言った。…だが、どこか違和感があるように思えたので。
自分の行為を悔やむように幸村は、首を振る。

「大丈夫…だ」

しかし、佐助はもう一方の手も放し、幸村の正面へ戻った。

「どうして――」

と、追うようにその手を取ると、

「…っ!」佐助は、すぐさま振り払う。



「佐助…」

幸村は、佐助の顔を驚き見る。

(――震え、て…)



「なっさけない。…土壇場でビビるなんて」

佐助の表情は、ひどく心細そうに変わり、自嘲するように苦笑していた。

「…急に、怖くなっちゃった。――だって、こんな…旦那だけが痛い目に」

細かく震えるままの手を、幸村の肩へ乗せ、

「怖い…。旦那を労れるか分かんないし…」

――嫌だ。…傷付けたくない…




「佐助…」


…初めて見た、そのように不安げな。

いつも余裕に溢れている彼が、このように…
――それも、自分を思うことで。


「だんな…」

佐助の戸惑い声は、幸村が起こした行動のせい。その身体へすがるように抱き付いた、その。


「佐助が、好きだ。…心から。誰より――何よりも」

回した両手に力を込める。


「…だ、んな…」
「俺は、大丈夫だ。頑丈だし…。それに、今お前に力をもらった。痛みなど。…ましてや、お前に付けられるものなら」


だから…


「お前を、見せて…くれ」



「――……」

しばらくすると、佐助の腕も幸村の背に回る。

…もう、震えは止まっていた。

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