吐露1
※慶次からの告白を聞き、どうすれば良いか悩む幸村。
やっぱり心配する元親。
政宗と小十郎もちょい出ます。
そして、佐助と幸村が再会。
※ほんの少しだけ大人な描写があります。
落ち着いた赤の着物に、それに合わせた薄い灰色の袴。
祭りの際に着ようと、こちらに来てから仕立てた物だった。
「やっぱ、お前はその色が似合うよな」
「元親殿こそ…よくお似合いで」
元親は濃い紫の着物姿に変わっている。
政宗や小十郎たちも、新しい着物になっていた。
政宗が感心したように、
「Huーm…あいつ、こういうの得意なだけあるよな」
…その着物は、慶次が選んだ生地で仕立てられた物だったのだ。
(慶次殿…)
幸村は、早朝にあったことを思い出す。
というより、目覚めてからずっとそれは頭の中に留まっているのだが。
あれから昼過ぎまでたっぷり休み、祭りが行われる大会会場へ再び出向こうとしている一同。
今日は前夜祭かつ大晦日。
盛大な年越し祝いに、何日も前から期待に心を踊らせていたが…
(…どんな顔で慶次殿に会えば良いのだろう)
緊張はもちろんのことだが、彼の苦しそうな面持ちが浮かぶと、早くどうにかしなければという焦燥感にも駆られる。
「結局、俺らの力もまだまだだってことかねぇ」
歩きながら、優勝者である忠勝の話題が上っていた。
元親が明るく、
「…ま、俺は毛利の野郎に勝って、すっげぇスッキリしたけどな!お宝は逃したが、なかなかの収穫だったぜ」
「毛利殿?」
「あいつとは昔っから因縁があるからよ。今頃、悔しさに震えてたりしてな」
「元親殿と毛利殿も好敵手…?」
「んな良いもんじゃねーよ。あんな、部下を駒扱いするような奴」
吐き捨てるように言い、
「だいたい、あいつ日輪がどーのこーの言ってっけどよ、中身は真っ暗闇なんだぜ!?俺ァ、常からそれが噛み合わねぇと――」
「OK、OK。んで、因縁ってのは?」
元親はピタッと止まり、
「――あいつはな、昔…」
わなわなと拳を震えさせ、「俺を女と間違えやがったんだ…!」
三人は、一気に力が抜けた。
「何だよ、またそれか」
「しかも、あいつ完全に忘れてやがんだぜ!?」
「…覚えていてもらいたかったのか?」
小十郎が、意外そうに聞く。
「違ぇ!――いや、違わねーか…?どうだ、こんなに男らしくなっただろうがって言いたかったけどよ。あいつ――くそ…」
「I see …女に間違われて。あの毛利さんが――お前の初めての」
「政宗――コロス」
ちゃかす政宗に激怒する元親を、慌てて幸村が落ち着かせた。
「自分の方こそ女みてぇな細面のくせによ。『女のくせに出しゃばるでない』とか言いやがって。そのときの奴の顔っつったら――」
「では――良かったですな、毛利殿に打ち勝てて」
幸村が慰めるように言うと、
「ああ、ありがとよ。…お前は優しいよなぁ」
と、その頭を軽く撫でる。
それが政宗には面白くなかったらしく、
「――ま、気を付けな。祭りの最中に、毛利さんからグッサリやられねぇようにな」
「…やりかねねぇな、あいつなら」
元親の顔が若干青くなる。
「心配召されますな、元親殿!某が、ずっと傍でお守り致しましょうぞ!」
眩しくも男らしく宣言する幸村の姿に、冗談ではなく皆目を瞬かせた。
「幸村…!」
「も、元親殿、苦しっ」
「てめ、このやろ!どさくさに紛れて――」
感動の抱擁を政宗が引き剥がそうとするが、元親は足で応戦し、
「お前のやましいもんとは違うんだから、良いだろーが?慶次も見てないしよー」
――慶次殿?
何故そこで彼の名が…
「後でバラしてやる」
政宗は捨て台詞のようにそう吐いた。
二人のやりとりを眺めながら、幸村は、この手に関しては普段できない勘や憶測というものを最大に働かせてみる。
…もしかして。
慶次殿の…お気持ちを、知って…。
――いや、まさか…
「幸村?」
「…はっ……はいっ」
元親は心配そうに、「まだしんどいんじゃねぇか?…お前、さっきから元気ねぇみてーだけど」
「いえ、そんなことは!身体はすっかりもう」
「――じゃ、こっちの方か」
幸村の頭に手を置き、「何かあったのか?…慶次と」
…な、
「何も、ござらぬ」
幸村は俯き否定するが、それは全員が悟るに充分な仕草だった。
ふん、と政宗は鼻を鳴らすが、元親と目配せし、小十郎と先に行く。
会場はもう目の前で、祭りの灯があちこちで点き始めたところであった。
「本当に何も…元親殿」
「――すまねぇ。知ってんだ、俺ら。…あいつの気持ち。分かりやすいからな、あいつ」
「あ、あの…」
「今日お前に言うってこと、俺知ってたからよ。――あいつに言ったりしねぇから」
「…聞かせてくれねぇか?…お前が、どう思ったのかってこと」
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(…自分の気持ち…)
幸村は、黙りこくっていた。
元親に促され、二人は小路を入ったところにある石碑の前で腰を落ち着ける。
今は、その場所がどういった由来のものなのかを考える余裕もない。
「――でよ。…あいつの気持ち知って。…どうだった?」
あくまで気を遣いながら、元親が尋ねた。
幸村は下を向いたままだったが、
「あの…。とにかく驚き申した…」
(…だろうな)
「嫌――だったか?」
「いえ!それは決して!――この上なく恥ずかしくはありましたが…」
再び、俯き、「…う、嬉しかった……のです」
それを聞き胸を撫で下ろしている自分に、元親は少々驚いた。
しかし、幸村はハッと眉を寄せ、
「元親殿…某は、不届き者ですな。想う人がいながら、このような…」
「んなことねぇよ。…だいたい通じ合った相手じゃねぇんだろ?『さよ殿』はよ」
「――はい」
そんな未来は、きっと永遠にやって来ないだろう…。
「あいつのひたむきな気持ちが分かって…で、素直に嬉しく思ったんだろ?どこも悪ィことなんかねぇよ。…あいつも、それだけで報われるだろうよ」
元親は、慶次がどのように想いを告げたのか尋ねてみた。
幸村は、拙いながら一つ一つ丁寧に話す。
(…やっぱ、本気で惚れてんだな。あいつ…)
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