04
「簡単に言えば、特別な血の持ち主だってことだよ、お姉さん。その『黄金の杯』の血を飲むと、いいことがあるらしいんだ」「その……なんで、それが私だって……?」
「ん、それはね……。『黄金の杯』は吸血されただけでイっちゃうんだ。つまりは敏感だってこと」
「そんな……っ」
はずはない──と言いたいが、この胸の中心の高揚は何なのだろうと不審に思う。
そこに手を当ててみても、何か異変があるわけでもない。
(信じたくないけど……)
(この子が確かに吸血鬼なら……私の体も、ホントに『黄金の杯』っていう特別な血の持ち主なのかも……)
「ね……すごく気持ちよかったでしょ?」
ずいっ、と顔を近づけてきたその少年に、雛はビクンッと躯を震わせる。
「俺もね……お姉さんの血、すごく美味しかった。──ね、もっとちょうだい……」
そう言って、少年の唇が重なった。
それは、雛にとって、初めてのキスだった。
ファーストキスは甘酸っぱいだとかたとえられるが、雛のキスの味は甘い鉄の味……。
「な、なっ……」
「ヴァンパイアはキスすることで契約を交わすんだ。これで、お姉さんは俺のもの……」
唇が離れ、顔面を真っ赤に染める雛に対し、少年は恍惚な表情で自分の唇を舐めて、笑ってみせた。
大人の妖艶な男のような表情を見せたかと思えば、少年はすぐに可愛らしい笑顔を作る。
「そう言えば、名前言ってなかったよね。俺はレイ・エインズワース・ダイン。レイって呼んでね。お姉さんは?」
名乗るべきかと逡巡したが、拒否権はないだろうと思えた雛は仕方なく答える。
「立花 雛……」
「ひな……。雛ね」雛の名前をゆっくりと加味するように、譫言として何度も復唱する。
その表情に男の色香を感じさせる。
そうして、レイと名乗る少年は再び人懐っこい笑みを浮かべた。
「よろしく、雛ちゃん」
こうして、ヴァンパイアの少年と『黄金の杯』の人間の話が始まった……。
-To be continued...