熱1


※前回の、祭りの続きです。
慶次幸村です。
佐助元親登場。伊達主従お休みです。

甘口にしたかったつもり(;o;)














――二人だけになってしまった。

幸村は、隣を歩く慶次を見て思った。
…そんなことは今まで何度もあったというのに。
今更になって、何故。
都に来る前にも感じたことのない…この緊張感は、一体何なのだ…

「美味しい?」

ニコニコしながら慶次が尋ねてくる。
政宗たちにも山ほどもらったのだが、またもや甘いものを中心に好物を手一杯にしていた。今度は、慶次が次々に渡してくれるのだ。
素直に喜び礼をすると、その度嬉しそうに微笑む慶次。
それを見ると、幸村の緊張はさらに強まるのだった。

「ちょっと行きたいところがあるんだけどさ。…良い?」

そう言って慶次が幸村を連れて来たのは、少し高い場所にある小さな神社。
祭りだからだろう、下から続く道の両端に同じ提燈が等間隔で提げられていた。
結構な数の石段を上がり、眼下に広がる街の景色を眺める。

――すごい…

幸村は感嘆の息を飲み込んだ。
祭りを彩る光の粒が、川の流れのような形を造り上げている。
シャラシャラと楽器の音がかすかに聴こえ、本当に水でも流れているかのような。

「見事な…。綺麗でござる」

幸村は空を見上げ、「まるで天の川のようですなぁ…。冬に見られるとは思いもよりませんでした」
「良かった、気に入ってもらえて」

慶次が柔らかい草地の上に座り込んだので、幸村もそれに倣う。
しばらく、二人して下の光河を見つめていた。

「――舞……どうだった?」

ふいに、慶次がまた同じことを聞いてきた。

「はい、それはもう――」

と、先ほどと同様の返答をしようとしたが、二度目の質問だということに立ち止まる。
これは、もしかして何か違うことを言うべきなのか?具体的に、どう良かったのかと…
しかし、自分は舞の知識などほとんど持ち合わせていない。

…仕方ない。恥かも知れぬが、思ったままを言おう。


「あの…。まるで別人のようでござりました。――いえ、悪い意味ではなく」

慌てて慶次を見るが、すぐに視線を外す。

「普段の慶次殿は、暖かい春の花のようで……ですが、舞をされていたときの慶次殿は――」

幸村は、詰まりながらも、「…同じ花でも、嵐のような。…舞台が、一面に咲く花に見える気がし申した」

おかしい、だろうが。でも、本当にそう感じたのだ。

「役の気持ちが、こちらにも伝わり…。何と言いましょうか、こう――苦しくなり」

…今も、それが続いている。

「さすがは慶次殿でござる。多くの恋を…」

と、最後は明るく冗談めかして締めくくろうと慶次を見ると。
彼は片手でその顔を隠し、自分と逆の方を向いている。
幸村の視線を避けるよう、さらに首をひねった際、肩が揺れたように見えた。

(…もしや、笑われて…)

そう思った瞬間、幸村は恥ずかしさからの怒りに見舞われる。

「あんまりでござろう、慶次殿!おかしかったでしょうが、某なりに――」

慶次の手を無理に外してこちらを向かせるが。



(…えっ)



その顔を見て、幸村は目を丸くした。
慶次はすぐさま、今度は腕でそれを覆い、

「ちょっとだけ……こっち向かないで」
「は、はい」

幸村は、どぎまぎと答える。



――驚いた。

慶次殿の、あんな…赤い顔。また初めて見た顔だ…。
笑われていたわけではなかったのは良かった…が。


はぁ、と慶次は息をつき、

「ごめん、だって…。幸がすっげぇ嬉しいこと言ってくれるから」
「え――」

幸村は、まだ少し色付いた頬にも目を奪われながら、「某の…妙な表現でしたのに。もっと上手く言いたいのですが…」

「充分だよ。――本当に嬉しい。…ありがとう」

照れたように、

「そっか、伝わったかぁ。あれは役ってより…俺の想いだけどな」
「慶次殿の…」

では、やはり。あれは、彼が恋する人に向ける瞳。

「――慶次殿が『もてる』理由が、よく分かり申した」

あはは…と、慶次は気まずそうに笑い、「あのさ、俺ってやっぱり、軽ーい遊び人に見えてる?女好きの」
「どうされたのです、急に」

幸村はプッと吹き出し、「そのような意味で言ったのではござらん。…慶次殿は、人を惹き付けるものを元々持っていらっしゃる。それに加えてあのような表情…断るおなごはいないでしょう。…褒め言葉のつもりだったのですが?」

「――そうかな。…ありがと」

その顔は、どこか安心した風であった。

「幸もさ、恋する顔…すごく違うよ」
「は…」
「羨ましいよなぁ。…俺、生まれ変わるなら女になって、幸の恋人にしてもらおう」
「えぇ!?」
「だーいじょうぶだって!すっげぇ美人になっとくからさ!」

悪戯っぽく言われ、幸村も笑うしかない。

慶次が立ち上がったので、幸村もそうした。
そろそろ帰るつもりだろう。


「…最初はさぁ、俺がお前に教えてやるつもりだったんだ。ここに連れて来て、色んなもの見せて。でも…」

苦笑し、「すっかり逆になっちまった」

幸村は目をむき、

「そんなはずがありませぬ。某はここで実に様々なことを学び申した。慶次殿にも、多くを教えて頂き…。しかし、某が貴殿に教えられたものなど、なかったように思いまするが」
「そんなことないよ」

慶次は目を細め、「…ここに来てくれて。友達になってくれて…。ありがとな」

その台詞に幸村は、ハッと、
(そうだ、ここに居るのはもう長くないのであった――)

「慶次殿、それは某の言うことでござる!慶次殿は真の強さを持っておられ、某は心から尊敬致して…」

幸村は思い直したように、


「――いえ、そういうことではなく。…慶次殿のような方と友になれて、嬉しゅうござる。ここに来て、元親殿たちとも。毎日が楽しくて仕方ありませぬ。…不真面目でしょうか?」

「…大丈夫。それ聞いてめちゃくちゃ喜んでる俺の方が、もっと悪いから」


心なしか、慶次の声は上ずっていた。

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