紅5

「…お二人を見ていると、思い出しまする…。政宗殿も、片倉殿を誰より信頼されておられる」
「何だよ、急に」

怪訝な顔をされ、幸村は少し詰まりはしたものの、

「――片倉殿の幸せが、政宗殿から遠いところにあるとしたら…。政宗殿は、いかがなされまするか…?」

と、おずおず尋ねてきた。

「…Ah?小十郎の幸せ?」

政宗は、この上ない呆れ声を発し、

「んなもん、俺の傍に居て俺の為に仕えて、俺が立派な国主になることに決まってんだろ」

遠慮の欠片もないハッキリした言い方に、幸村は目を丸くした。

「…あ、の」
「それ以外に何があるってんだ?…Ahー…女のことかぁ?」
「は、はあ」

すっかり政宗節に呑まれている幸村である。

「悪ィが、俺の方が大事だろうな。…まあ、良いじゃねぇか。普段から、俺はあいつにとられてばっかなんだからよ」
「とられて?」

ああ、と政宗は溜め息をつき、「俺の気に入った奴は、だいたい最後にはあいつに惚れやがんだよな…」

…幸村には、返す言葉が見つからない。

「あ!…あいつらには黙っとけよ?」

政宗は、しまったという顔をする。

それを見た幸村は、おかしそうに笑い出した。

「――何だよ」

ふてくされたように、政宗が幸村を見返す。

「いや……さすがは政宗殿でござる。――某とは、あまりに違っていて」
「…そんなことねぇだろ」

政宗は意外そうに、「お前んとこの忍も、同じだと思うぜ」

えっ、という風に幸村が顔を上げた。


(――んだ、その…嬉しそうな顔はよ…)

途端に、先ほどとは違う苛立ちが政宗を襲う。


「…もう良いぜ、そんな話はよ。……それより」

ずい、と幸村へ近寄り、「俺の話……聞いてくれよ」

「あ――それはもちろん…」

生真面目な顔になり、幸村は政宗をじっと見据える。

政宗も、そんな相手をしばらく眺めながら、その下ろされた髪に軽く触れた。
そのまま、耳の横に着けられた花に顔を寄せ、

「…これの匂い…か?」
「え?」
「――甘い…」

そう呟き、政宗はそこから少し離れ、幸村の唇を指した。

「…そこ。ちょっと紅がよれてるぜ」
「え、」
「じっとして………ろ」

政宗が直してやろうと触れたと同時、幸村が舌で唇を舐めた。

「…あ!すみませぬ…!」

もう拭い取ってしまおうとでも考えての行動だったのだろうが、まさか政宗の指がそこに来るとは思いもよらなかったに違いない。
少し舌が触れてしまったその指を、幸村は懐紙を取り出し慌てて拭く。

(…無知って、時に恐ろしいことをするな)

政宗は、指先に熱が集まっていくのを感じていた。

「お前の手…あったけぇな」

と、幸村の手を握る。
その行為を一つも妙に感じなかったらしい幸村は、

「政宗殿の手は…冷たくて、気持ちが良いです」

もう片方の手を上から被せて、そう言った。

(――本当に、こいつって奴は)

再び、政宗は幸村の唇に指で触れ、軽くなぞる。
幸村が、かすかに息を飲んだのが伝わってきた。


「舐めたところですぐ取れるもんじゃないんだぜ、これ」

政宗は、フッと笑い、「もっと簡単に落とす方法……教えてやる」


近付く左目が、妖しく光る。


幸村は、その中に映る自分の姿を見た気がした――







*2010.10〜下書き、2011.6〜アップ。
(当サイト公開‥2011.6.19〜)

あとがき


ここまで読んで下さり、ありがとうございます!

まず、また謝りたいのはアレです。おかしい京都弁。再び出してしまってごめんなさい。
名無しのままとはいかず、苦しまぎれに付けた名前も; うぁあ…
桜萌黄もクリスマスカラーでした、確か。
佐幸色(*´∀`*)

筆頭には、現実ではあり得ないくらいのクッサい言動をさせたいですな。あれほどの見てくれなら似合うはず!で、周りが突っ込むっていう。そんなん思うだけでニヤニヤできる自分。お手軽な頭です。
小十郎の魅力をどかんと書ける力量が欲しい…

忍なのに酒ってどうだろうと思うのですが、あれですよ、潜入任務とかで酒に強い方が強味になる的な?もう、飲んでも感覚全然鈍らないまで鍛えましたみたいな。ってことで;

かっこよくて可愛くて、今回は綺麗になっちゃった幸村に皆メロメロ。皆、幸村に恋したら良い。

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