望む心1


佐助×幸村。お館様も少し登場。

※かなりぬるいですが、破廉恥描写含みます

※甘々口。長いです…;スミマセン














――飛び交う多くの怒鳴り声。

もどかしくも薄ぼんやりとしか聞こえず、また、周囲を見渡す視界もひどく狭い。

何人もの、黒い影のような人間たちが戦っている。皆が皆素早い動きで、全く目に捉えることができない。
そう思っている間に、一人――また一人と、声もなく地に倒れていく。そこからじわじわと広がっていく、赤い血…。

自分は、身動きがとれずにいた。背後から何者かに抱え込まれているらしい。だが、敵意はなく、守ってくれようとしていることはその感触で分かる。

少し離れた場所で戦い合う黒の集団を、瞬きする時間も惜しいほど、目を凝らして見ていた。
…彼らの隙間に見える、チラチラと動く橙色の髪。


離せ…!俺も加勢に――


そう思い身体を動かすと、ふっとその力が弱まる。

自分を守ってくれていた者がゆっくり倒れ、離れた場所に、彼の命を奪った敵の顔が白く浮かぶ。…そして、敵は自分ではなく、あの集団の方へ視線を送った。

思わず自分も目を向けると、ハッとしたようにこちらを見ている彼の顔。
鳥を使いそこから抜け、自分の方へ駆けて来る。

目の端に、敵が武器を構えるのが見え…


無我夢中で、彼の元へ走った。














「……」

ゆっくりと目を開けると、ひんやりとした空気の中、清潔な畳の匂いが鼻腔をくすぐった。――さっきまで嗅いでいた気がした血の臭いなど、どこにも感じられない。
両手を顔の前に上げてみると、…カタカタと細かく震えている。


夢…だ。…単なる、夢だ。

現実のことではない。――決して起こさせぬ。


(…佐助)



恐らく朝早くから起きて、隊をまとめたりしていることだろう。
――昨夜遅くに甲斐の領地へ着き、ここの領主の屋敷へ泊まらせてもらっていた。


(情けない…。夢で、こんなにも怯えるとは)

息をつき、布団から出ようとすると、

「旦那、入りますよー」

部屋の外から、たった今思っていた人の声。

「あ、ああ。起きておる」


「…って、ホント起きたばっかじゃん」

その姿に、佐助は呆れたように笑ったが、すぐに表情を固くした。

「どうかした?…顔色、悪いみたいだけど」

近寄り、幸村の額に手を当てる。
佐助の顔が急に迫ったので、幸村の心臓は途端にうるさくなった。

「いや――大事ない」
「…本当に?…布団、少なかったのかな…」

と、幸村の手に触れ、「うっわ、すっごい冷えてる。旦那なのに――」

「さ、佐助…」

意識するあまり、幸村の声は弱々しくなっていく。
それを見た佐助は、

「あ…もしかして。…怖い夢でも見た?」

からかうでもなく、本当に心配そうな瞳を向けてくるので。
幸村も、いつものように強がることができそうになかった。

「何故…分かるのだ」

恥じ入るように顔を上げると、

「だって」

佐助は微笑し、「旦那、小さい頃…よくそんな顔してた。怖い夢を見たとき」

「そう…だったか?」
「うん。――そんで、俺様に泣きついてさぁ。可愛かったなぁ」
「う…。幼い頃なら…許されるだろう…」
「今でも許してあげるよ?――ほら、どうぞ」

と、佐助は満面の笑みで両手を広げてくる。

「ばっ…。――い、いらぬ世話だ」

幸村は真っ赤になり、折れそうなほど首を回して目をそらす。
いい加減緩んでいた髪紐が、反動でほどけた。

「あ…」

落ちてくる髪をすくい上げ、仕方ないように再び佐助へ向き直る。

「…すまぬ。やってくれるか…?」

片方の肩に髪をまとめ置く。…反対側の首筋が、白く露になった。

「――もう。素直じゃないんだから、本当に」

佐助はその表情のまま幸村を抱きすくめ、その首筋に顔を埋めた。

「さ、佐助ッ」

いよいよ耳まで赤くなる幸村だったが、抵抗すらできやしない。

「風来坊にはあんなに素直なのになぁ…。俺様、悲しい」

ぐすん、と鼻をすする――真似をする。
だが、幸村はハッとし、

「す、すまぬ…!そんなつもりは」

続けてあわあわと、「違うのだ…。…は、恥ずかしく…て」

「俺様のこと、恥ずかしいの…?」
「そっ、そうではなく…っ」

どう言えば良いのだ…っ?


代わりに、その背に恐る恐る両手を回し、軽く力を込める。


「…旦那」

その顔は幸村には見えていないが、だらしがないほどにやけていた。

(…やっぱり、この意地の悪い性格…すぐには直らないのかな)

佐助は、自嘲気味にそう思うのだが。

でも…どうしてもやりたくなるから、困ったもんだよねぇ。

ごめんね、旦那。


「嘘、嘘。…ちゃんと分かってるって」

ようやく離れ、今度は爽やかな笑顔で言う。

からかわれていたことすら気付かず、幸村は心底安心したような息をついた。
思った通り、まだ赤い顔のままで。

「…今も、可愛いなぁ、旦那は」

小声で言うと、幸村は軽く睨み、「もう幼子ではないぞ…」と、わずかに頬を膨らませた。


…うん、それは分かってるって。

そういう意味じゃないんだけど――まあ、良いか…


「久し振りだなー、旦那の髪結いするの」

その手触りを懐かしむように、丁寧にすいていく。
甲斐にいた頃と何ら変わりない、滑らかなそれ。

「自分でできてた?アンタ、これに関しちゃ滅法苦手だったけど」

幸村は苦い顔になり、

「初めはそうしていたが…。その内、見かねた元親殿がして下さるようになってな…」
「――ふーん…」

少々機嫌を損ねた佐助だったが、

「ま…良いか。――あいつなら」

もし、あいつまで旦那に下心があったら俺様も気が持たない。
唯一の砦だったんだよねぇ…。

「…あいつとは友達になれそう」

それを聞いた幸村は、目を輝かせる。

「良い方だぞ、元親殿は!きっと佐助も気に入る!」
「そう…かもね」


ちょっと、旦那に似てるところがあるし。

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