旅立ち1


相変わらずストーリー性ゼロ(--;)む、無駄に長いっ…


慶次が、幸村の恋心をどうにかしたいと画策する展開です。
お館様と、佐助が、まるで幸村の父母のようです(^^;














初めて恋をしたあの人のことは、きっと一生忘れられないのだろう。



いや、慶次にとって惚れた女性は等しく大切な存在だ。誰一人として例外なく心から慕い、多くの大事なものを見知ってきた。

…しかし、その人だけが今はもうこの世にいない。

あまりにも早く、自分を置いて逝ってしまった。…それも、心から愛した男のせいで。
慶次は、一度に大切なものを二つも失ってしまう――男は、彼の友だったのだ。
そのときから、彼の温かい心の奥底には、怒りと哀しみという闇が植え付けられてしまった。
彼女を幸せにしたかった。…彼女は、幸せなのだと言っていたけど。
もしかしたら、彼女に捧げたかった多くの想いも昇華させたくて、数多の女性に恋してきたのかも知れない…。

――そして、過去に決着を付ける為、友であった男の元へ殴り込みに行った。…踏み切るまでには、実に長い年月がかかってしまったのだが。
彼は、彼女を愛していた。その愛が、己の弱さと敗北を生むことを恐れたのだという、慶次には到底理解できない、いや、したくもない考えを言い放った。
…結局、やはり怒りは治まらないまま、やるせなさが増したのみで。

だが、彼女が愛されていたことだけには救われた気がし、もう友とは思っていないはずの男を手にかけなかった自分に向き合い、認めた。
自分は、こんな奴に対しても最後まで『前田慶次』でしかない。
ここまで憎いと思っても、できない。――それが、さらに憎しみや哀しみを広げていく行為だと、知り尽くしているから。


…俺は、これで良い。…これが、俺だ。


とは言いつつ、容赦なく金銀財宝は頂戴した。(これでしばらくは、あいつらも大人しくするだろ)

都で散々大盤振る舞いしてから、また放浪の旅に出ようとした際、思い浮かんだのが、甲斐の若虎の姿だった。

初めはほんの軽い気持ちで、あのからかいがいのある面白い奴に会いたい、くらいのものだったのに。
思った以上に自分自身が楽しくて、何故だか世話を焼きたくなる。
子供じゃないとは分かっているのだが、ついついそんな振る舞いをしてしまう…。

――兄貴気分でも味わいたいんだろうか?
兄弟のようだと言われてあいつは不満そうだったけど、俺は結構嬉しかったんだよな…

そしてあいつの、恋する相手への気持ちを聞いていると…彼女のことを思い出した。その想い方が、二人、似ているように感じたから。



(…だから、夢に彼女が出てきたんだろう)



俺は彼女の髪をほどき、柔らかく滑らかなその手触りを楽しむ。
それから、肩の着物をずらそうとし――


…いや、夢の中だから。

現実では他人の女だけど、夢の中でならそんな夢くらい見ても良いだろ?

――ん?俺、どこまで夢見る気なんだ?…それじゃ、いつまで経っても何もできねーよ。

慶次は、そう自分に突っ込みながらも、とにかく、夢の中でしか触れることなんてできないんだから…と自嘲する。


(…しかし、いやにこの髪の感触、はっきりしてるような)


その顔にかかる髪をどけていくと、

(あれ?彼女じゃないぞ…。おかしいな、さっきまでは、ちゃんと…)

というか、これ誰だ?…俺、とうとう見知らぬ女まで夢見て、こんなことしてるなんて…情けなくなってくるな。

…いや、待て。――これ…現実?

そう思うと、ぼんやりした意識が徐々に醒めていき、見覚えのある天井や壁がはっきり見えてくる。
どうやら半分夢で、残り半分からは現実だったらしい。

(そうだ…昨日は、)
良い宿に案内してもらって。最後は二人で酒盛りして…
幸村がウトウトし出して、俺もかなり酔ってたけど、布団敷いてやろうとして…

――どうしたんだっけ?…部屋、もう一つ取ってたんだよな。

と、目を向けると、こちらの部屋との境にある襖はきっちり閉じられている。

…今、幸村にこっち来られたら非常にヤバい。女連れ込んだなんてバレたら…

と、そのとき女が寝返りを打ち、慶次が着物を少しずらしていたせいもあってか、思いきり胸元がはだけた。
慶次は息を飲むが、しっかり見てしまうと唖然とした。そこには、それはそれは立派な…




――胸板が。

………
……



――ってこれ、幸村かぁ!!びっ…くりしたぁー!!

…そっか、俺がここに敷いて、二人とも一緒に寝ちゃったんだな。まぁ、俺はほとんどはみ出てたみたいだけど。

幸村は、相変わらずスヤスヤと寝息を立てて、気持ち良さそうに眠っている。

(――髪が…)

あ、俺がほどいたんだっけ。

布団に広がる栗色の髪を見ていると、見慣れていないからだろう、何だか別人のように見えて仕方がない。

(本当に女かと思って焦ったよ…たく)

その顔を間近で見てみると、目を閉じている分、睫毛が多くてしかも長いことがよく分かる。――だからか、間違えたのは。
起こさないように、はだけていた部分も直してやる。…これも自分がしたのだと思い返すと、慶次はいたたまれなくなり、心の中で手を合わせた。

(ごめんよ、幸村。…俺は、友達になんつー真似を)
ほとほと落ち込んでくる。

幸村に布団をきちんとかけ直してやってから、慶次は襖向こうの部屋にもう一組の布団を敷いて横になった。
――昨晩のことを思い出す。
さっき見た幸村の寝顔から、心底安心して眠りについていることが窺えたので、安堵していた。

(昨日は、聞いてるこっちの方まで辛くなる気がしたもんな…)

…あの顔は、もう見たくないな。あれを見てると、本当に苦しくなる。
笑った顔がいい。いや、怒った顔でもいい。
戦いのときにはさらに増す暑苦しいほどの熱血でも、たとえ耳の鼓膜が破れそうなくらい声がでかくてうるさくて、いちいち真面目臭くて融通が利かなくても、そっちの方が何倍もあいつらしい。

何も知らなかったせいで、相当に苦しんだのだろう。…同性に、想いを寄せてしまったことに。

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