吐露3










…このように美しいものは、初めて見た。
お館様や、佐助にも見せたかった…。













「…綺麗だねぇ」


突然、背後から聞こえてきた声。





…それは紛れもなく、たった今思い浮かべていた人物のもの。





「――佐、助……!」

幸村は、元々大きな目を際限なく見開き、後ろを振り返る。


そこには。

…もう二月は会っていなかった――本当に懐かしい、彼。



「佐助!」

もう一度その名を呼び、確かめるようにその肩へ両手を置いた。

「久し振り、…旦那」

あの、いつも見せてくれていた優しい笑みを幸村へ向ける。

「何故――」
「さっき着いたとこでね。騎馬隊と一緒にさ。ちょっと下りたとこの屋敷に入らせてもらってる」

「そうか。――そうか…」


「……」

慶次や政宗たちは不穏げな空気を漂わせるが、幸村は彼らに背を向けているので気付いていない。

「皆、旦那に会いたがってるよ?」

佐助が、誘うように微笑んだ。

「そりゃ行ってやれよ、お前」

元親が勧めると、慶次や政宗がたちまち不機嫌になる。

(…え、何だってんだ?)

哀れ、罪のない彼には全く分からない。

「風来坊、世話になったね。――下の屋敷だから」
「ああ。…幸、後で迎えに行くな」
「はい!すみませぬ、行って参りまする」

元気良い返事に、満面の笑みを見せられれば、慶次たちもその空気を緩める他ない…。





――佐助と二人、屋敷への道を下って行く。

「…佐助」
「何?」
「息災…であったか?お館様は…武田は、変わりなかったか?」
「うん、心配することは何も」

佐助は、幸村不在中の甲斐の様子を大まかに話した。

(良かった…。お館様)


「――旦那は?…元気だった?」
「ああ!お前に話したいことが沢山あるのだぞ!」

その明るい顔に、佐助は目を細め、

「…そうなんだ。そりゃあ楽しみだねぇ。後でゆっくり聞くとして――ほら」


「幸村様ー!」

勢揃いした、騎馬隊の者たちの姿。


「おお…!」

感嘆の声を上げ、幸村は懐かしい彼らの元へ駆け下りて行った。











その部屋の襖を開けてみると、探していた人の背中をやっと見つけられた。

「佐助…?」
「ああ――もう、良いの?」

佐助が振り向く。

「皆、長旅で疲れておるだろう。早めに休んでもらわねば」

そう答えながら、「…佐助は?…疲れておるのではないか?」

「俺様は平気。…せっかく旦那に会えたってのに」

その言葉に、幸村の胸は高鳴る。

(…違う。佐助はそんな意味で言ったのではない…)

そう必死に抑え、ずっと話したかった、様々なことを語った。

都に来るまでに立ち寄った土地のこと、こちらに着いてからの日々、真の強さのことも…。

まくしたてるように言い並べたので、詳しくまでは伝わってないだろうが、佐助は上手く相槌を取ってくれた。


「――色々あったんだねぇ。一番の驚きは、お遊び処に行ったってことだけど…」

佐助が、ニヤニヤしながら言った。
幸村は慌てて、

「お、お館様に言うのか…っ?」
「内緒にしといてあげますよ」

相変わらずの笑った目で、

「…そんなに美人だった?」
「ああ…」

幸村は、それを見てあの瞳を思い返していた。

「へぇぇ」と、佐助はどこか満足した顔になる。


「本当は、お前も連れて来たかった…このような、旅。――片倉殿を見る度、そう思っておったのだ」

幸村は、予選会からの給金の話をし、「…褒賞金にはほど遠いが」

と、目を伏せる。

「良いよ、そんなの。旦那が稼いだお金じゃない。もらえねぇって」

佐助は困ったように笑い、

「でも…そんな風に思ってくれてたんだー。俺様、大感激!」

いつものおどけた調子で、感涙にむせぶ真似をする。

「いやっ、断固として受け取ってもらうぞ!団子でも買うたら良いであろう」
「って、それ結局アンタの物になるじゃねーか!」
「何を申すか。俺は決して――」
「いーや、アンタはいつもそう言って結局――」

やいのやいのと、他愛もない言い合いをしばらく続け、最後にはどちらからともなく笑いが起こり、終わった。

(…ああ、本当に。懐かしい――)


「――佐助」
「んー?」
「…良いものだな。――友とは」

幸村は、目を閉じ呟く。「ここに来て…さらに教えられた」


閉じた瞼の上から感じる光が揺らいだ気がし、再びその目を開いた。
佐助が灯の前を動いたらしい。

二人の距離が、少し縮まっていた。

「灯が…」

心許ない。
油を差した方が良いのでは…


「ねぇ…本当に?」

笑みをはらんだままの佐助が、幸村を正面から見る。

「恋――の間違いじゃなくて?」
「……!?」

仰天した幸村には、声も無い。


(まさか、自分の気持ちを知られて――?)

い、嫌だ、そんな。

そんな、恐ろしい――


幸村が青ざめていると、

「――ごめん、旦那。…夕方、西海の鬼と話してただろ」
「!」

ということは、慶次殿の話を…

「佐助!先ほど着いたばかりだと――」
「うん、ごめん。嘘」
「この…っ」

拳を向けたが、簡単にかわされた。まだ、疲れが残っているらしい。

「…風来坊、旦那にすんごい惚れてるみたいだね」
「馬鹿者…!聞かれたらどうする…っ」

幸村は声を落とす。

「なぁ、旦那は?――『さよ』って誰なのよ」
「全て…聞いておったのか?」

恨みがましい目で睨み、

「それは、もう良いのだ。…佐助には関係ない」

[ 57/88 ]

[*前へ] [次へ#]



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -