ねぇ、かみさま。
どちらかといえば人生結構苦労してきた方だと思う。
そりゃあ孤児院暮らしなんて言ったらどんな大人にだって同情されるさ。
でも恋愛にだけは苦労したことがない。
こっちから相手を探さずともまあモテる。
町娘や酒場のバニーガールはもちろん、巡礼にきたおばあさんとかにもね。
ただ一人を除いては…
マイエラ修道院の礼拝堂で祈りを捧げる1人の少女。
腰まで伸びた軽くウェーブがかかった髪、閉じた瞳には長い睫毛がよく映える。
化粧っ気のない顔でも化粧を施したバニーガールよりも断然美しい。
そんな彼女と知り合ったのはここ最近だ。
「こんにちは、ククールさん」
巡礼を終えた彼女はいつもの笑顔で声をかけてきた。
「麗奈が巡礼終えるのを待ってたんだぜ?
今日は美味しい飯でもどうだ?ご馳走するぜ」
こちらもいつもの調子で話しかけてみる。
「もう!ククールさんもちゃんとお祈りしたらどうなんです?神様は見ているんですよ!」
頬をぷくーっと膨らませながら彼女は言う。
うん、かわいい。
「では、また明日来ますね!会えたらいいですね」
そんな笑顔で言われたら期待しちゃうじゃないか。
うまくはぐらかされた気もするけれど。
その後も2週間くらいこんなたわいのない会話をしてははぐらかされ続ける日々が続いた。
少し踏み込んでも一線を引かれてる感じが俺にとっても心地が良かった。
だけどいつの日かぱったりと麗奈が巡礼に来なくなった。
なんの前触れもなかったはずだ。
普段なら女の1人や2人が去ったところで気にも留めないが麗奈のことはひどく気になった。
あの笑顔がもう見れないと思っただけで心が痛い。
気がついたら俺は走っていた。
ドニの町の出身だと聞いたことがある。
ドニまで走ると町の人への聞き込みを始めた。
酒場のバニーガールもいつもとは違う焦燥しきった俺の姿に媚を売ることも忘れて麗奈の家を教えてくれた。
そしてドアを勢いよく開けると机に突っ伏している麗奈の姿が目に入った。
規則正しい寝息を立てているが、頬には涙の跡が残り目も心なしか腫れている気がする。
手袋を外してそっと頬に触れれば大きな瞳が開かれた。
「ク、ククールさん…?」
少ししゃがれた声で名前を呼ばれればたまらなくなって頬に小さいキスを落とした。
一瞬瞳が大きく見開かれたが心地よさそうに目を細めた。
「すまない、嫌じゃなかったか?
良かったらなにがあったか聞かせてくれ」
少しの沈黙の後彼女は立ち上がって口を開いた。
「母親が病気で亡くなったんです。たった1人の家族でした」
麗奈の瞳が潤んだ。
だから毎日欠かさず巡礼に来ていたのだ。
俺の誘いを断って帰った後は看病していたのだろう。
「私、本当はククールさんに声をかけてもらえてとても嬉しかったんです。ずっと見ていたから」
「えっ…」
突然の告白にびっくりして言葉に詰まった。
「ごめんなさい、忘れてください。こんなこと神様に怒られちゃうわ」
ふと顔を逸らす彼女の顎を持ち上げこちらを向かせる。
「俺と一緒に神様から逃げよう」
一瞬驚いた顔をしたものの、麗奈は静かに頷いた。
そのまま目が合って自然とお互いの唇が触れ合った。
「これからは俺が麗奈の神様になってやる。辛いことがあれば俺のところにおいで。もちろん楽しい時でも大歓迎さ」
そう言ってお互い笑いあった。
ドルマゲスがやってきてククールと麗奈がエイト、ヤンガス、ゼシカと共に旅に出るのはすぐ後の話…。
ねぇ、かみさま。
(隣でずっと見守っていて)