蜜5

佐助は、仕方ないと言いたげな顔で、

「…まあ、機会があったら…ね。俺様も当然ついて行くけど」

結局、幸村の消沈顔に根負けしてしまったらしい。

「…!それは、当たり前だ…っ」

みるみる、先ほどの破顔に戻る幸村。



「――じゃ、そろそろウチも」

と、佐助が背後の騎馬隊を振り返った。

幸村は、ゆっくりとその笑顔を消していく。
慶次が苦笑しながら、

「俺が、帰りも送り届けるって言ってたけど…その必要もなくなっちゃったな」

「――……」

何か返したいのに、幸村は言葉が出てこない。

ここ最近の激動の出来事から遡り、あの旅立ちの前日までが断片的に頭に浮かび――喉の奥が熱くなる。

「なあ――猿飛さん」

慶次が佐助に話しかけたので、二人とも意外そうに彼へ目をやる。

「…何?」
「えーっと…。俺が言うことじゃねぇけど…」

言いにくそうにしながらも、

「こいつのこと…よろしくな。…誰よりも幸せに」

「……!」

思わず幸村は、慶次をもう一度見直した。


「あんたの前でのこいつの笑顔…最強だから。幸にも言ったけど――それが曇れば、いつでもあんたを殴りに行くからな。俺の幸せはこいつなんだから、そうなるとこっちも困るんだ」

「頼むぜ?」と、念を押すように佐助の顔を見据えてくる。

顔は笑っているが、瞳の奥にはあの炎を潜めていて。
…その想いは、佐助にも痛いほど伝わってくる気がした。


「アンタに言われなくても…そのつもりだよ」

佐助は、正面からその視線を受け止める。



「……」

幸村は、まだ行動できずにいた。

(…どうすれば)

言いたいことは、沢山あるはずなのに。


「旦那」

幸村の肩を軽く叩き、「俺様、先に進ませとくから。…後ですぐ追って来てよ」

と、隊の方へ向かう。

「佐助――」

驚き見るも、既にその姿はない。

騎馬隊は移動を始め、徐々に後ろ姿が小さくなっていく。

「気、利かせてくれた…?」

慶次は、戸惑っていた。…政宗には、あんな風だったのに…


「…佐助は、慶次殿のことを…『イイ男』だ、と」

ようやく口を開けた幸村は、とりあえずそう言ってみるしかなかった。

「へえ、それでかな?」

照れ笑いする慶次だったが、「…というより、お前に甘いってことか」

幸村の頭に手を触れ、その柔らかい髪を撫でる。

「――……」
「俺には言わねぇの?同じ背丈になるって」

冗談ぽく笑い、幸村の顔を窺った。
幸村は見上げて、

「…慶次殿は、良いのです。やはり、その手は…安心致す、ので」

甘えるのも…今日で最後。

「まだそう思ってくれてたんだ…嬉しいねぇ」

慶次は笑顔になり、「こんなの、いつでもやってやるよ。…っていう心意気は、覚えといて?」

「…また、某の心を読みましたな…」

幸村も、眉を下げながら微笑む。

「慶次殿には…。言いたいことが、山ほどあるというのに」
「もう、聞かせてもらったよ。――充分だ」
「そのような…」

気落ちする幸村を、「こらこら…」と慶次が咎める。

「俺の幸せは…何だっけ?
俺が大好きなのは――?頼むからさ、」


…笑った顔を、見せてくれよ。



「は、い…」

素直に言うことを聞く幸村。…その顔は、相当無理しているのが丸わかりだが。

慶次はキョロキョロと周りを見渡し、

「本当に、兄さん…いない、よな…?」
「?…はい」

幸村の肩へ手を軽く乗せ、



「俺も――挨拶」

――その身体を、しっかり抱いた。





「なーんて。…何度目だってんだよな」

はにかみながら、すぐに離れようとするが。



(…あ、れ)



幸村の両手も、慶次の背に回されていた。
…かすかに力も込められる。



「心より…感謝しておりまする、慶次殿…」

そう言って、上げたその顔は。



初めて見た――特上の笑顔。



「某は、幸せです…この先もきっと。そして、慶次殿もずっと幸せに――必ず…致します」





――本当に、どうしていつも。



望む以上のものを与えてくれて。




……その蜜は、毒よりもたちが悪い。







「俺も…俺こそ、本当にありがとう…」

慶次は穏やかに続けた。

これだけは…言っておかないと。


「…沢山、悩ませてごめん。…でも、沢山……俺の為に悩んでくれて、ありがとう……」



お前がそこまでしてくれたんだ。…俺も、最高の笑顔で。



離れてお互い向き合ったときにあったのは、二つの温かい笑み。



それらは、どこか似通っていた――








*2010.10〜下書き、2011.6.23 up
(当サイト公開‥2011.6.19〜)

あとがき


ここまで読んで下さり、ありがとうございます!

もう、本当に妄想と捏造が爆発で申し訳ないですが。これで、幸村モテモテ完了。後はずーっとこれが続くんだ…(´∀`)エヘヘヘヘ気持ち悪くてすみません。あと、政宗様を大分崩壊させてごめんなさい。あの最初のくだりは必要ない; けど、やらせたくて。
クサいし、先がよめる展開で面目ない;

あともう少し…。自分なりの佐幸ラブラブををを

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