独白5

すると、かすがは柔らかく微笑んで、

「確かに忍は嫌なことが多いが、私は忍に…それである自分に、誇りを持っている。お前だってそうだろう」
「…まぁ、ね」
「それに、私が忍でなかったら…あの方には出逢えなかった」
「…だね」

やはりそんな言葉を聞くのは辛いが、同時に自分の主たちのことが心に浮かび、口元が緩む。

(そうだな、旦那たちと逢えなかったら…って思うと)

正直、ゾッともする。
きっと、色々分からないものだらけのまま、からっぽな人間になり果てていたことだろう。
…忍としては今よりもっと優秀だったのかも知れないが。身軽で何にも捉われず、迷わず。

(ま、今も狡猾さはピカイチだけどね)

でも、とかすがは佐助を見やる。その顔は、依然柔らかいまま。

「そんな風に言ってくれて…心配、とかしてくれるのはお前だけだから。お前にも簡単に死んで欲しくないし…」
「幸せになって欲しい?」

冗談のつもりで言ったのに、

「…そうだな」

と肯定され、調子が狂ったからなのか。何やら喉や鼻の奥が熱くなり、目を閉じたい衝動に駆られる。


――何だこれ。…失恋、したくらいでさぁ。


と、言うよりは。やっと分かった気がする。
恋情、だけではない。様々な情がそこにはあった。大切な友としての情、姉のよう、妹のように慕う気持ち、その全てが彼女の幸せを願っていた。

(家族なんて知らないけど)

こんなこと、あの人たちに仕えなきゃ、分からなかっただろうけど。
…ああ、だからか。かすがに対する気持ちが、こんなにも温かいものになったのは。

人を深く想うのって…辛いなぁ。
叶わなかったときの、この受ける痛さときたら。
でも、知らないままなんて、もっと嫌だけどね…

軍神の奴、かすがを幸せにしなきゃ許さないよ。
…つーか、まぁ…。そうできるほど、もっと強くなんなきゃ駄目だな俺様。

昨晩のあの美しさは、自分を牽制しようとしたものだったのか?
技というより、内から滲み出る気のようなもので殺された、と錯覚した。
…かすがへの想いはそれほどに、と思っていいのか。
あの軍神を自分が焦らせたのだ、と考えると、少し誇らしい気もしてきた。

(俺様のこと、結構イケてると思ったってことだよな…)

だがすぐに、自分こそ彼に見惚れていたのを思い出し、軽く落ち込む。
脳内に浮かんだあの姿をかき消そうとするが、かすがを隣に並べてみると、悔しいがお似合いの二人。
軍神が自分と同じような人間だったらもっと悔しいのだろうが、ここまで違うとまだ納得はいくというもの。

「俺、かすがのこと好きだよ」
(あ、言っちゃった)

「…!お前、恥ずかしげもなく、よくそんな…」

かすがは呆気にとられている。当たり前だが、あれで本心が伝わるはずもない。


今、自分はどんな顔をしているんだろう。
一度でもその想いを言えてスッキリしたのか、真の心に気付かれなかったことに安堵しているのか…。そのどちらでもあるのだろう。
予想とは裏腹に、心が凪いでいくように感じられた。


「…私も、お前のことは――大事に思って、いる」


…充分だよな、ここまで言ってもらえたらさ。
俺様の愛も、全く伝わってなかったわけじゃない、って。そう…思っとこ。

「嬉しいねぇ。――さ、幸せを分けてもらえたところで、そろそろ戻ろうかねっと。軍神と仲良くな」
「う、うるさい。帰り、気を付けてな。…それと」
「ん?」


―――………


『お前も、たまには自分の気持ちに従え。…無理はするな』

最後にかすがに言われた言葉を思い出す。
一瞬、実は自分の想いに気付いていたのかと思ったが、そんな器用な真似が彼女にできるはずもない。

どうやら、かすがには佐助が普段から色々我慢していて、表裏の顔の使い過ぎに限界がきてしまうのではないか、というような気がしてならないらしい。
――だが、それは深読みというものだ。

確かに、昔の自分は荒んでいたというか、怜悧だったというか。
それでいて表では人好きのする笑顔の面を被る、その使い分けに疲弊していた気もしないではないが。
しかし、今ではそんなことは一切と言っていいほどにない。

もう、昔の自分とは違うのだ。



(――あ、でも、)



佐助は思った。

(次、本気で惚れた娘と出会ったら…遠慮せずにいこうかな)


風の如く木から木へと駆け抜ける。
その懐には、主に頼まれた団子一式をしっかり抱えながら。

旦那のあの様子なら、静かにこの話を聞いてくれそうだな。
前なら絶対話そうとか思わなかっただろうけど。

(…何か、聞いてもらいたいや。そんで、あの元気を分けてもらおう)


少し、久し振りに戻る甲斐の国。懐を触ると、主の喜ぶ顔が目に浮かぶ。
釣られて自分も笑みがこぼれているのに気付き、思わず苦笑してしまうのだった。







*2010.10〜下書き、2011.6〜アップ。
(当サイト公開‥2011.6.19〜)

あとがき


ここまで読んで下さり、ありがとうございます!

こんなんでしたが、本っ当に佐助が一番大好きなんです!!
3では分からなかったんですが、佐助はかすがちゃんなんですね。いつも追っかけてらっしゃる(^^;

でも、かすがちゃん憎めない!謙信様とのバカップル振りがたまりません(^o^)で、二人はお幸せに、佐助はしっかり振られるという。

私の中での妄想の第一歩でした。

でも実は気付いてないだけで初めから旦那にこそ心許してました。ってのを信じてやみません(^q^)

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