独白1


とりあえず、自分の中で解決したかったみたいです;

(佐助→かすが)なので、ご注意!
でも、(佐かす)にはなりません。
幸村と謙信が少し登場します。


では、お目汚しへお進み下さい↓














「――ったく、お前はいつも…!」

少し頬を赤らめながらも眉を吊り上げた顔を最後に向けて、彼女は素早く姿を消した。小さな声だったが、またな、という一言を残して。

「まーた怒らせちゃった」

一人残された男は苦笑しながら呟くが、全く反省しているように見えない。
木々に紛れるには都合が良いのかも知れないが、忍にしては派手な迷彩柄の装束に身を包み、鮮やかな橙色の髪を隠すこともしない、猿飛佐助その人である。

先ほどまで一緒にいた上杉軍の忍、かすがのことを思い浮かべる。
およそ並外れた美貌に加え。
冷たそうに見えて実は心優しく、軽口に対していちいち反応してくるので、からかいがいもある――とにかく魅力的な女性で、佐助の想い人だ。

だが、いつものユルくて軽そうな調子では本心の微塵も伝わらず、今のように怒らせてしまうことが多々である。

(本気で迫ったら、あいつどんな反応するかな…)

同じ里の出身で、幼なじみとしての情は持ってくれているようだが、完全に片想いなのは自覚済みだ。

(あんな、女みたいな優男のどこが良いんだか)

こんなことを彼女の前で口走ろうものなら、命がいくつあっても足りないので、断じて言いはしないのだが。

かすがが想いを寄せる、「軍神」上杉謙信。
優男は見た目だけだというのは、佐助も重々承知だ。何せ、自身が仕える武田信玄の好敵手。

謙信に対するかすがの態度や表情からは、嫌でも心底惚れているのは分かる。何しろ謙信以外の人間への態度とは大いに違い過ぎる。というか、別人。
正に恋する乙女とはああいうのを言うのだろう。まぁ、ハタから見ればかなり笑える激しさと輝き振りではあるのだが、結局のところは羨ましいし妬ましい。
もしも、自分だけにあんな顔を見せてくれるのであれば、どんなに…

しかし同時に、そんな彼女を見ているとどうしても自分の気持ちを言い出せなくなる。
本当に幸せそうな、ますます綺麗に見える彼女。そうさせているのが、あの軍神の力だというのなら――

だが所詮は忍、主と従者の関係に過ぎない。いや、表舞台を往く武将ならまだしも、影の存在でしか在り得ない自分たち。
かすがはずっと幸せでいられるのか。軍神は、彼女をこの先も…最後まで大切にしてくれるのか。

(俺なら…)

以前からかすがには忍なんて似合わないと思っていたし、穏やかな日々を送らせてやりたかった。
綺麗とは言えないこの仕事を、彼女がどんな悲痛な思いでやってきたのかは、自分が一番知っている。――同じ思いをしてきたのだ。
ただ、かすがは自分より優しい分、きっともっと傷付いている。
全てから解放してやりたい。そう思っていた、…のに。

(…何だろねぇ)

こんなことなら、もっと前に伝えておくんだった。
昔の自分なら、軍神の存在も、かすがの想いも、全て無視していたことだろうに…。

そんな噛み合わないことを考えながら、しばらくの間空き家の屋根瓦の上で寝転がっていた。
見上げる空は、夕焼け後から宵へかけての赤紫色に染まり、明るい星たちも見え始めている。――今晩は、珍しく何の予定もない。

そろそろ戻るか、と起き上がると、

「佐助!」

と、下から声がした。
姿が見えなくとも、その主はすぐ分かる。

「旦那?」

佐助はスッと地に降り、まだ少年のような顔立ちの男の前に立つ。

真田幸村――佐助が直接仕える主である。

と言っても、佐助より幾歳も若い。幸村が幼い頃から傍で仕えて…というより、面倒を見てきたと言う方が正しいか。
今ではとんでもなく強豪に育ち、属する武田軍にも名だたる武将として活躍するようになった。
佐助としてもその成長が嬉しく、これから先も、楽しみでもある。

「この辺りで鍛練しておったのだ。帰る途中で、お前の鳥を見た気がしてな」
「それでわざわざ寄ってくれたの?申し訳ねぇ。――んじゃ、帰りますか」
「うむ」

珍しくゆっくり歩く主の方を見てみれば、鍛練後という割に汗は引いており、顔も白い。
今は秋も半ばの、少し肌寒い時期。
佐助が屋根の上で休んでいると思い気遣ったのか、恐らく長い間待っていたのだろう。

(ったく。…主がやることじゃないっての)

心の中で呆れて苦笑するが、決して悪い意味ではない。

(ヨソはヨソ、ウチはウチ、だもんね)

というより、どこを探してもこんなに砕かれた主従関係はないだろうとも思う。
自分ほどの忍を持つのは幸運だとか、早く一人前になってくれよとか、働きと給金が対等じゃないとか、よくこぼす佐助だが。
普通なら冗談でも言えないことを、怒りもせず聞いてくれるこの主は、相当変わっている。

だが、口ではそう言いつつも長年鞍替えする気も起こらない自分はさらに変わり者なのだろう。

「旦那、帰ったらすぐに湯浴みしなよ?汗も引いちゃっただろ。今晩はちょっと冷えそうだしさ」
「そう、だな。…ところで佐助」
「何?」

聞き返された幸村は、少し気まずそうな顔をし、佐助の視線を避けた。

「うむ…今晩、お館様から命が下されると思うのだが」
「げぇ、せっかくの休みだと思ってたのに。俺様、働き過ぎでしょー。旦那ぁ、特別手当てお願い」

幸村は、そこは聞こえない振りをする。

「それで行き先が越後の国でな…つまり」
「まさか、上杉謙信暗殺?」

その辺に間者でもいたらシャレにならないので、小声で耳打ちする。

「そんなわけがあるまい!お館様に限って!」
「冗談だってー。じゃあ、つまり何?」

幸村は、何やら下を向いて言いにくそうにしながらも、

「うむ、その…。かすが殿と…。いや、かすが殿のお姿でも窺ってきたらどうかと。健やかな様子を見られたら、佐助も安心であろう」


(えぇぇ!?)


佐助は驚きを隠せなかった。
確かに上杉軍との対峙の際に、旧知であることは話していたのだが。

旦那がこんなことに気が回るなんて!本当に驚きというか、何ていうか。
それよりも、旦那のこの態度…

(俺様の気持ち、バレてる…気がするんですけど)

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