宴2

「…さよちゃんのこと?」

慶次が幸村の顔を覗う。
幸村は、また読まれた、と思った。
結局、佐助のことはその名前で呼ぶことに決めたのだ。
特別な由来があるわけではなく、「さ」から始まる名前…と、適当に付けただけである。

「…一途だねぇ」

慶次が温かく笑ったので、幸村は引け目を心の端の方へ追いやった。
(そうだ、約束したのだ。…決して恥じぬと)

「――そろそろ行きましょう、慶次殿。今日もお勤め、力の限りやり遂げましょうぞ!」

幸村が元気良く促すと、慶次もその話題にはもう触れなかった。

「だな、頑張りますか」

出鼻に幸村が宿の者に呼び止められた為、慶次は先に外へ出る。「夢吉ぃ、行って来るよ〜」

通りをゆっくり歩いて行くと…

「――あ」

前方に、慶次が待ちわびていた男の姿が見えた。
向こうは初めから分かっていたのか、こちらを真っ直ぐ見据えている。
その顔は笑っているが、決して好意的なものではなく――腰に差した一刀を手に、慶次に向かって来る。
慶次も背負った大振りの長刀に手をかけ、苦笑いをした。

(――やっぱり、そうくるよなぁ…)
抜こうとしたその瞬間…


――ヒュッという風切り音がしたかと思うと、顔の横を何かが過ぎ去った。

気が付くと、目の前に赤い槍が地面に刺さっており、向かって来た相手が怯み、立ち止まっている。…慶次もまた、少々固まっていた。

「ご無事ですか、慶次殿!!」

幸村が、先の槍のような勢いで慶次の前に走り込んで来る。

「――ていうか、俺も殺す気?」

控え目に言ってみたが、幸村にはまるで聞こえていないらしく、

「おのれ、何奴!」

と、勇ましく立ち向かう。
だがそれも、その相手を見るとすぐさま驚きのものに変わった。
幸村は、これでもかというほど目を大きく見開き、信じられないという表情になり、

「ま、政宗殿…?」
「真田、幸村…アンタか?」

政宗の方も、幸村に負けず劣らずポカンとしている。

「政宗様!」
「片倉殿まで…」
「真田…どういうことだ、テメェ」
「それはこちらの台詞にござる。お二人とも何故ここへ?」

政宗は慶次の方を見やり、

「俺はこいつに用があって来た。真田幸村、お前もこれで来たのか?」

懐から書を取り出す。

「いえ、某は慶次殿と――」
「――おうい!!ひでぇじゃねえか、置いてくなんてよ!」

幸村が説明しかけた矢先、そう言いながら一人の男が輪に入ってきた。
銀髪に、蒼い右目。もう片方の目には三角形をした紫色の眼帯。同じく紫色の衣服。上着をマントのように肩へ羽織り――とにかく目立つ風貌の持ち主。

「長曾我部殿!」

幸村は、以前も会ったことのあるその男――長曾我部元親、までの参入に、さらに目を丸くする。

「おーう!武田の若虎、久し振りだなぁ。アンタらも予選に?俺は今朝着いたばっかでよう、ついさっきこいつらとそこで会ったのよ」
「そうだったのですか!某たちもあの宿に泊まっているのでござる」
「おー、そうなのかい。じゃあ、虎のオッサンたちも?」
「あ、いや…」

そこで、慶次が間に入り、

「まあまあ、ここでは何だし。幸、ちゃんと説明するからさ」
「慶次殿?」
「お三方も。…ただ、俺らこれからお仕事なんだよ。そこまで付き合ってもらえないかなぁ?」
「ああ、俺はこれから早速会場へ行くところだった」
「ありがとう、西海の鬼。――よく、俺だって分かったね?」

慶次が元親に笑顔を向ける。
西海の鬼とは元親の通り名で、四国とその海を治めながら、また海賊などとも恐れられている。
――二人は、初対面であった。

「アンタ、結構有名だからな。ま、どんな奴か、こいつらに聞いてたってのもあるけど」

元親は、政宗と小十郎に向かって、「なぁ、お前らも来たってことは、予選に出るんだろ?」

「その前に、こいつを一発シメに来た」

政宗は指をポキポキ鳴らし始めるが、当の本人は「まぁまぁ」と受け流し、

「こないだのことなら悪かったって。勝負なら、大会で決着付けようぜ。な?」
「政宗殿、それは?」
「Ahー…どっかのふざけた野郎からの怪文書だ」

幸村はグシャグシャになったそれを受け取り、ガサガサと開いて読む。
内容は、確かに目を見張るものであった。

まず、大武闘会への誘い――しかも挑発するような言い回し。これを読めば、強さを自負している一武将ならば出向かざるを得ないように思える。
そして、その褒賞…

「と、豊臣の秘宝?」
「それを見ちゃあ、来られずにはいられねぇってもんよ」

元親はニヤリとする。――さすがは海賊。

「本当なのですか?これ…」

幸村が少し心配そうに慶次を見る。

「おいおい、嘘なら俺も容赦しねぇぞ?大丈夫なんだろうな」

気色ばむ元親に、慶次は依然動じない。

「んなわけないだろ?嘘だったら俺袋叩きじゃん。このお宝を出すことは前から触れ回ってたんだ。だから、参加者も大勢なんだよ」
「何故、わざわざお二人に文を?」
「二人だけじゃなくて、他にも沢山出したよ〜。毛利や徳川、織田に明智、豊臣、島津のじっちゃん、もちろん武田や上杉も。他にも有名な武将たちにたーんとね」
「と、豊臣にまで!?…この、同じ文を?」
「うん」

慶次は、悪びれもなく言った。
もれなく全員、呆気にとられる。

「…やっぱり、とんだcrazy野郎だぜ」

政宗が、呆れ返ったように呟く。
そのせいか、さっきまでみなぎっていた殺気がすっかり拭い取られてしまったようだ。

「こうすると、皆来るかなってさ。今年の年末年始はでっかい祭りを舞台に、皆でお祝いしようぜ!…みたいな。どうよ、良い案だろ?」
「…その前に国取られたらどうすんだ。誰も来ねぇだろ」
「でも、アンタら来てるじゃん」

鼻で笑う政宗に、すかさず慶次は突っ込む。

「まあ、俺んとこは野郎共に守りをしっかり任せてあるからな。それに、俺ァ普段から出回ってることが多いしよ」

と、元親は何でもない様子である。

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