引力5

「この前、知って…。元親とお前が話してるとき、実は起きてたんだ。――ごめんな、本当に」
「いっ、いえ。某は何も…」
「…気、遣わせてさ」

慶次は、神妙な顔で言う。

「でも…もうしないからさ。――約束する」
「えっ――」
「行ったらさ…分かったから。…色々と」

その声は、迷いのない真っ直ぐなものであるように感じられた。

(良かった…)

詳しくは聞かないが、何か収穫があったに違いない。
幸村は、心の中でホッと息をつく。

「――でさ。謝った後なのに、気が引けるんだけど…。お願いが、あって」

と、慶次はためらいがちに言った。

「いえ、何でも仰って下され!某にできることなら、すぐに――」

幸村は、それこそ必死である。
勢い余って、その場に立ち上がった。

慶次はニッコリと微笑んで、

「ありがと」

と、幸村の前に同じく立つ。

「――じゃ、……ギュってさせて?」

(ぎゅ?)











「け、慶次殿?」

幸村の、面食らったような声は当然だとは思うのだが。
しかし、慶次は自分の行動をすぐに止めることはできなかった。

きっと、気持ち悪がられていることだろう。――でも、これきりだから。

とにかく、確かめたかった。
こんなことしなくても、見れば分かるけど。

慶次は力を込め、自分の腕の中にいる幸村を強く抱き締めた。

(…温かい)

その脈打つ心臓の音をも、すぐ傍で感じられる。

(――生きてる)

こいつは今生きていて、こんなにも温かい…


彼女が恋しくてこいつに惹かれたのか、それとも、こいつに惹かれて彼女が恋しくなったのか。
どちらかだと思っていたが、結局それは間違っていて。

彼女は彼女、こいつはこいつ。何かが似ていようと、同じじゃない。
共通していたのは、ただ一つ。

――二人が、強く惹かれてやまない魂の持ち主だということ。

…もう、二度と失いたくない。

ずっとそうして、笑って、怒って、強く、優しくて。…これから、あまり会えなくなるとしても、この同じ世にいてくれたら、それだけで。

そんな奴に、また逢えた。――すごいことじゃないか。
俺も、幸せ者なんだ。

(だから、これで充分…だよな?)

少し、その腕の力を弱める。

すると今度は幸村が、自由になった手を、慶次の背と後ろ頭に回してきた。
そして、ぎこちなくではあるが、優しく撫でさする。
甲斐の宿で、慶次が幸村にやったように。

「…某は、ここにおりまする」

幸村は、穏やかな声で、「置いて行かない…でござるよ」

「――……うん」

慶次は、少々身震いをするように肩を揺らした。
二つの胸の鼓動は、いつしか一方が大きく、速くなっていく。
そのことに気付かれる前に慶次は離れ、言った。

「…ありがと」







*2010.10〜下書き、2011.6〜アップ。
(当サイト公開‥2011.6.19〜)

あとがき


ここまで読んで下さり、ありがとうございます!


くさカユくて申し訳ないです

前回と同様のこと言ってしまいますが…素敵な感じで自覚させたかったのになぁ。表現力が欲しい(・ω・)

佐助がカオスだ。自分のせいで。
現代で半兵衛を幸せにしたいです。モリモリ元気で、秀吉をたてつつ影の支配者振りをとことん…!

…慶次ばっかになってきた。

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