熱3

政宗にバレてしまったことを知られれば、何を言われるか。
…まぁ、自分が悪いのだが…。
どうしても抑えられず、やってしまった。本気で葬るつもりで――だから、問題ないと。

しかし、政宗は幸村には告げないだろう。何故かそんな気がする。
あいつは、まだ旦那のことを諦めていないだろうから。
邪魔者の存在は隠しておくに違いない。

けど、やっぱりあいつは嫌いだ。
あの、自信たっぷりの顔。…思い出すだけでも腹が立つ。
いつも、忍のくせにと口癖のように。それを聞くと、心が一瞬でどす黒く染まる。


…お前に忍の何が分かるっていうんだ。


だが、政宗は分かりたい気もないのだろう。それが明らかな分、さらに苛立ちは増す。

――旦那とは大違いだ。
なのに、あいつは旦那が認める相手…。
旦那が強くなるには絶好の存在だけど。…それ以外のものは渡さないでよ、旦那。
心を奪われれば、命なんて簡単に取られちまう。
頼むから、そんなことには…。

それならいっそ、『あいつ』の方が。



…風来坊。

まさか、あの男も旦那に惚れてたなんて。…一体いつから。
普段がああいう感じなだけに、思いもよらなかった。政宗に気を取られていたとはいえ。
…少し、信用し過ぎていた。

政宗の言葉を聞き、あの後すぐに幸村たちを追ったのだが。

――どうして黙って見ていたのだろう。
幸村が居ても、自分にはどうとでも上手くやれたはずなのに。


…まるで、物語の一場面を目の当たりにしているような。
部外者の無粋な真似で終わらせてしまってはいけないような……そんな気がして。

というよりも、完全に自分が引き込まれていたと言うべきか。
聞こえてしまうのではないかというほど心臓は早鐘を打ち、気配を押し殺すのにも一苦労で。


(…旦那、あれは…。あの顔は駄目だよ)


佐助は思い浮かべ――夢に出そうだ、と思った。
…よくぞとどまったものだと少し感心する。
それほどに、幸村に対する彼の想いはひしひしと伝わってきた。

あいつは、本当に旦那に参っているらしい。――もう、言えば良かったのに。
それとも、自分とのあの約束を律儀に守るつもりなのだろうか?
そんな殊勝な男にも見えないのだが。

…もしくは、幸村を思ってのことなのか。
『さよ』という女の手前…。
そんな、叶いそうもないらしい女なんて、もう忘れてしまえば良いのに。慶次の方がよほど大切にしてくれるだろう。――男ではあるが。
別に珍しい話でもないのだし。
幸村も、気付いてはいないようだが、慶次を友以上に思う気持ちが起こりつつあるのではないだろうか。

でないと、あんな風には…



佐助は、胸を突かれたような痛みに、身体を折り曲げた。


(すんごく、痛い。…何でだろ)



幸村が慶次に向ける表情。――あの、笑顔。
最近、自分には向けてくれない。…当たり前だが。


何を考えてるんだ、俺様は。


……でも、どうしようもなく……


…俺様も。







――どうしようもなく寂しいよ、旦那――

















「それで俺も一緒に、なぁ」

元親が呆れたように、「あいつが素直に信じてくれる奴で良かったな」
「…だよな」

湯上がり姿で、慶次たちの部屋で寛ぐ慶次たち。
幸村は帰って早々宿の手伝いを始めたので、先に上がらせてもらっていた。

「良いのかぁ?こんなお邪魔虫が居てよう。――しっかし、お前って我慢強ぇな。よく耐えた」
「だろッ?…でも、あれで精神力使い果たしたから。お前が居てくれないと」
「俺は、碇か何かか?」
「さっすが、海賊!放浪船の俺を上手ーく止めてくれ。いざってとき」
「碇なら良いのがあるからな。まかせとけ」

と、部屋に立て掛けている自分の武器に目をやった。

「こっわいなー」

慶次は笑いながら布団に転がり、「俺…今日のこと、一生の思い出にしよ。――なんつって…」

静かに目を閉じる。
瞼の裏にその光景を映し出そうとしているのだろうか。

「……言っちまえば良かったのに。そんな、またとない機会でよ」
「おいおい!」

慶次はガバッと起き上がり、

「言ってることがさっきと真逆じゃん!?…人がせっかく」
「…だよなあ。何言ってんだ?俺」
「こっちが聞きてぇよ」
「何っかなぁ……」
「…何だよ。もしかして、俺の応援してくれる気にでもなったって?」
「うーん…。…かも、知れねぇ」

首をひねりつつ言う元親だったが、「へぇ」と慶次は目を見開く。

「どういう心境の変化?…嬉しいけどさ。…でも」

再び布団に倒れ、「――やっぱり、言えなかったよ」

「その、幸村の片想いの…で、気を遣ってんのか?」
「気を遣う、とは違うと思うんだけどさ」

慶次は横になったまま顔を向ける。

「幸のあの想いは、本当に…すごいんだ。真っ白なんだよ」

短い答えではあったが、そこには何倍もの感慨が含まれているようで。
元親は少し気圧されるが、

「――んだよ。結局諦めてんじゃねぇか、ハナっから。やる前から負けを認めるなんざ、男らしくもねぇ」
「何だよ、もー。ホンット今までと言ってることが逆なんだけど?」

慶次は苦笑するしかない。

「だってよ、あいつの片想いの相手って――」

言いかけ、「…いや、何でもねぇ」

「はあー?」と笑うばかりの慶次。

「まあさ、これで良かったんだよ。危うく俺も、政宗と同じことしでかすとこだった」
「…あいつのときとは、ちょっと状況が違うぜ?」
「同じようなもんだって」

と、自嘲気味に言う。


――ああ、こいつ分かってねぇんだ。

元親は、今になって気が付いた。

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