刹那的な愛し方

一方的に突きつけられたコロシアイという現実。その現実に立ち向かおうとする者、困惑する者、そしてその状況を楽しもうとする者もいた。彼、王馬小吉は楽しもうとする者の象徴とも言える人物だ。

「にしし、麗奈ちゃん、この状況どう思う?」

「王馬くん!こんなことしてどうするの!?」

麗奈の首元にかけられた鎖付きの黒い首輪。その先には鎖の先端を掴み満足気に微笑む王馬の姿があった。王馬は鎖を乱暴に引き寄せると麗奈の耳元で囁いた。

「オレが大好きな麗奈ちゃんを、大切に大切にコロシアイから守ってあげようと思って。オレの側にいれば安心だと思うよ?…まあ、嘘だけどね」

最後に囁かれた嘘という言葉は前に紡がれた甘い言葉のどこにかかっているものなのか想定が出来ない。そうやって王馬は麗奈の心を絶望に染めようとしているのだ。

「麗奈ちゃん、今から言うことは全部嘘。オレは麗奈ちゃんが大切だからね。このまま閉じ込めて全部オレのものにしちゃいたい。ずっとオレの側にいてほしい。オレの事だけを考えていてほしい」

もうわからない。王馬小吉という人物が麗奈に何を求めているのか、全く見当もつかなかった。コロシアイという現実を突き付けられて、戦闘に長けた能力でない麗奈は、もう王馬に全てを委ねるしかなかったのだ。

「王馬くん、私のこと本当に守ってくれる?」

「まあ、そこで土下座して頼んでくれるなら考えてやらなくもないけど」

もうやるしかなかった。床に膝をついたと同時に全てが決壊した。だらしなく頭まで下げて必死で懇願した。

「なんでもするからっ…私のことずっと側に置いてください!お願いします…お願いしますっ…」

羞恥心などとっくにない。恐怖が全て言葉になって、涙になって、とめどなく溢れてくる。鎖を強く引かれて上を見上げれば黒い笑顔を浮かべた王馬が膝を組んで椅子に座っている。

「あれれ?もしかして麗奈ちゃんって結構ドM?そんな虐待されてる子犬みたいな怯えた顔をしてるくせに…」

王馬が椅子をおりて麗奈が這っている床に膝をついた。鎖という主導権を握られている麗奈は目を逸らす事が出来なかった。そのまま王馬の顔は麗奈の耳元に寄ってくる。

「ちょっと喜んでたりするでしょ、変態」

低く囁かれた言葉に体が震えた。そのまま先ほどの状況が嘘のように思えるほど、優しく抱き竦められる。壊れ物を扱うように、優しく。

「そんな変態な麗奈ちゃんもだーいすき。一生守ってあげる。オレの言うことちゃんと聞いてればね。逆らったらどうなるか、わかってるよね?」

首に触れる鎖の冷たさが今は心地良く感じる。その鎖を引かれるまま重なった唇に、もうこの人からは逃げられないのだと思い知らされた。