望む心4


「ねぇ、旦那ー…俺様にも食べさせて」
「あっ…すまぬ、俺ばかり」

ハッと、その手から離れる。――が、佐助は食べようとしない。

「だからー…俺様にもやって。あーん」
「あ、ああ…」

この――いい大人が…と、半ば呆れながら一粒をその口へ近付ける。


「――!?」


寸前まで運ぶと、急に佐助がその手首を掴み、幸村の指を菓子ごと口へ含んだ。

「お、おい…っ」

どこにそんな力があるのか、戻そうにも全く引くことができない。

もう菓子は受け取っただろうに、執拗にその指を一本ずつ舐め上げてくる。

指と指の間――その付け根までも。



う……あ、何だ…



ぞわぞわとそこから上がってくる感覚は、気持ち悪いと言っても間違いではないのに。
――繰り返される内に、よく分からなくなってくる。

その姿を見ているせいかも知れない。


…何故、そんな恍惚と――……



「……」


やっとやめてくれたかと思うと、今度は手首と手の平に舌を這わせてくる。



「う…っ――さ、すっ」

力が入りきらないが、何とか逃れた。
佐助は口端を上げ、

「手の平も、足の裏と同じなんだろうね、やっぱり。くすぐられるとさぁ…」
「だから…」

何だというのだ、もう…

まだ、全身が粟立った感じがする。


相変わらず笑顔のまま、佐助は自ら菓子を口へ入れた。

(…あ、最後の一つ…)



「言ったじゃん。…いーっぱい気持ち良くしてあげる、って」


あの、瞳も心も全て奪われてしまう甘い笑みとともに、幸村に近付き――


「――ん…」

…今回は、触れるだけの優しいものと思いきや。

すぐにその腰を拘束され、熱く、深い口付けを落とされる。



「んっ……ふぅ……っ」



三度目でも全く慣れない激しさにどこまでも翻弄され、簡単に舌の侵入を許してしまう。


(――っ?)


突然甘い味が口内に広がり、それが先ほど佐助が含んだ菓子だということに気付いた。

佐助は、器用にも菓子をこちらの口に落とさず、それを餌か何かのように幸村の舌を存分に味わっていく。

知らずに甘味を欲した幸村の喉がごくりと鳴り、二つから湧いた透明な雫が唇の端より流れた。
佐助は幸村の口横のそれを舌ですくい、離れる。

自分の方もそうする為にペロリと出した舌が、何故か幸村の胸を甘く刺した。


…菓子は、幸村の口の中である。


「何度も言うけど、旦那がいけないんだからね…?そんな顔、するから」
「…どんな顔だ…」

はぁ、と幸村は息をつく。

「んー…と、俺様以外には絶対見せて欲しくない…」


「すっごく……色っぽい顔?」



「……」

幸村は、眉を下げ泣きそうな顔になる。

「…その顔も。こういうときにはそそられちゃうからヤバいって…」
「――……」

もう幸村には何が何だか理解不能だった。



「よっ、と…」
「はッ?な、なんっ」


幸村が動転するのも無理はない。
佐助が彼を抱え、布団へ下ろしたからだ。


「自分で来られ――?」

そのまま自分へ覆い被さる佐助を仰視する。



「…いくら旦那でも。…分かるよな」



……まさか。


と思ったのと同時、部屋の明かりが消えた。



外の明るい月の光や雪の白さが障子を柔らかく照らすので、お互いの姿はよく見える。


…あの夜と同じように、耳朶から、首筋や鎖骨――胸元へと、口付けをされ。

違うのは、もっと熱く、さらに切ない息づかいと。愛しげに刻まれていくそのしるし。


「…あっ――、はっ…ぁ…」


…堪えてももれてしまう声は、悦びを含み。


いつものように、破廉恥!などと叫んでしまいたい気分ではあったが、自分の有り様こそがそう思える気がし、言うのがためらわれる。

元親の、あの言葉を思い出す。

『全て欲しいのは、すごく愛しいと思っているから――』

つまり、今の自分はこの上ない幸せな状況…なのだろう。

――しかし。


「さす、け…っ」
「んー…?」
「お前――は、嫌…じゃ、ないのか」
「……?」


「お、れは…男、だ。…気持ち、悪くは…」

「――!」


凍えたような吐息で尋ねる幸村に、佐助の心は大きく締め付けられた。

一旦その身体から離れ、布団の上にある背に両手を滑り込ませながら、力を込めて抱き寄せる。


「気持ち悪くなんて、ない。あるわけがない…!」


首を振り、真摯な瞳を向けてくる。

いつもの彼とは違う、熱された大人の男の表情に、幸村の心臓がドクンと跳ねた。


「俺様は、アンタだからこうしたい。…旦那のことを誰より、何より愛してるから。誰も知らないアンタの姿を知りたい。俺…のことも、知って欲しい。俺を、一番近くで」

感じて欲しい。――この、命を。

「俺の方こそ、ごめん…。旦那は何もかも初めてで――こんなに綺麗なのに。俺が、奪って…」


「さ、すけ…」

幸村は、佐助の辛そうに変わる顔に手を添えた。


「…俺は、奪われるのではない。――俺も、お前をもらうから…。俺だけの…お前を」

「旦那――」

佐助は、その手に自分のものを重ねる。

そして、全身がこれまで以上に燃え上がるのを感じていた。


「…っ」

幸村は、びくりと顔を横に背ける。――佐助の手が、着流しの帯下の…その奥へ入ってきた。

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