友1


前章が終わり、脳内はすごく意欲的なんですが…。起承転結って?文章力が欲しい。

幸村慶次の、これからよろしく!な話です。タイトルそのまま…。
お館様も少し登場します。













佐助が任務に発ってからの毎日、幸村は相変わらずいつものように鍛練を行っていた。一人で、あるいは同じ武田の家臣や、信玄に稽古をつけてもらいながら。

しかし、誰より長く幸村の鍛練に付き合ってきたのは、やはり佐助である。二槍をも扱いながら、ひょいひょい身軽に動き回れる身体能力は、優れた忍からの賜物に違いない。

幼い頃は、あの軽やかさに憧れて彼の真似をよくしていたものだ。
自分の立場を理解できるようになってからは、ひたすら今のようになるまで必死に励んできたが…。

今日は一人。

佐助が任務で何日も居ないのはよくあることだが、その度に鍛練が物足りないものに感じてしまう。
あの持ち前の器用さで、ありとあらゆる戦術をしてくれるのが、知略に長けている幸村にとっては何よりの刺激になる。
さらに、自分の好敵手である独眼竜――伊達政宗。彼との戦いに備えるやり方までも…。
ただ、佐助自身が何故か政宗のことを目の敵にしているというか、心底相容れないらしく、その力の入りようといったらない。

一息入れて、顔や身体を拭う。
今日は武田の屋敷でやっていたので、人の声が随所からしてくる。

「幸村様、こちらでしたか。お客人がお見えです」
「客人?」

家臣の言葉に、幸村は首を傾げた。

「はい。それが、あの…以前上田にいらしたという、前田慶次殿、なのですが」
「前田殿が?」

家臣が戸惑うのも無理もない。
上田を訪ねて来たときも驚いたのだが、前田慶次という男は、まるで物見遊山の気分で有名な『甲斐の虎』、武田信玄に会おうとしていた。
その性格は、巷で『風来坊』と言われているものそのままで。

本当に飄々とした、この戦乱の世にありながら殺気を持たず、それでいて驚くほど強いという何だか掴めない変わった人物で、こちらはすっかり調子が狂ってしまった。
戦った後も、彼が重きを置いている『恋』がいかに良いものかを散々聞かされ、最初は決して理解できない相手だと思ったのだが。

『恋をすることで人はもっと強くなれる』と語ったときの、あの瞳の奥に小さな哀しみが見えた気がして。…何か抱えているからこその明るさなのだろうか、とも思い。
だが、彼から放たれるあの暖かい空気は、きっと生来のものなのだろう。傍にいるとこちらも毒気を抜かれてしまう、実に不思議な人物だ。

今回はまたどんな理由で。今度こそお館様にお目通り願おうというつもりか?
彼に対する敵意は、とうに無い。

家臣も判断がつかなかったのだろう。
慶次は、門の前でぶらぶらとその所在を持て余していた。
相変わらず赤や黄の派手な衣装、高い位置で結った長い髪に羽根飾り。しかし、それらを趣味良く着こなしているということは、幸村でも分かる。

「前田殿!」
「よっ、久し振りー」

慶次は、人懐っこそうな笑顔を浮かべて幸村の肩を叩いた。

「久し振り、じゃござらん。何をしにここへ?某に何か用事でも?」

自分よりも遥かに背の高い相手を見上げながら、その肩の手をどける。

「冷たいなぁー。用が無けりゃ来ちゃいけないのかい?俺はただ、友達に会いに来たってだけなのに」
「友達…?」

幸村は、誰のことだろうかと小首を傾げた。(本人は至って本気である)

「え、その反応ひでぇ!」

慶次は傷付いた表情になり、泣き真似までしながら、「戦ってお互いの力を認め合った後は、熱い友情が生まれるものなのに!昔からお決まりの、自然な流れなんだぜ!?」

などと喚く。もちろん、冗談半分なのだろうが…
真面目な幸村には、通じるはずもない。

「あ、あの…某、その…恥ずかしながら、何も知らず…!しかし、大変な失礼を――誠に申し訳ござりませぬ!」

と、見ていて気の毒になるほど慌てふためいていく。

「…じゃあ、改めて俺ら、友達だよな?」
「はい!…では、そうすると、前田殿は、某の力を認めた…と」
「ああ、もちろん!熱い闘魂!って感じですごかったな。楽しい喧嘩だったよ」

(け、喧嘩…)

幸村はガクッと力が抜けるのを感じたが、再び笑顔の戻った慶次に安堵する。

「某も、前田殿の強さには感服致したので、…嬉しゅうござる。その、友…になれて」

照れたようにそう言う幸村を見て、慶次は少し良心が痛んだ。
別に嘘を言ったわけじゃないが…泣き真似なんて、やり過ぎたかな。

幸村のような、真っ直ぐで裏表のない人間はなかなかいない。
慶次にとっても初めて出会った珍しい人物だったので、大いに興味を引かれた。
…それとも、壊れた友情や失くした恋情などの過去から抜け出したくて、代わりのものを求めているのかも分からない――が。

ふとよぎった暗い気持ちも、何の疑いもなく接してくる幸村を見ていると薄らいでいく。
そうだ。そんなこととは関係なしに、ただ素直に会いたい、親しくしたいと思ったから、ここに来たのだ。

(ま、からかいがいがあって面白そう、ってのも否めないけどな…)

「良かったー追い返されなくて。いや、本当に遊びに来ちゃっただけなんだけど…大丈夫?」
「ああ、少しこちらで待っていて下され」

屋敷に入ってすぐの部屋に通される。
意外と長い時間待たされて退屈してきた頃――

ドスドスという足音が響き、襖の前で止まった。

「?」

一瞬シン、と静まりかえったかと思うと、襖の一枚がものすごい破裂音とともに、文字通り吹っ飛んだ。

…そして、そこに堂々たる姿で立っていたのは、

「か、甲斐の虎…?」

赤い鎧装束に身を包んだ、かの武田信玄。

あまりの衝撃に、慶次は完全に固まっていた。

「お主が前田の風来坊とやらか」

いかつい眼光とともに、信玄は慶次に向き合った。

「幸村から聞いたが…あやつと友になった、と」
「は、はい」

やっべー…これ、あれかな…『こんな悪い子とは遊んじゃいけません!お父さんは許しません!』…みたいな?

青ざめる慶次を尻目に、信玄は、

「お主は、前田の家や…織田軍とは…」

――あ、そういうことか。
というより、そう危惧するのが常識だっけ。

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