吐露5







佐助…?


急に黙りこくった佐助を、幸村は心配そうに見つめた。

「旦那」

彼はよく知った笑顔になると、

「――教えてあげる。…風来坊の恋人になる前に」

そのまま幸村の衿元を両手で掴み、畳へ押し倒した。

「っつ、…佐助、何を」

今にも消えそうな灯が、大きく揺らめく。

その明かりを背にした佐助の顔が、ひどく妖しく見えた気がした。

見たこともない、その表情。

「…だって、知らないだろ?…それじゃ、すごく驚くと思うから。…俺様が、指導してやるよ」
「な、に……」
「大丈夫、かすが、軍神とくっついたからさ。…不貞とかじゃないからね?」


幸村の目が見開かれる。

(かすが殿が…。――佐助…)

「そんな顔しなくても、俺様はもう平気だって。結構前のことなんだから」



それより、自分の心配したら…?



と、佐助は微笑を浮かべ、幸村の両手を自分のもので押さえつけ、覆い被さった。

指と指の間に自分のそれを割り込ませ、自由を奪う。

その手は冷たく、幸村の熱はどんどん失われていく。



――何故、彼が。…自分にこんなことを。



どこか、現実ではないようなその光景に、幸村の頭はゆっくりとしか機能しない。




そして、佐助の顔が急に近付いたかと思うと。





「――んっ――」



自分の唇を塞ぐ感触。




息が止まる。

……これは、佐助の。





瞬間、幸村の全ての時間が止まり――すぐに動いた。




「何…を!」

真っ赤な顔で幸村は片手を振りほどき、その甲で口を覆った。

だが、佐助は怯むことなく、むしろその姿に火を点けられたかのように手をどけ、再び幸村に口付けをする。

――今度は強く。そして、長く。

「――……っ!」

初めてのことに幸村はろくに呼吸もできず、また恥ずかしさに目を閉じる他なかった。


やっと離された頃には、息も絶え絶えで――少しずつ瞼を開ける。

佐助はどこも変わった様子に見えず、そのことが幸村の胸を切ったように傷付けた。




「…良いのかなぁ、俺様にそんな顔見せて」

小さく笑い、そのまま幸村の耳朶を甘噛みし、舌先で弄ぶ。

「…は、……ぁ…」

ゾクリと鳥肌が立つような感覚がし、深い溜め息がもれてしまう。
どこか自分の声でないようで、落ち着かない。…もう、聞きたくない。


しかし、逃げようとする幸村を許さず、佐助はその吸うような口付けを、彼の首や喉、鎖骨の辺りに落としていく。

その都度もれる声と、白い肌に咲く、紅い花。



「も……やめ――さ、すけ…」

無意識に潤んでしまった瞳で請う幸村だったが、それは逆効果だということを彼は知りもしない。

「――やだ。…もっと聞かせてよ、その声。きっと、あいつも…喜ぶよ」




やめろ……そんなことを言うのは。




幸村は、目の奥が熱く、また胸がズキリと痛むのを感じる。

しかし、抵抗は言葉にも行動にもならず、ただ為すがままが続いていく。

いつの間にか着物の合わせ目は乱れており、腰紐もほどけかかっていた。

佐助は手を滑り込ませ、幸村の背を指先でなぞる。
そのまま緩やかな力加減で、腰辺りまで滑らせていった。

「――っ、ん……ぅ」

思わず仰け反り、佐助の胸にその息がかかる。

「旦那、昔っからここ弱いだろ。…くすぐったいところってな、触れようによっちゃこうなるんだよねぇ…」

佐助は小さく笑み、

「――気持ちいい…?」と、意地悪くも尋ねてくる。

幸村は、目をそらして首を振った。




「…素直じゃないなぁ」

クスッと笑い、その胸に顔を埋めた。

「なぁ、もっとすごいことやるんだぜ…?これくらいのことで嫌がっててどうすんのさ?」

その橙色のサラリとした髪が肌をくすぐる。…佐助らしい、清潔な匂いがした。




――これが、通じ合った心の元でなされていることであれば、どんなに…




幸村の目尻から一筋の涙が流れた。

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