友6
「…馬鹿だなぁ。人を恋う気持ちに間違いなんてあるもんか。――それに、お前のは最高級のもんだ。自慢したって良いよ。…許されないとか、自分を責めるのも今日で終わり」
優しい声音が、耳をも撫でる。
ずっと抱えていた混沌としたこの胸の内を、爽やかな風が、さあっと吹き抜けていくかのようだった。
何より、自責の念から解放の手を差し伸べてくれたことが、一番の救いに感じられた。
「某が言った言葉に、偽りはござらん…」
「うん、分かってるよ」
しかし、と幸村は続ける。
「苦しい…のです。某を守るべき立場の忍、と分かっていても。その命がなくなる…二度と会えなくなるなどと思うと。だから、某はもっと強くなりたく――。なのに、その幸せを願っておきながら、某の元からいつかいなくなるのかと思うと…。矛盾が生じて、自分の気持ちがどういうことなのか分からなくなってくるのです…」
酒のせいもあるのだろう、幸村の大きな茶色の両目から、ぽろぽろと涙がこぼれ落ちていく。
その流れが止まるまでの間、慶次は泣き顔をそれ以上見ることはせずに、ずっと幸村の頭を撫で続けた。
まるで、大丈夫だと何度も言うように、優しく、静かに。
いつの間に用意したのか、涙が止まった頃、冷たい水に濡らされた布を手渡された。
(…気持ち良い)
泣いてしまったことは、やはり恥ずかしい。
だが、聞いてもらえて…ああまで言ってもらえて。今では、何て心穏やかになれたことだろう。
先ほどの涙が、残っていたモヤモヤを全て洗い流していったのか。
――どこか、晴れやかな気分でさえある。
「慶次殿、心から御礼申し上げる」
顔を拭き、さっぱりとした幸村は深々と頭を下げた。
「お、大げさだなぁ。俺、大したこと言えてねぇし…」
慶次は困ったように笑う。
(…そんなことはない)
貴殿の言葉がなければ――そもそも、この幸村を訪ねて友になってくれなければ。
ずっと、あの苦しみも想いもよく分からぬまま、それらを心の奥底に押し込めたままだったに違いない。…気付かない、知らない振りをし続けて。
しかし、この気持ちを…感謝を、どのような言葉で表せられるのかが分からず、もどかしい。彼は、こんなにも自分に与えてくれたというのに。
(――ああ、これは)
この気持ちは、佐助に対してもよく起こるものだ。
どうしたら自分もそのように、彼らがくれるものを返せるのだろう。……自分は、いつももらってばかりいる。
「慶次殿も…、いえ」
「ん?」
「…慶次殿は、某なんかよりも、もっとすごい。――と、思いまする」
あれだけ分かっているというのに、こんなことしか言えない。
自分の稚拙さには、ほとほと呆れてしまう。
そんな幸村の考えをよそに、慶次は、
「…ありがとう」
と、本当に嬉しそうに言ったので、やはり敵わないと思った。
今晩は、今までで一番美味い酒が飲めそうです、と幸村が言うと、慶次はさらに喜ぶ顔になる。
二人は、夜が更けるまでたっぷりと飲み交わした。
そうして幸村は、友と呼べる者とのこのような時間がこんなにも楽しいものだと、初めて思い知ることになるのだった。
*2010.10〜下書き、2011.6〜アップ。
(当サイト公開‥2011.6.19〜)
あとがき
ここまで読んで下さり、ありがとうございます!
慶次は、あったかくて優しくて、逞しいけど少年みたいな。きっと誰よりも良い人で。
幸村は、真面目なのはもちろん、真っ直ぐで天然で、思いやりに溢れてて、とにかく健気という。
私の理想妄想の彼らです。
真っ白ですねぇ(^m^)
黒いのも萌えそうですが。
しかしそうすると、みんな真っ黒になりそうな予感(^^;
佐助に加え、この二人も相当な捏造被害を受けることになりそうです。好き過ぎてもう
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