宴1


やっとこさ他の人物が登場します(@_@;)

伊達主従元親が増え、Let's party!
…ってほど、大した親睦にはなってない。結局話させたいのはソレか、という。はい。
佐助幸村慶次は、もちろん登場します。














「…猿」

男は呟き、立ち止まった。
大きめの立派な宿の出入り口先で、小さな猿が客相手に愛想を振りまいている。
右目に刀の鍔形の眼帯を施したその男――伊達政宗は、フッと笑った。

「…どうやら、ここで間違いなさそうですな」

その後ろに控えていた、左頬に傷のある強面の男、片倉小十郎が政宗を窺う。

「あのhappy野郎…ふざけた真似してくれやがって。ただじゃすまさねぇ」
「政宗様、まさか宿で一戦交えようなどとは…」
「Ha!すぐにでもそうしたいところだが、常識くらいは持ち合わせてるぜ?あいつと違ってな」

と、懐から一枚の書状を取り出し、グシャッと握り潰す。

「こんなもの送ってきやがって、一体どういうつもりだ」
「…文の通りそのまま、なのかも知れませぬが」
「だったらだったで、やっぱりふざけた野郎に変わりはねぇ。――行くぞ」

早朝だというのに、宿の中は忙しく動き回る人で一杯である。
色白美人な女主人が、「おこしやすー」と、笑顔で二人を出迎えてくれるが、

「いや、すまねぇ、客じゃねぇんだ。人を訪ねて来たんだが、ここに…」
「政宗様!」
「…アン?」

訝しげに見ると、小十郎の目線の先に、見知った顔が――

「あいつは…。何でこんなところに」
「我々と同じ理由――なのでは?」
「これ…か」

手にした書状を忌々しげに見る。

「とりあえず、声かけてみるか」













「慶次殿、朝でござる――起きて下され」
「んー…」

ぐっすり寝ていたところを妨げられ、慶次は不機嫌そうな声を上げる。

「ねみぃ…」
「また昨日も飲んでおったのでしょう」

幸村は咎めるように言い、抵抗する慶次から布団をはぎ取った。
ひでぇ…と慶次は嘆き、

「…付き合いが多くて、一晩じゃ終わらないんだってば」
「にしても、飲み過ぎでござろう。一回の、量を考えなされ」

幸村は、いささか冷たく言い放つ。
――二人が甲斐の国を出て、二十日が経っていた。
京に着いてからは、一軒の宿に泊まり込みの生活を送っている。慶次にとって、こちらでの住み処のような付き合い深いところであるらしい。
昼夜の食事処としても大変賑わっている景気の良さに加え、宿の人間も皆親切で、幸村にも屈託なく接してくれる。

既に大武闘会の予選は始まっており、各地からの強者たちとの手合わせに、幸村は意気揚々と槍を振るっている。
大会の主催本部から給金をもらえるようになり、宿代を支払おうとするのだが頑なに断られていた。
どうやら、慶次が豊臣から持ち帰った財を受けているとのことで。
しかし、それでは幸村の気が済むはずもなく、宿の裏方の力仕事などを、早朝や晩に手伝わせてもらっていた。

そんな幸村を宿の者たちはすっかり気に入り、今では慶次と同じような親しみさえ持っているかのようだ。

「――お二人とも。お食事のご用意、できてはりますよ」

開いたままの戸の横から、可愛らしい若い娘が顔を覗かせた。

「あ、すみませぬ!すぐに」

幸村は、もはや慶次を引っ張り上げる。

「いででで!分かったから」

慶次が悲鳴を上げると、娘がクスクス笑う。

「ほら慶次殿、笑われておりますぞ」

幸村は大真面目な顔で言い、娘と親しげに話ながら先を行く。

(――成長したもんだ)

慶次は、内心苦笑する。
…ここに初めて来た頃は、目を合わすことさえままならなかったというのに。
宿の女たちが気さくなのも幸いしたのだろう、幸村ももう打ち解けている。
その実直な性分も、予想通り好感を持たれているようだった。


「夢吉殿は働き者でござるな」

朝の食事をしながら、幸村が微笑んだ。その目線の先は、宿の出入り口前。
夢吉は招き猫ならぬ、招き猿として大活躍である。
主人がここに長く滞在すると分かっているのか、最近はずっとああして商売繁盛に一役買ったり、宿や近所の子供たちと戯れたりしている。

「皆が面倒見てくれるから助かるよ」
「今思えば…夢吉殿は慶次殿のお目付け役でござったな。ここは、一旦戻って頂き…」
「おいおいっ。…つーより、今じゃ幸がその役じゃないか」
「某は、慶次殿の為に言っておるのです」

短期間とは言えど、衣食住を共にしているせいか二人はより近しい間柄になっていた。
今では遠慮のない言い方もでき合う仲で、お互い昔からの付き合いのように錯覚してしまいそうになるほどだ。

「どう?ここでの暮らしは」
「充実しておりますよ。慶次殿には感謝しきれないほどにござる」

幸村は、偽りのない笑顔で答える。

「いやぁ、そんな。…でも、そう?」
「はい。京までの道中でも、色々な地を回って良いものを沢山見られましたし。…都は想像以上に美しく、珍しいもので一杯です。食べ物も全てがとても美味で」

それを聞き、慶次は幸村以上に笑顔になる。

「嬉しいねぇ、そう言ってもらえると。――で、ここの女の子たちはどうだい?」
「はい?」
「可愛い子が多いだろ?幸、モテてるよなぁ。もう誰かに声かけられたりした?」

慶次は、パタパタと忙しそうに働く、先ほどの娘に目を向けた。
幸村はたちまち顔を赤く染め、

「な、なななな……ないでござる!!」

その声の大きさに、気付いた娘がこちらを見て小さく笑う。
慶次はそれに、にこやかに応えた。

「可愛いなぁ」
「……」
「えっ、可愛くない?」
「い、いえ!――綺麗…でござる。皆…」
「幸、最初固まってたよなぁ」
「あれは…緊張して」

幸村は、真っ赤になりながらも正直に言っていた。
言い訳をすればするほど、慶次には自分の考えがバレてしまうことはもう悟りきっている。

確かに、綺麗な娘ばかりで。華やかで明るく、話すとこちらも自然と笑みが出ているような。
細く華奢で、守りたいとはこういうものを言うのだろう。
…自分とは、全然違う。

ふと、佐助のことが頭に浮かぶ。
――やはり、彼にはああいう綺麗な娘がお似合いだ。

そう思うと、自分の想いがひどく滑稽なものに感じられて恥ずかしくなってくる。

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