想い1
※ほぼ、
政宗→幸村
慶次→幸村 な話です。
小十郎、元親も少し登場。
佐助はお休みです。
いよいよ大武闘会の開催初日が近付いてきたある日。
「――って予定だから、よろしくな」
慶次は説明を終え、茶を一口飲む。
他の四人はしばらく言葉がなかったが、
「…まぁ、年末の大会の予定は良いとして。正月丸三日のこれ…」
「『いつきちゃんのお野菜音頭』『雪組・華麗なる歌劇』『前田夫妻の動物操り』『今川軍虹色舞』『五本槍と浅井長政の英雄活劇』『伝説の忍の拝顔権争奪戦』『伊達軍対武田軍・騎馬戦』『ザビー教・愛の教え』『サンデー毛利・日輪演説』『チェスト島津と大酒勝負大会』『ザビー花火』『本願寺・黄金像』『花街組・山車』『長曾我部軍・からくり』『戦国最強との触れ合い』…」
「ふざけ過ぎだろ――Ah?んだよ、騎馬戦って。聞いてねーぞ」
「ちゃんと承諾もらったぜ?一度見てみたかったんだよなー、有名な武田騎馬隊と暴れ馬の勝負」
「誰が暴れ馬だ!…ったく、あいつら」
政宗は諦めたように溜め息をついた。
「元親には前から了承もらってたし、な?」
「ああ。ウチのすげぇ技術、とくと見せてやるぜ!幸村、お前もあれに興味持ってたろ?」
(虎のオッサンへの土産にゃ、やれねーけど)
「特別に乗せてやるからな」
「それは楽しみでござる!…が、さすがは慶次殿」
「…だな」
小十郎も呆れたように頷いた。
大武闘会自体は年末で終わらせ、正月は先ほどの演目が行われる段取りらしいのだが。
はた目にもどちらに力を入れているかは明らかで、内容は恐らく慶次のやりたいことがほとんどを占めているのでは…
「いやいや!結構皆祭り好きみたいでさ?何かやってくれないか頼んでみただけで、向こうから申し出てきてくれたんだって」
伝説の忍と戦国最強は絶対不可能だろ、などと政宗たちが話している横で、
(楽しげなものばかりだ…。と思ってしまうのは、やはり不謹慎だろうか)
と、幸村は考えていた。
「正月最終日は、優勝者に挑める枠も予定してるからさ、皆最後までいてくれよな」
「じゃあ、結局帰られねーな」
政宗はもう優勝した気でいる。
「お前が主催って時点で、大々的の意味が違うことに気付くべきだったんだよな」
「そうそう。もう諦めて大いに楽しんじゃってよ」
「そういや…織田と明智は?」
「この短期間じゃ何もできねぇだろうけどさ。一応協定結んでるよ、大会参加軍と。怖くない数だろ?こんだけ居れば」
「豊臣は?」
「お宝を得た奴を狙い撃ちにするつもりかもなー。そっちの方が手っ取り早いし」
慶次は極めて明るく言い、「あっ、虎のオッサンと謙信は来られないんだって」
「そうでござりまするか…」
恐らく、自分を思ってくれてのことだろう。
しかし、そうすると誰が騎馬隊を引導するのか。…もしや…佐助、が。
その前に必ずや勝利を得ておかなければ。
約束、したのだ。
幸村は、ぐっと手に力を入れた。
…そして、正月も過ぎれば。ここと、――慶次たちとはお別れ。
キュッと胸が痛む。
が、それならば尚のこと。不謹慎、であろうと。
このようなかつてない大きな祭り。心置きなく堪能し、この目に焼き付けて一生の宝として持ち帰るとしよう。
――佐助に話したいことが山ほどある。
ここで学んだ多くのこと。慶次に教えられたこと。
世話になった宿の皆や、街の気の良い人々。――彼に似た、美しく優しい人。
こんなにも楽しい日々が過ごせた、一番の理由である彼らたち。
そして…
慶次に目をやると、気付いた慶次が、優しく微笑む。
幸村は、心がじんわりと温まるのを感じた。
…慶次殿は、本当に暖かい。
子供扱いは嫌だというのに。
最近の自分はどうしたことか、彼にそうされることがそんなに嫌じゃない…
不思議だ。
――前は、佐助のことを考えるだけで苦しくてたまらなかったのに。
自分の気持ちを知られたらという恐怖から失念していたのか。彼がどんなに自分を大事にしてくれ、また自分もどれほど彼が大切かということを。
恋心を抱いてしまったとはいえ、決してそれだけなのではなかった。
これまでの長い年月をともに過ごし、培ってきたもの。
政宗のように、その幸せは自分の傍にいることだなんて思う自信はないが。
強い絆…それは自分で言っていたものだったというのに。
どうやら、欲が出たのだろう。…だから怯えて。
慶次殿が褒めてくれた想いだ。腐らせてはならない。
告げられない分、それを別の形で表せば良い。
彼が望む、立派な武将に。良い主に。…仕えるに充分値すると、心底思われるように。
――そう心穏やかになれたのは、きっと。
友を想う大切さを新たに教えてくれた、慶次殿のお陰だ。
「幸?」
気付くと、慶次に不思議そうな顔で覗き込まれていた。
「あ、はい!」
いつの間にか他の三人は席を立ってしまっている。
「目一杯、楽しんでくれな」
演目を書き並べた紙を指す。
「…はい!」
「――あとさ」
ためらいながら、「大会が終わったら、聞いてもらいたいことがあるんだ」
「某に…」
(何の…)
幸村は、ハッ…とする。
――もしや、亡くされたという女性の。
「うん。今まで言うつもりじゃなかったんだけどさ。…やっぱり聞いて欲しくなって」
「…慶次殿がそう思われるのならば。…はい」
「もしかすると、友達やめたくなるかも…」
「慶次殿」
幸村は穏やかに微笑み、「それは、いつぞやの某の台詞。…でしたら、某が次に言う言葉はもうお分かりでしょう」
「…幸の話とは、ちょっと違うからなぁ」
眉根を下げて、慶次は苦笑した。
「どんな話であろうと。絶対にない、と誓いまする」
真剣な眼差しを、幸村は真っ直ぐに向ける。
慶次は、感じ入るようにその視線を受け止めた。
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