竜と影5
「こんなところにおいででしたか」
小十郎が、息をつく。
「Ahー…すまねぇ。はぐれちまった」
「いえ。…戻られますか?」
「いや、もう充分堪能した。あいつらには悪ィが、先に帰るとしようぜ」
政宗は、穏やかに笑って言った。
「――俺には、お前がいるんだよな」
「…政宗様?」
不思議そうに小十郎が見た。
「いや、何でもねぇ。――行こうぜ」
「よう!」
元親が、背後から政宗の肩に手を置いた。
「どこほっつき歩いてたんだよ。でっけぇ迷子だよな、全く」
けらけらと笑う。
「…うるせーな。わざとだ、わざと」
「はぁー?」
「どうせお前もそうなんだろ。…何て言って戻ったんだよ」
と、元親がやって来た祭りの大通りを見る。
「え…嘘だろ?お前が気を遣うなんざ…あり得ねぇ」
「Shit…まぁ、お前とは違う理由なのは確かだ」
「結局何だよ。――ま、いいけどよ」
元親は二人の歩く方向に目を向け、「もう宿に戻るのか?」
「ああ」
「――じゃ、俺も」
政宗が小さく笑い、
「あいつは見張らなくて良いのか?」
「あー…。慶次は大丈夫だ」
『――あと少ししか一緒にいられない』
あの顔を思い出すと不憫な気もし、小十郎が抜けたときから二人にしてやろうかと考え始めていた。…というのも嘘ではないのだが。
慶次のベタベタに甘い顔を見ているのが正直キツかった…のが、本音かも知れない。
「どいつもこいつもよー。ちったぁ俺にも協力しろってんだ。俺の味方は小十郎だけじゃねーか」
「いや、別に協力しちゃいねぇけどよ。俺は…幸村の味方?」
「良いのかぁ?慶次の奴、ああ見えてやらかすかも知れねぇぜ?」
「…嫌われることはしたくねぇっつってたから、大丈夫だ。お前とは違うぜ」
「――ふん、臆病な奴。女には手が早いくせに」
「臆病…なのかねぇ」
本当に大事に想ってるからこそ、なのでは。
「皆、何で難しい相手に惚れちまうんだろうなぁ…」
「そっちの方が燃えるじゃねぇか」
当たり前のように言う政宗を、元親はジロッと睨んだ。
「おめーは少し節度ってもんを考えろよ。あいつらの爪の垢でも飲ませてもらえ」
「そりゃ逆だろ。そうすりゃあいつらも」
「…嫌だぜ、俺。幸村がお前みたいになんの…」
「てめ…。――ま、いい。…あいつもよ、もう諦めればいいのにな」
「慶次が?」
「違う、幸村が。…その、女をよ。身のほど違いか何か知らねぇが、望みは薄いんだろ?」
「さあ、俺も詳しくは。ただ…すっげぇ惚れてるみたいだけどな」
…彼女のことを想うときの幸村の顔からすると、だが。
幸せそうだったり、辛そうだったり。
あれを自分に向かせるのはなかなか骨が要るのではないかと、慶次たちに少々同情すら起こる。
「どんな女なんだろうな」
今も、名前以外は謎に包まれたままなのだ。
「…女、なのでしょうか」
それまでずっと黙っていた小十郎が、ポツリと呟いた。…二人は、驚いたように彼を見た。
「女…だろ?名前も…」
「名前しか知らねぇけどな。…小十郎、あいつに聞いたのか?」
「いえ、まさか。ふと思っただけで」
政宗と元親は、考えを巡らす。
もし、そうだとしたら…。
だから、報われない片想いで。
辛そうなのは、拒絶されたからか…。もしくは、それが怖くて相手に言えないからか。
「…何だよ。なら、俺にも望みがあるんじゃねーか」
「いや、そうだと決まったわけじゃ」
元親が止めようとするが、
「こいつの勘は、だいたい当たる。…きっとそうだぜ」
「――よほどそういうものと縁がなかったのでしょうな。初めてで…憧れから、とか」
小十郎が、いつもの強面で推理する。
「分かったぜ!相手は虎のオッサンだ!」
政宗の勝ち誇った顔に、元親も小十郎も微妙な表情になる。
(…それは、違って欲しいような)
「初恋が男…。気の毒過ぎるぜ」
「良いじゃねぇか、順番はどっちでも。後で女を知れば。どうせいつかは嫁さんもらうんだろうしよー」
その柔軟な考えに、元親は頭を痛める。
「――まぁ、やっぱり女なんじゃねぇか?…政宗、幸村に問い詰めたりすんなよ」
「OK、OK。しかし、慶次なら知ってるかもな。その『女』のこと」
「…もう詮索はやめようぜ」
と言う元親も、全く知りたくないわけではないのだが。
(…どうであれ)
俺は、あいつの味方でいてやろう――
*2010.10〜下書き、2011.6〜アップ。
(当サイト公開‥2011.6.19〜)
あとがき
ここまで読んで下さり、ありがとうございます!
佐助と政宗のいがみ合い…やっぱりこれがなくては(^q^) 旦那を取り合って永遠にやって欲しい。
ゲームで、筆頭が「忍のくせに…」とか結構辛辣な言葉を吐いて、佐助が「あんたは…殺すよ」とか言ってたような?あれ、私の妄想だったかなこれ。
3では思いきり嫌ってます発言してたし、佐助。佐→幸←政、最高です♪ウチは、慶次の方が強いけど…; 旦那なしでも気に食わない同士ってのが理想。
ああ、言い訳になってない…
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