紅4

「そこまで言うんなら見せてやらぁ…。俺の腹の強さをよう…!」

元親は、技でも出したんじゃないかというほど、やる気の炎を燃やし始めた。
一方、慶次は、

「幸、見てて。俺、絶対勝つからさ」

と、幸村の手を取り、熱っぽく誓う。

(――某たちも参加するのですが…)
内心はあまり頑張って欲しくない幸村だが、慶次の迫力にはタジタジであった。

「…じゃ、桜ちゃん。お酒の用意と、舞――お願いなぁ」

楓が、桜に全てを任せて華やかに笑んだ。



―――………



――そして、今に到り。

畳に転がるのは、大男二人。

「慶次殿……元親殿……」

幸村が心配そうに二人を揺するが、ピクリとも動かない。

「放っとけ放っとけ。酔い潰れただけだって」

(しかし、こいつら強かったよな…)

政宗は、正直もう諦めかけていた。…二人を潰すことを。
結構な割合で小十郎に飲ませていたので自分の心配はいらなかったが、実際小十郎が先に潰れたらまずいな…と頭をかすめた頃にやっと。

二人がバッタリ倒れてくれたのだ。

政宗がチラッと小十郎を見ると、彼は杯を台に置いた。

「…しかし、楓殿は誠にお強いのですな」

幸村が、すっかり感心したように言うと、

「いやぁ、恥ずかしいわぁ」

楓はケロリと、自慢とも謙遜とも判らない笑顔を向けた。

「いえ!すごいことにござる」

その飲みっぷりは、見ていて気持ちが良くなるくらいのもので。
実に鮮やかに杯を開けていった彼女。
しかも、幸村の分もかなり代わって飲んでくれていた。

「さあ、最後の勝負…つけはりますか?」

だが、政宗は、

「お前らの勝ちで良いぜ」

と、背後を顎で指した。


――さっきまでいた小十郎の姿が、消えている。

不思議そうに部屋を見渡すと、もう一人の姿もない。

(…桜殿も)

政宗を見ると、「そういうことだ」と、その目が言ってきた。

――一体、いつの間に?

その素早さへの驚きが、恥ずかしがることさえ忘れさせてくれる。

「酒の追加、頼めるか?」
「政宗殿、まだ飲まれる気で?」
「Ahー…小十郎の奴に止められて、ほとんど飲んでねーんだよ」

政宗は、許せ、という風に手を合わせてくる。
そう言われてみると、彼はまだシラフのようだった。

「な。もう少し付き合えよ」
「…分かり申した。では、すみませぬが…楓殿」

と、振り返る。

だが、楓はすぐに応じず黙っており、じっと政宗を見つめていた。
その目は微塵も甘いものではなく、何やら冷たい――

「…楓殿?」

幸村は目をパチパチさせて、もう一度彼女を見直す。

「あ、はい――すぐにお持ちしますぅ」

楓は美麗な笑顔を向け、静かに部屋から出て行った。

(やはり、見間違いであったな)

「――なあ、ちょっと良いか?」

政宗の言葉に、幸村は振り返った。



―――………



――さて、どう口説いて…からかってやるか。

政宗は心の中でほくそ笑み、後ろの幸村をチラッと見た。

『話があるんだ。…誰にも聞かれたくねぇ類いなんだが…』

と、上手く丸め込めて別の部屋に連れ出したのだが。

まさか、行き過ぎることまでしようなどとは思っていない。どんな相手かは理解している。
ただ、反応が見てみたかった。――いつもの悪い癖だ。



「う、わ……っと」

幸村が慣れない衣装の裾を踏み、よろめく。
とっさに政宗は手を出していた。

「すみ…ませぬ」

上体を軽く抱えるように受け止めたので、幸村の顔が間近に来る。

「いや」

と言いながら、政宗は思いきりそこから目をそらした。


(……何だ、今の)


「…して、政宗殿。…話とは?」
「……」

しかし、政宗は黙ったままで応えない。

「政宗殿?――もしや、具合でも?今になり酔いが来たのでは」

心配そうに幸村が肩を支えようとしたところで、やっと政宗は反応した。

「いや、違…」

サッと離れ――口に手を当て、息をつく。


(…何ビビってんだ、俺…)


というか、さっきから何なんだ?この…全力疾走したときみてぇな…

おかしい…色々と。

こいつの言うように、酒が回ったのか…


「…いや、…かも知れねぇ」
「やはり…。某、水を」
「いい。ここに居てくれ」

と、政宗はその手を掴む。が、すぐに離した。


(…何か、いつもの調子出ねぇ…。――格好わりぃ…)


そんな政宗の気を知る由もない幸村はさらに案じ顔になったが、大人しく政宗の前に座り直す。


(こっちが有利になるはずだったってのに、これじゃ逆だ)

――逆どころか、こいつは一切そんな気ねぇんだよな。

…腹立ってくるぜ。まるで俺の負けみてぇじゃねーか。


恐ろしいほど勝手な思いをふつふつ沸き上がらせている政宗に対し、幸村は、

「…先ほど、片倉殿にお聞きしたのですが」

その台詞は政宗を落ち着かせるには充分だったようで、

「何だ?…そういや二人だったな。何話してたんだ?」
「政宗殿にお仕えして、もう十年以上になると…」
「――ああ…まあ、そうだな」

政宗は虚を突かれたように、「ずっと居るんで、もっと長ぇ気もするけどな」

「似ておりまするな、某たちと」
「Ahー?…あいつなんかと一緒にすんなよ。――そんな話してやがったのか?」

と、鼻を鳴らす。

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