宴6

「いや、必死に逃げたぜ!?でも、あれはキツかった…。その後も、やたらそういう奴らに寄ってこられてよ。坊さんだけじゃねぇ…とにかくベタベタしてくんだよ、奴らはよ…!」
「た、大変だったんだな」

慶次も、さすがに笑い飛ばせない。

「…そういうのしか見てねぇからか…頭では分かってんだけどな。そうじゃねぇ、真面目な奴もいるってのは。――つい、忌まわしい記憶が先に出ちまって」

その言葉に、慶次は感心した。

「元親…アンタは偉い!」
「ま、すぐ平気になるには時間かかりそうだけどよ」

少し情けなさそうに元親は言う。

「あの…元親殿」

幸村が、おずおずと、「すみませぬ、よく…分からなくて。小姓に間違われて…つまり、働かされたのですか?ひどく…」

しかし、後の話や何やらと繋がらない――幸村の頭は、混乱をきたしていた。

「あー…やっぱお前は知らねぇのか。あのな…」
「ちょ、ちょ!良いんじゃねぇかな!?そんなことは知らなくてもさ…!」

慶次が焦って元親を止めようとするが、

「知りたいのです、慶次殿…!」

幸村の、懇願する姿には逆らえない。

「このままでは、元親殿の苦しみが分からぬままでござる…」

これを聞いた元親は、いたく感激したようだった。「幸村、お前って奴は…!」

慶次は相変わらず心配そうにしていたが、元親は説明を始めた――













(大丈夫かな、幸…)

慶次は、出て行ってしまった幸村のことを案じていた。
修行僧の女犯の代わりとなる者や、その行為についての話を聞いた幸村は、顔を赤らめたり青ざめたりしながら、最後にはふらっと自室へ戻って行った。眠くなったと、いかにも取って付けた理由とともに。

「てかよ、知っててもおかしくねぇ話だろ。あいつもいつかは聞いてたって」
「そうだぜ。それにこれで小十郎の話が存分に聞けるぜ?」
「え…」

元親が、ビクッとなる。

「Ah〜、お前の苦い過去の奴らとは違ぇって。…それにしても」

政宗は元親をまじまじと見つめ、「見てみたかったぜ、ガキの頃のお前」

元親はサッと顔色を変え、脱兎の如く慶次の後ろへ逃げ込んだ。

「政宗、あんまりからかうなって」
「Ah?からかう?」

政宗は一つも笑っていない。

「俺は、気に入った奴ならどっちだろうと関係ねぇんだ。小十郎と違って、そっちからは言い寄られたことはねーけど」

真顔と言った内容との激しい差に、慶次たちは揃って目を点にした。

「あ、もちろん俺も真面目な方だぜ?あと、安心しろ。お前らに迫ったりしねぇから」

(ま、最初は好奇心からだったんがな…)
極めてこその色男とか思ってたからな。難なくやってのけた自分にも驚いたが。

「そっか…」

すっかり信じた慶次などは、感じ入ったように頷いた。

「じゃ、小十郎の話か――それとも、俺の方を聞くか?」

再び、楽しげな顔になる政宗。
慶次は、内心興味があった。知り合いが多いとはいえ、具体的な話などは聞いた試しがない。一応、気の遣いどころは理解している。

「じゃ、俺はそろそろ…」
「お前は克服するんだろ?協力してやるよ」

いそいそと立ち去ろうとした元親だったが、政宗にしっかり腕を掴まれ、真っ暗な顔になる。
小十郎に救いの目をやるが、

「…諦めろ」と、首を振られた。










一方、部屋に戻った幸村は、布団に入ったものの寝付けずにいた。
元親に聞いた話が、ぐるぐる頭の中を回っている。想像にも難く、とにかく信じられない思いで一杯である。
書物での知識に過ぎないが、男女のことくらいは知っていた。――これでも、一応は元服している身であるのだ。

元親の、あの青ざめた顔を思い浮かべる。
自分だって、幼い頃にそんな目に遭えばああなるのは必至だろう。

(佐助に、あのような思いをさせてしまうのだ…)

もちろん、幸村にそんなつもりはなく…というより、考えもしなかった。男女ではないのだから、まさかそんな――
だが、さぞや気持ち悪いと思うに違いない。

(…死んでも、言えぬ)
眉を寄せ、硬く目を閉じた。



―――………



その様子を、佐助は上から始終見ていた。
幸村が宴を出てから、後は部下に任せて移動していたのだ。

(大丈夫かな、旦那…。――全く、よくもあんな話)
何も知らなかったから相当驚いたことだろう。
元親の言い回しはかなり紳士的だったのだが、幸村が衝撃を受けるには充分だったらしい。

(でも…そんなに嫌だったのかな)

ひどく辛そうな顔をしていた。…むしろ、切なそうな。

佐助は目を閉じたままの幸村を見ていたが、そろそろ戻るかと腰を浮かせた。
そのとき、

(!)

幸村の目がパッと開いた。
佐助はギクリとし、息も気配も全て消す。

目が合う――幸村からは見えているはずもないのに。…本当に偶然の出来事。

佐助の心音が速くなる。





……目が、離せない。





旦那、何を見ているの…そんな、見たこともない瞳で。

(……例の、女を?)

だとすれば、本気で惚れてるみたいだな…こりゃ。






(…けど)


何だって、そんなにも苦しそうな顔をするのさ――







*2010.10〜下書き、2011.6〜アップ。
(当サイト公開‥2011.6.19〜)

あとがき

ここまで読んで下さり、ありがとうございます!

素早く打ち解けるにはお酒でしょうということで。
恋に自由な筆頭に、大変なトラウマを持つアニキ。早速ひどい捏造しちゃいました;
うちの小十郎は寡黙なダンディーなんですよ、きっと。決して影が薄いわけじゃっ…
しかし男前ですよね。極殺モード前髪パラリとかやばい。

とりあえず、飲んだくれ慶次を叱咤する新妻幸村と、心配やら何やらで悶々する佐助が見たかったんですな。

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