想い2


「ありがと。…本当は、今のままでも充分なんだけどさ。ちょっと…悪あがきしたくなっちゃった」
「慶次殿…」


…何でも言うて下され。某は、慶次殿の為にできることなら――と、申したではありませぬか。

何故、そのような顔をされるのです。…それを話されて楽になれるのであれば、今すぐにでも聞くというのに。


「ごめん。――そんなに心配するなって。変なこと言ったな」

はは、と慶次が照れたように笑う。
幸村もそこは察して、

「はい。…お話、お待ちしておりまする」

それを聞き、慶次は心を決めたように、
「ありがとう」と一言だけ発した。















熱い







全身が雷に打たれたようだ。
だが、一層燃え上がるように――魂が震える。

周りの音が消えてなくなるほどの集中力。




目の前には、貴殿しか見えぬ――








「政宗殿!」






渾身の一撃を放つが、相手は六爪でそれを受け止める。
その炎を味わったかのように、政宗はニヤリとした。

「相変わらず熱いな、お前は」

と、間髪入れずに技を仕掛けてくる。
その稲妻を、今度は幸村が二槍で防いだ。

「…貴殿とて。戦いの際には人が変わったように熱を放たれる…!」


そして、二人の間に起こる、旋風のような斬り合い。…見る目の休む間もない。

だが、互角の力によって、どちらもひどく流血することもなく、また倒れもしない。


「Ha…!お前のときだけだ――こんなにも我を忘れるのはよ」


その気高い紅を、地にねじ伏せて。
天から覗く俺の姿を映したその瞳は、一体どんな色になる?
怯えか?怒りか?悔恨か?苦悶か?

…どれも、見てみたい。



しかし、この得難い高揚感。…与えてくれるのは、お前だけ。
矛盾するが、失いたくない。
永遠にこの時間が続けば良い――



激しい撃ち合いの後、二人は一旦離れた。
二つの荒い息づかいだけが、妙にはっきり聞こえてくる。

どれほどの刻が経ったというのか。

そろそろ、お互い体力も限界である。
どうにか決着を…



二人は、武器を構え直した。

すると、


とっとっとっ…


その場に似つかわしくない音がしたかと思うと。


ボフン


何かが弾け、二人の間に煙が立った。

「…!?」

たちまち張りつめていた集中力が切れ、徐々に周りのものが見えてくる。

――そう。これは、大武闘会…であった。






「夢吉、ご苦労さん――ごめんなー、邪魔しちゃってさ」

慶次が気の毒そうに二人の間に入り、「こうでもしなきゃ止まってくれそうになかったからさぁ」

「――Hey、何でだよ」
「二人とも、規定とか…時間制限とか忘れてるだろ」

観客はほとんど残っておらず、すっかり閑散としていた。

「どれだけやれば気が済むんだよ…。もう、充分だろ?頼むから終わってくれ」

うんざりしたように元親が言うと、大会主催者たちも疲れきった顔で懇願してくる。

「すみませぬ…某も、すっかり…」

今日は大晦日の前日――だが、既に深夜の時間帯になっている模様。

「だが、俺らの勝負はどうなるんだよ。――お前らは?」
「俺も、元親も片倉さんも、負けちまったよ」
「Ha、情けねぇ!…誰だぁ?勝ち残った奴は」
「うん。――あの人」

と、目で指した先に居たのは…




ウィーン!ガチャガチャ
シュコーシュコー




からくりのような体躯――戦国最強。



「……本多殿」
「…Oh…」

「観客たちは本多さんが優勝したって言いながら帰ってったよ。本当はお前らもいたんだけど。…もう、どっちも彼と戦わせてやるからさ」

勝った方が優勝ってことで、と慶次は二人の肩を叩いた。

「本多さんは、二人がかりでも良いって言ってくれてるけど?」

その言葉を聞き、二人は目を合わせる。…最強の前では、自尊心すら追いやられるのか。


「行くぜ、幸村!お前との勝負はnext chance――次の楽しみにとっとく!」
「心得た、政宗殿!今はともに力を合わせ、勝利を得ましょうぞ!」


さっきまでの対峙が嘘のように、ぴったりの息で忠勝に向かって走り行く。

しかし、二人して疲労困憊を極めた状態…。



ドカーン!

バリバリ!ギギギギ

ウィーンウィーン



早くも土煙が立ち上る。



「…すげぇ音がしたな」
「あれが終わったら、撤収だ。明日の晩は前夜祭だってのに、皆悪かったね」

慶次が、残った面々にひたすら謝る。


「――優勝は、やっぱり戦国最強で決まりだな」


その鋼鉄の両肩に、二人の身体を担いで戻ってくる彼の姿を、元親は盛大な欠伸とともに頷いた。














ふっと目を覚ますと、途端に身体の疲れや痛みに襲われる。

「つ…」
「政宗様、気が付かれましたか」

ずっと控えていたらしい小十郎が、ホッとしたように傍に寄った。
特に大きな怪我もしていないのだが、やはり長時間戦い続けたツケが回ったのだろう、あちこちが少々痛む。

「Ahー…良く寝たぜ。――ん?」

隣に目をやれば、別の布団で幸村が眠っている。
よく見ると、ここは自分たちの部屋ではない。

「おい、ここはあいつらの部屋か?」
「はい」

小十郎は特に説明もしなかったが、予想するに、面倒さから二人まとめて放り込んだというところか。こちらの部屋の方が上がって近い場所に位置しているのだ。
慶次たちも疲れていたので、政宗たちの部屋でゆっくり休んでいるのだろう。

「すまねぇな、おい。お前、寝てねぇんじゃねーか?」
「いえ、布団はもう一つありますので。しっかり休ませて頂きました」
「なら良いが」
「今、水をお持ちしますので。しばし失礼致しまする」

小十郎は、静かに出て行った。


「……」

政宗は、早速幸村の方へ近付く。

(…良いのかぁ?慶次…。二人っきりだぜ?)

俺が、朝っぱらとかそんなこと気にする奴に見えんのか…?

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