とけていく。



「最近暑すぎるーーー」
「んー、暑いねー。猫柳ちゃん見てると暑苦しくって仕方ないよー」

口を開けば出てくるのは暑さに対する文句ばかり。最近は猛暑日続きで、暑さで溶けてしまいそうなほどだ。隣で王馬くんが吐いた悪態にも反応出来ないレベルで感覚が麻痺してしまっている。
皆と親睦を深めなければいけないというこの状況では冷房の効いた部屋でゆっくりする訳にもいかず、こうしてわざわざ外の暑い中でこの王馬小吉という嫌味の塊と時間を過ごしているのであった。そうは言っても私は王馬くんの事は嫌いではない。寧ろ好きだけど素直にそれを認めてしまうのは少し癪に触る。

「ねーねー猫柳ちゃん、アイス食べる?」

「食べるー!」

しばらくベンチに掛けていたけれど、もう特に話すことも無くなって困っていたところに王馬くんからのありがたい提案だ。暑さを紛らわせる為に冷たい物を食するというとても初歩的な対処法ではあるが、このまま暑さに耐え続けることは厳しいと、私の足りない頭でも容易に理解することが出来た。
王馬くんが持って来てくれたのは紫色をした棒アイスだった。いつも王馬くんが飲んでいるお気に入りの炭酸飲料のアイス版だ。この棒から漂ってくる冷気に心地良さを感じながらかぶり付けば冷たさが火照った体に染みる。

「ねぇ、その食べ方わざと?ちょっとえっち」

「だってアイス噛めないんだもん、仕方ないじゃん」

猫舌は食べ方が悪いからだとか言うけれど、アイスが噛めないのも私の食べ方が悪い所為なのだろうか?
私が棒のアイスをやっと半分まで溶かした頃には王馬くんの分のアイスはもう無くなっていた。さすがにこの炎天下の中ではアイスが溶ける速度がはやく、最後は急いで口に詰め込んだ。

「ねー、ちょっと。口の横に付いてるよ、みっともないなー」

「やっ、あ…んっ、」

そう言ってベンチに座ってる私に覆いかぶさった王馬くんに口の横を舐め取られ、そのままアイスで冷えた口内を熱い舌が弄った。しばらく角度を変えながら繰り返された口付けに目が虚ろになって潤んでいく。名残惜しそうに離れていった唇をぼけーっと眺める事しか出来なかった。

「もう、そんな蕩けた顔しちゃってさ。猫柳ちゃんが溶けてなくなっちゃうと困るから涼しいとこ行こー?」

アイスよりも簡単に溶けてしまう心を、王馬くんが好きだというこの気持ちすら見透かされている気がする。そしてそのまま手を引かれて王馬くんの部屋まで連れて行かれた。全部が全部彼の策略だったとしても、それに溺れるのが心地良いと思ってしまう私は、もう彼の支配下に置かれているのだ。