竜と影1
※前章の続き、妓楼から始まります。
ライバルになった政宗と慶次。心配しつつ見守る小十郎と元親(主に幸村のことを)。
色々考える佐助…な話です。
少しは幸村モテモテになってきた…かなぁ;
――うぅ……頭痛ぇ…
久し振りに味わうひどい目覚めに、慶次は顔をしかめる。
何とか起き上がり、傍にあった水を一気に飲み干した。
「起きたか。…ほら」
「うー、冷た!…ありがとー…」
小十郎が濡らした手拭いを渡してくれる。
顔をサッパリさせ、それを隣に転がった元親の首元へ乗せてみた。
「!!」
音なき声を上げ飛び起きる元親だったが、やはり同じように頭を抱え込む。
「おはよー」と、注いだ水を手渡した。
「あーあ、負けちゃったのかぁ…。片倉さん、俺らずっと寝てたの?」
既に、朝になっているようだ。
「ああ。俺から部屋を貸してもらえるよう頼んでおいた」
「くああ…あり得ねぇー…。ここに来といて、野郎だらけで朝を迎えるなんざ」
元親の気分はさらに悪くなったようだ。
「あれ?」
慶次は部屋を見渡し、「幸たちは?もう帰っちゃった?」
気が付けば三人しかいない。…だが、小十郎が政宗と離れることなんてあるだろうか。
「二人は、別の部屋だ。…昨日から」
その言葉に、元親は血相を変えた。
「おい――探すぞ!」
「えっ?何、どうしたんだよ?」
「馬鹿!…あいつ、幸村のこと狙ってたんだよ!」
「…えぇ!?」
思わず素っ頓狂な声を出し、「だって、俺らには手ぇ出さないって」
「知るか!気が変わったんだろ!?…てより、あのとき幸村は居なかったしよ」
慶次は、みるみる青ざめていく。
ドタバタと、二人して部屋を出て行き――
すぐにまた舞い戻って来た。
「頼む、片倉さん!部屋、教えてくれ!」
「さすがに片っ端から開けられねぇ…!」
それはそうだろう、今の時間帯では。
小十郎はすぐには動かなかったが、二人のあまりの必死さに情けをかけてくれたのだろうか。
部屋を出て、そこから少し離れたところで止まる。
「ここか…!」
元親が、スパンッと襖を開け、その横から慶次が顔を覗かせる。
瞬間、二人は揃って硬直した。
部屋に並べられた、美しい衣装――
それは、昨晩幸村が袖を通していたものだ。
その隣には、膨らんだ布団…。
「――ほぉ」
小十郎が、少し驚いたような声をもらす。
「…じゃねぇよ、片倉さん!何で止めてくんなかったんだよ!」
慶次は半ば泣きそうな顔で掴みかかろうとするが、二日酔いで全くお話にならない。
「俺が潰れなきゃ、こんなことにならなかったのに…」
すまねぇ、幸村……と、元親はその場に膝を着く。
それを受けるように、
「…はい?何が、でしょう?」
と、背後から声がした。
「幸村!」
そこには、ここに来るまでの着物に着替えた、いつも通りの幸村が立っていた。その手には、大荷物を抱えている。
「先ほど声を掛けて頂き、貴殿らの着物を取りに行っておったのです。某の物は、桜殿が届けて下さり…」
幸村は苦笑しながら、散らばったあの衣装を見る。「…どうも上手く畳めず。某がやれば痛めてしまいそうで…。慶次殿、お願いできますか?」
そう言うと、荷物を畳の上に置いた。
「ちょうど良かった。お二人とも、こちらで着替えられては…」
しかし、慶次と元親は未だに固まったままである。
「片倉殿…お二人は何かあったのでしょうか?」
幸村は、不安げに小十郎を見た。
「――まあ、それはこいつらの台詞なんじゃねぇかと。…俺には何も無かったように思えるが」
小十郎は、幸村をしげしげと見て言った。
当然、幸村は首をひねるばかり。
「そ、そうだよ!幸、大丈夫だったの!?」
「無事か!?あいつに何もされなかったか!?」
元親も、慌てて立ち上がった。
「あいつ、とは?…政宗殿?」
幸村は、依然状況が掴めない顔で、
「某は、大丈夫ですが…?――政宗殿は、急に酔いが回られたようで、すぐに眠ってしまわれたのです」
と、布団の方を見る。
慶次と元親は、布団の上から蹴り飛ばしたい思いに駆られるが、グッと抑えた。
「…本当に?…でも、何だってまたこの部屋に来たんだ?…二人で」
「そ、それは…」
――結局、政宗の話というのは聞けなかったのだが。聞かれたくない、と言っていたし…。
幸村が話して良いのか悩んでいると、慶次は、
「大丈夫だって。絶対あいつには言わないから。…なぁ?」
と、安心させる笑みをたたえて優しく言った。…元親と小十郎に同意を求めた視線は、ただの押しの強いものでしかなかったが。
「…必ず、でござるよ」
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「――このまま、永遠に眠ってもらおうかなぁ」
慶次が、爽やかな笑顔で呟く。
布団の中の政宗は、まだ起きる気配がない。
「だが、政宗様も気の毒な話じゃねぇか。勘弁してやれ」
「良かった…都合良くそこで寝てくれてよう…。危なかったな」
小十郎は苦笑いし、元親はホッと胸を撫で下ろしていた。
「…??」
聞いている幸村は、やはり何のことだか分かってはいない。
――あのときのことを思い返す。
『……政宗殿?』
政宗の指が自分に触れたかと思うと、フラッと彼の身体がもたれかかってきた。
『え…』
どうしたのかと驚くと、…規則正しい寝息が聞こえてくる。
――寝てしまわれたのか。…やはり、酔われていたのだな。
先日学んだように布団を引っ張り出し、政宗に掛けてやった。
(またもや図々しいが、ここを貸してもらえぬか頼んでみよう)
戻って、楓に酒の断りもしなければ…。そう部屋を出てみると、驚いたことに人が控えていた。
『桜殿?』
(…片倉殿と一緒だったのでは)
『こちら、先ほどのお召し物です。…それと、ほんまに失礼な話なんどすが、楓姉さんも呼ばれたそうで…』
桜が、申し訳なさそうに頭を下げた。
幸村も、少し残念そうに、
『…そう、でござるか。今行こうとしていたところで…』
『その部屋にどうぞ泊まっておくれやす…。他の皆さんもよくお休みどす』
『か、かたじけない。…楓殿に、よろしゅうお伝え下され』
その言葉に桜は微笑み、すっと襖を閉じた。
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