01
「え、何……?」彼との出逢いは何とも締まりのない、奇妙な半年前に遡る。
「何してるの……?」
立花 雛は自分の目の前にある異物に恐る恐る声をかけた。
だが、それは何も答えない。
簡単に状況を話せば、男は砂風呂をしている。
これを詳らかに説明すれば、ここは雛の自宅近くの公園。
雛は下校中で、まもなく帰宅できるという手前、通りがかった公園をふと見れば、砂場に砂のお山ができている。
それはきっと子供が遊んだ後の残骸。
──だが、それは異様だったのだ。
目を凝らしてみれば、足が出ている。
つまりは、そこに人間が埋まっているということだ。
雛は急いで駆け寄って覗くと、眠たげではあるが、目を覚ましていた。
彼は美形なのだが、まだ抜けきっていない幼さがある少年。
起きているからこそ、こうして問いかけているのだが、瞬きすらしない。
「ね、大丈夫? 今、砂を退かしてあげるから待ってて」
屈み込み、子供が忘れたのだろう、近くにあった小さなスコップを手に取り、同時に手で払いつつ、砂を取り除いていく。
しばらくして、やっと除去し終えると、白いシャツと黒のハーフパンツを着用した想像通りの少年らしい体が現れた。
お山状態から開放された少年は、ゆっくりと上体を起こす。
「大丈夫? ──ね、なんでこんな状態になってたの? 自分の家、分かる?」
だが、やはり何も言わない。
(うーん、どうしよう……)
(このままってこともできないし)
根気強く同じ質問を、何度も、何度も繰り返す。
幾度となく踏ん張ってはいるが、いい加減に疲弊を感じはじめると、少年がまるで観念したようにぼそりと「お腹、減った」と細い声で回答してくれた。
「お腹……空いたの?」
第一声がそれかと呆気に取られ、堪えきれずについ彼の意思を確認すると、相手はこくりと頷いた。
(家も分からないし……とりあえず、連れてこうかな)
「分かった。じゃあ、私の家で食べよ? 歩ける?」
少年はまた小さく頷いて、ふらふらと起き上がる。
雛も立ち上がり、「ついてきて」と促し帰宅したのだった。